6年間で累計販売台数110万台を突破ホンダはつくづくエポックメイキングなクルマを生み出すのが巧いメーカーだと思う。過去を振り返れば、時代を先取りしすぎてせっかくのコダワリがヒットに結びつかないケースもあったが、時間が経ってみると、画期的な提案をもたらす「愛され系の名車」になっているケースも多い。そんなホンダらしいユニークな発想は人の暮らしを支えるクルマを生み出す上で凄い力を発揮することがある。 2011年12月、「New Next Nippon Norimono」をコンセプトにホンダの軽自動車の新しい形である「Nシリーズ」の市販化が開始された。そのトップバッターとして登場したのがスーパーハイトワゴンの「N-BOX」。小粒になりがちな軽のエクステリアに艶やかなクロームメッキを施し、こっくりとした上質なボディカラーをあしらうなど、経済性優先の軽のイメージを払拭。登録車のラインナップの延長線上にお洒落なスモールカーを演出することで、多くのダウンサイザーを呼び込むことに成功した。ミラクルオープンドアをもつダイハツ タントと共に、軽へのダウンサイジング化の波を加速させる立役者となったのだ。 モデル末期まで堅調に売れ続けた初代N-BOXは6年間で累計販売台数110万台を突破するホンダの屋台骨を支えるモデルに成長した。否応なしに期待を寄せられる2代目はホンダ独自の発想がどう活かされているのか気になるところだ。 キープコンセプトに見えるも骨格部分から作り直し一見すると、マイナーチェンジかと思わせるほど初代の雰囲気が受け継がれたスタイリング。とはいえ、細部に目を凝らすと、さり気なくモダンな印象に進化していて、骨格部分までイチから作り直した正真正銘のフルモデルチェンジだ。 キープコンセプトに見える理由は、ひと目見てN-BOXだと分かるデザイン要素が散りばめられているところにある。厚みをもたせたフロントマスク、スライドドアを備えたボクシーなシルエットは広い室内空間を想像させるもの。先代は複雑な線で構成されて、ひとクセあるキャラクターに映っていたが、今回のモデルはムダな装飾が削ぎ落とされて繊細なフォルムで描かれたことで、洗練されたディテールにシフトしている。 標準モデルはシンプルながらも各部の質感を高めてよりモダンに。カスタムは押し出し感を前面に出したやんちゃなキャラクターから、メッキグリルがボディと調和して洗練された雰囲気を纏っている。さらに、先進感が溢れるLEDヘッドライトが全車に標準装備されていて、標準モデルは夜間に点灯すると丸目のリングが浮かび上がる。明るく安全な視界を確保する優れた機能性もさることながら、愛嬌のある目元に愛着がわきそうだ。 ホッとする感覚の標準モデル、引き締まった印象のカスタム先代から大きく進化したのは、ハイセンスなインテリアとママの毎日の生活をサポートするユーティリティ。今回試乗した標準モデルは「N BOX G・L ホンダセンシング」だったが、ドアやルーフの内張などの内装色がベージュを基調としたもので、よく見るとダッシュボード上部はベージュ×グレー。インパネとドアパネルの一部にホワイト系、インパネとドア下部にはベージュといった具合に、ニュアンスが異なるカラーを組み合わせている。 このどこか優しげでホッとさせられる感覚をコーヒーで例えるとすれば、カフェ・ラテといったところだろうか。ドアパネルはウエストラインが高めの位置にあり、乗員の肩のあたりまでを覆うデザインになっているので、シートに座った際の包まれ感に居心地の良さが感じられる。ファブリックシートは手触りが優しいツイード調の素材を用いた2トーン仕立て。よく見るとシートベルトのカラーまでコーディネートされている。 一方で「N BOX カスタム G・EXターボ ホンダセンシング」の内装はブラック基調で引き締まったイメージ。インパネ周りには艶やかなブラウンの加飾パネルを組み合わせているほか、シートはノンターボ車がファブリック素材、ターボ車はファブリックとクオリティを高めたソフトレザー調の滑らかな素材のコンビネーション。背骨に沿う縦のラインは赤みを帯びたバーガンディがアクセントになっている。 新たに助手席スーパースライド仕様を設定実用面では、乗員が座る位置から手を伸ばすと、あらゆる場所に小物が置けるポケットが点在。スマホなどの充電に重宝するUSB端子はタブレット端末の充電にも嬉しい2.5Aが2つと通常のUSBが1つの合計3つを設置。手持ちの音楽を再生しながらドライブするなど、今ドキの生活に不可欠なトレンドを見据えた機能が装備されている。 スライドドアを開けると、ワンステップで乗り込める低床フロアが出現する。後席は左右独立式で190mmのスライド機構が設けられているだけでなく、座面を跳ね上げれば背が高い荷物が積み込めるチップアップ機構を採用。前席はベンチシートの他に、今回新たに助手席スーパースライド仕様が設定されており、助手席は最大で570mmの前後スライドが可能だ。 例えば、雨の日に後席のチャイルドシートに座る子供をケアする時など、一旦降りなくてもスライドさせた前席の隙間に身体を滑りこませて移動するという使い方もできる。子育てのワンシーンを見据えたアイディア装備は使うたびに身体の負担を減らしてくれそうだ。 大きな荷物を積みたいときは、後席の背もたれを倒すと広い荷室高を備えた荷室フロアが現れる。夜間に子供を塾に迎えに行く時など、自転車をまるごと1台積むことも可能。低床フロアは女性や子供の力でも重たい荷物を積み込みやすい。こうした使って嬉しい機能性と洗練されたインテリアは若い子育て世代だけでなく、ライフスタイルにコダワリをもつ幅広い世代の心を捉えていきそうだ。 軽量化の恩恵が感じられる走り天井が高く、スペースユーティリティに優れたスーパーハイトワゴンは実用面で長けてはいるが、じつは走りの面ではその重心の高さやスライドドアの機構をもつことによる重たさで不利な状況に陥りやすい。その点、初代N-BOXは操縦安定性に優れたダイハツ タントや、軽快で低燃費がウリのスズキ スペーシアと比べると、重たい車重や重心の高さによって安定性と燃費の面でネガが目立ちやすかった。 今回のN-BOXはそうした課題を払拭すべく、プラットフォームやボディの骨格構造を一新。わずか6年のモデルライフを経て、一から作り直してみせた。パワートレーン、内外装、走りを支えるシャシーはボディを含めて150kgの軽量化に成功し、そこに快適性などを高める装備70kg分を盛り込んで、差し引き約80kgの軽量化を実現した。これにより、従来よりも便利でお洒落で快適、さらには低燃費まで見込めるということで、ユーザーがクルマに求める価値が大幅に高まっている。 使えるクルマとしての実力がグッと高まったN-BOXだが、家族や友人と移動すると考えれば、走りの質も気になるだろう。先ずはノンターボのエンジンで14インチのタイヤを装着したモデルから試乗してみる。発進では背の高いボディから想像するようなモタツキを感じさせないスムーズな加速を披露。 CVTはごく自然にエンジンの力を引き出していく感覚だ。i-VTECが採用されたエンジンは5千回転を超えると振動とノイズが気になり始めてしまうが、低めの回転数をキープして走れば気にならず、前に進んで行く力も十分に得られる。それ以外に軽量化の恩恵が感じられるのは、車体と身体が無駄に揺すられる感覚が大幅に減ったこと。カーブでハンドルを切り込むと適度なロール感が得られ、腰砕けな走りになっていない。ステアリング操作は一度の切り込みでしっかりと曲がり、早いタイミングでスッと切り戻せる。クルマの姿勢がスムーズに変わっている証拠といえそうだ。 安全、走り、使い勝手、質感など実に欲張りな進化15インチのタイヤを装着したターボモデルにも試乗した。出足の動きは想像していた以上に滑らか。カスタムは従来よりも静粛性が高められており、遠くで響く少し低音のノイズにはビート感があって、なかなか勇ましいフィーリング。 ステアリングの感触は14インチよりもしっかりとした手応えが与えられている。それでいて、クイックに反応する類のスポーティさとも異なる。多少上下動が早くても、引き締まった足の動きを好むスポーツ派からすると、ストローク感のある足に違和感を覚えるかもしれないが、路面の継ぎ目を乗り越えたときのショックの少なさと操縦安定性をバランスさせているという点ではカスタムの15インチでも快適性は高い。子育て層が家族と乗るクルマだと考えれば、同乗者にとっても嬉しいポイントとなるはずだ。 また、家族や荷物を載せて走ることを想定すると、+αのパワーが欲しくなる。その点、このモデルは高速の合流でアクセルペダルを軽く踏み込むと、1Lエンジン並みのトルクと等加速度的にクルマが前に押し出る気持ちのいい加速フィールを与えてくれる。ちなみに、ターボエンジンには軽乗用車で初搭載となる電動ウェイストゲートを採用。CVTは出足のモタツキが苦手という人もいるが、このCVTは出足の気持ち良さと低燃費を両立してくれる。レスポンスのいい走りを求めるケースだけでなく、ママがドライブしても意のままにクルマの動きがついてくる感覚は、結果的に不安の少ないドライブフィールに結びつきそうだ。 スモールカーとはいえ、やはり気になるのは安全性。予防安全面では全タイプに「ホンダセンシング」を標準装備。前走車への衝突回避支援ブレーキのほか、オートハイビーム、誤発進抑制機能は前方だけでなく、後方にも対応するようになった。さらに、これまでN-WGNで軽トップレベルの衝突安全性5スターを獲得していたが、今回はN-BOXも同等レベルの安全性を目指して設計されたそうだ。 生まれ変わったN-BOX。今の時代のスモールカーに求められる衝突安全性能の向上、できるだけ充実させたい予防安全装備の標準化。さらには、ボディの軽量化と新しいパワートレーンがもたらす走行性能と低燃費。そこに上質感を高めた内外装、ホンダのクルマづくりの原点であるクルマを広く使える工夫も見受けられる。このように、実に欲張りな進化を遂げたN-BOXだが、軽の中でもいま最もホットな市場といえるジャンルだけに、このクラスのライバルとなるダイハツ タントやスズキ スペーシア、日産 デイズ ルークスといったモデルがどう対抗してくるのかが楽しみである。 スペック【 N-BOX G・L ホンダセンシング 】 【 N-BOX カスタム G・EX ターボ ホンダセンシング 】 |
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