ツーリングアシストは約10万kmのテストで煮詰めた「スバル レヴォーグ」がマイナーチェンジした。登場後、約3年間で9万5000台以上を販売したスバルの最重要モデルだ。年間国内販売台数12万台を目指す同社にとって、今後も継続的に売れてもらう必要がある大切なモデルだから、毎年少しずつ手が加えられる。社内呼称は登場時がA型、アドバンスドセイフティパッケージが加わった段階がB型、STIスポーツが加わった段階がC型。そして今回がD型。D型では何が変わったか。 スバルによれば、開発は「内外装のリフレッシュと使いやすさの向上」「動的質感の熟成」「先進安全技術のさらなる進化」の3点に力点を置いたそうだ。同社は「インプレッサ」と「XV」に新しい車台「SGP(スバルグローバルプラットフォーム)」を用いて高い評価を得たが、車台の世代としては古くなったレヴォーグがどこまで進化したかを探るべく、静岡県のサイクルスポーツセンターで試乗した。 「先進安全技術のさらなる進化」は、アイサイト(ver.3)に新たに「ツーリングアシスト」機能が加わったということが一番のニュースだ。輸入車や日産車に備わる低速時(渋滞時)の先行車追従と車線逸脱防止および車線中央維持がアイサイトにも備わったのはグッドニュースに違いないが、アイサイトを早くに実用化したスバルにしては導入が遅かったのでは? 熊谷泰典PGM(プロジェクトゼネラルマネージャー)に尋ねると「我々は先進安全技術面で先行しているという自負がありますから、この機能も早く市場投入したかったのですが、リアルワールドで使えるものになるまで徹底的に煮詰めました」との返事。暗に他社製品のようにすぐキャンセルされたり、逆にドライバーに一瞬でも怖い思いをさせるまでシステムが粘ったりしたら意味ないでしょうと言っているように聞こえた。しかし残念ながら、今回はこの機能をテストすることはかなわなかった。 内外装の変更は控えめだがシート分割やミラーに新機能残る2つのうち、まず「内外装のリフレッシュと使いやすさの向上」から見てみよう。第一にマイナーチェンジの定番であるフェイスリフトが実施された。レヴォーグはフロントグリルの下半分を囲うようにUの字型の造形があしらわれているが、それがよりワイドに。ヘッドランプ、フォグランプ、フロントグリルの意匠も変更された。全体的にシャープな印象になったが、すでに買ったオーナーに配慮した抑制的な変化にとどめている。 元々、レヴォーグは「レガシィやアウトバックは大きくなり過ぎだ」という国内のスバリストの切なる声を聞き、彼らの意をくんで開発したところ、スバリストから高評価を得ただけでなく、輸入車オーナーもけっこう乗り換えてヒットしたという経緯をもつクルマ。3年やそこらでガラリとスタイリングを変える必要はないのだろう。前後オーバーハングがどちらも同程度に長い点のみ、シャツもパンツも七分丈みたいな田舎くささを感じさせるが、それ以外は時間がたっても飽きない、よいデザインだと思う。 インテリアは“ベタッとしたシルバー塗装”だった部分の多くが“黒+金属調の縁取り”に置き換えられた。カーナビのディスプレイは拡大して8インチに。外装同様、驚くような変更はない。リアビューミラーが通常の鏡のみならず、カメラによる後方映像を映すこともできるようになった。日産の同様の装置よりもワイドな範囲を映す(画面は日産のほうが大きい)。精度は引き分け。ワゴンはラゲッジ上部まで荷物を積むことがままあるから便利だ。リアハッチ上部に設置したカメラの映像なので、車両直後の死角が減る。このほか、後席シートのフォールディングが従来の6:4分割可倒式から4:2:4分割可倒式になるなど、細かい点ではあるが、着実に使い勝手がよくなる変更が行われている。 乗り心地や静粛性が向上、ステアフィールもリファイン「動的質感の熟成」について。今回試乗して最も感じたのは乗り心地と静粛性の向上だった。A、B、C型のオーナーは、自分たちのフィードバックが反映されたのだと誇りに思ってよいが、むやみに試乗すると悔しい思いをするかもしれない。乗り心地は、端的に言うと前後サスペンションが見直され、路面からの入力に対する反応がソフトになった。ダンパーのリバウンドストロークが延長され、減衰力が最適化され、スプリングの定数がダウン(1.6GT、1.6GT-Sのみ)、リアスタビライザーの直径もダウンするなど、総じてソフトな方向への変更。路面追従性もよくなった。 加えて電動パワーステアリングにも手が入れられた。切り始めからリニアにアシストするよう見直したのと、転舵状態からの戻りをよくしたという。戻りがよいというのは、山道でステアリングを右へ左へと連続して切る場合にありがたい。今回走行したコースは本来自転車用ということもありクルマにとって意地悪なコーナー(奥へいくほどRが小さくなる)が続いていて、リズムに乗って走らせないとうまく走ることができないが、レヴォーグのステアリングフィールは自然で、ところどころ握る手を緩めてステアリングを戻しながらイェイイェイとノリノリで走行できた。 当初、硬い仕様で登場し、やがてソフトになるというのは、乗用車開発のひとつのパターンだ。特にスポーティーを謳う車種の場合、そのことを際立たせようとするあまり硬いセッティングで登場することが多いが、ソフトだからスポーティーではないということは全然ないのだ。と書いたところで「そのモデルが出たときに言えよ!」という心のブーメランが僕の心に刺さった。 静粛性は一発で感じ取ることができるレベル。旧型から新型へ乗り換えた際、イヤフォンのノイキャンスイッチを入れた時のような変化を感じた…というのは大袈裟だが、はっきりと違うのは確か。「静粛性向上に抜け道はなく、必ずお金がかかる」と熊谷さん。前後ドアガラスの板厚を増したり吸音材を増すという地道な対策で静粛性を上げたという。1.6Lのほうが効果が大きいとのことだったが、体感上は2L車を試した際により静粛性が増したように感じた。 充実した先進安全装備、1.6Lは実燃費やCVTが進化パワートレーンは変化なし。元々2Lはどこからも不満の出ないパワーをもっていて速い。1.6Lは速いわけではないが、遅いわけでもない。レギュラーガソリン仕様という点がユーザーフレンドリーだ。販売の8割を占めるのもむべなるかな。カッコ一緒だしね。1.6LのCVTにこれまで2Lのみに採用されていたステップ変速制御が取り入れられた。従来、アクセルを深く踏み続けると、エンジンは高い回転数でとどまって、CVTのシームレスな変速で速度が上がっていったが、新型はギアのあるATのようにステップを(擬似的に)設け、ドライバーの違和感をなくした。これによって1psも上がったわけではないし、効率面ではむしろわずかながら落ちるが、人間の感覚を優先したのだという。確かに乗り比べると、新型のほうがリズムをとりやすく、その気にさせられた。 先進安全技術のさらなる進化はアイサイトの進化だけではなく、いくつかの機能が加わった。「RAB(リバースオートマティックブレーキ)」は、読んで字のごとく、後退時に障害物の接近をディスプレイ表示と音で段階的に警告した後、最終的に自動ブレーキが作動して衝突を回避する。狭い駐車場に入れる場合には背後の壁ギリギリまで後退することがあるが、そんな時に誤動作しないよう、自動ブレーキはギリギリまで作動しない。このため、かなり強い制動力で一気に停止する。蓋のないカップに入れた飲み物が確実にこぼれるレベル。けれど衝突よりずっとマシだ。 レヴォーグD型は小刻みな進化を積み重ね、今回もまた過去最高のレヴォーグになったのではないか。SGPを使うインプレッサのように軽やかさと重厚さを同時に感じさせるような印象はないが、これはこれで問題なし。この先も十分商品力を維持できるはずだ。 S4にツーリングアシスト、STIはメカニズム系も進化レヴォーグと同じタイミングで「WRX S4」と「WRX STI」もマイナーチェンジした。S4にはレヴォーグ同様、アイサイトにツーリングアシストが加わった。MTしかないSTIにはアイサイトは装着不可。STIは上級のタイプSに19インチホイールがオプション設定され、小規模のフェイスリフトとあいまって、かなり精悍なルックスに。会場にはオプションの巨大なリアスポイラーを付けていない245/35R19サイズのタイヤ装着車があったのだが、これがまた見飽きたWRブルー・パールではなくダークグレー・メタリックだったのでとても大人っぽく見えた。 最高出力308ps/6400rpm、最大トルク422Nm/4400rpmを発揮する2L 4気筒ターボエンジンに変更はないが、相変わらずパワフル。突如ランエボが復活でもしてこない限りチューンナップは不要だ。レヴォーグより一段も二段も頑強そうなボディを感じながら、取り付け剛性の高いステアリングホイール、シフトレバー、3つのペダルを操作してハイパワーを御するのは、古典的だが永遠に古びることのない運転の喜びだ。 新型は回頭性を高めることと、フラットで快適な乗り心地を目指したという。また初期制動力を高めるべく、前後ともブレーキディスク径が17インチから18インチへ拡大し、フロント2ピースの4ポット、リア2ピースの2ポットから、同モノブロック6ポット、同モノブロック4ポットに変更された。 電子制御化されたSTIのマルチモードDCCD正直に言えば、2周の周回では回頭性の変化はわからなかった。ブレーキの初期制動についても、元から制動力抜群だったけどなという印象しか残らなかった。ただ、いくら回頭性が上がっても、日本サイクルスポーツセンターに2つ3つある、進むにしたがってRが小さくなる管楽器みたいなコーナーで、進入のアングルやスピードを間違えてアンダーを出してしまうことはある。その時にFWDやRWDならおっとっととアクセルを弱めて速度が落ち、横方向のグリップが回復するのを待つしかない。その点、WRX STIならそこからアクセルをじわりと踏み増せば、フロントが車体を引っ張るように前へ進む。 その際、両手にステアリングを通じてゴリゴリと横滑りが減ってトラクションがかかる様子が伝わってきて、思わずDCCDよありがとう! と叫びたくなる。そういえばDCCDも従来機械制御だった部分を電子制御化し、よりきめ細かい差動制御を行うようになったそうだ。まあもちろん、正しいアングルとスピードでコーナーへ進入したほうがずっとスムーズで速いのだが。プロでも長く走ればミスもする。そうしたドライバーの清(いい操作)濁(悪い操作)を併せ呑むWRX STIは正真正銘のラリーカーなのだろう。 三菱自動車のC・ゴーン会長はランエボ復活を検討しているそうで喜ばしい。スバルにとっても福音のはずだ。WRX STIも進化し続けて、さまざまなジャンルの競技にも出ているが、にもかかわらずここ最近はいったい何と戦っているのか、いまいちイメージしにくいからだ。がっぷり四つのライバルがいてこそ進化のスピードは増すというもの。ランエボとの切磋琢磨は、平成のカローラ対サニーやコロナ対ブルーバードみたいなもので、互いが互いを必要としている。 スペック例【 レヴォーグ 1.6GT アイサイト 】 【 WRX S4 2.0GT アイサイト 】 【 WRX STI 】 |
GMT+9, 2025-6-24 16:08 , Processed in 0.130131 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .