2025年までにEVを1/3、エンジンを2/3にするアウディのTechdayに参加してきた。7月11日にスペイン・バルセロナでワールドデビューした次期型「A8」に搭載される先進技術を取材することがTechdayの目的だ。すでにボディに使われる新素材のワークショップは終わり、今回はパワートレーンが主役だ。送られてきたメニューを見ると「内燃エンジン」と書かれている。EVとPHEVが時代のトレンドだが、あえて「エンジン」を主題にしたアウディの狙いはどこにあるのだろうか。 アウディ A8は「メルセデス・ベンツ Sクラス」や「BMW 7シリーズ」をライバルとするフラッグシップだ。A8ほど孤高な高級車はないと思う。「アウディ 100」の流れを汲むA8は90年代初頭に登場したが、始めからオールアルミボディで開発され、クワトロシステム(FWDもあった)を持つなど、あらゆる意味で先進的だった。 最近の高級車のトレンドは電気駆動と自動運転で、言い換えれば電動化と電脳化だ。EVで知られるテスラがこのコンセプトを鮮明に打ち出し、先進技術を独り占めしている感がある。アウディにしても、富裕層を惹き付けるには電動化と電脳化は必須条件と考えているはずだ。今までのライバルはメルセデスとBMWだったが、これからはテスラもライバルとなるだろう。 アウディは2025年までにEVとPHEVを1/3、エンジン(TFSI&TDI)と48Vモーターを組み合わせた車両を2/3にすると公約している。したがって2030年以降も数的には内燃エンジンが主力であることに変わりはない。従ってエンジンをクリーン化し、効率を高める(燃費向上)ことはとても重要な技術課題なのだ。 2017年9月から採用される新しいモード燃費の「WLTP」を採用し、さらに「RDE(リアル・ドライブ・エミッション)」にも対応する。ディーゼル問題で失った信頼を取り戻すことができるかどうか、アウディの挑戦が続いている。 CNGエンジンもガソリンエンジンもパワーは変わらない!?アウディはずっと前から天然ガス自動車(CNG車)にこだわってきた。ニュルブルクリンク24時間レースでも「フォルクスワーゲン シロッコGT24CNG」が走ったことがあったが、開発にはアウディが深く関わっている。数年前からアウディはCNG車の開発に力を注ぎ、A3ベースのCNG車「A3 g-tron」の普及をもくろんでいる。(カービューでも「A3 g-tron」の試乗記をレポートした。) 「A3 g-tron」は1.4LのTFSIエンジンをベースに開発されたもので、ボディはゴルフと同じMQBプラットフォームを使用している。後席下に高圧タンクを搭載し、ガソリンと天然ガスの2種類の燃料を使うユニークな技術だが、CNGは環境に優しいというメリットを十分に活かしている。 今回試乗した新しいCNG車はA4ベースの「A4 g-tron」。エンジンは縦置きの2L TFSIだ。つまりMLBプラットフォームを使うことになるが、基本原理は「A3 g-tron」と同じである。「A4 g-tron」が登場したことで、今後MLBを使うモデル(A8・A6・Q5など)にも拡大できるという。エンジンは「170PS+270Nm」のパフォーマンスを持っているので、アウトバーンを200km/hで走ることも可能だ。 エンジンをスタートさせると、高圧タンクから天然ガス(メタンCH4)がシリンダーに噴射され、空気と混ざることで燃焼する。メタンは燃焼速度が速いので、エンジン音の違いを感じるが、ガソリン燃焼と似ているので、天然ガスが無くなるとガソリン燃料に切り替わり、同じエンジンで燃焼させることが可能だ。天然ガスはカロリーが少ないのでパワーダウンしやすいが、ターボのノッキングにはめっぽう強いのでブースト圧を高めて、ガソリン燃料とのパワー差をなくしている。だから、どっちの燃料でエンジンが動いても体感できない。0-100km/h加速はどちらも同じ8.6秒で駆け抜けることができる。 アウディは再生メタンでCO2排出量マイナス80%を狙うA4 g-tronに搭載されるガソリン燃料は25L、天然ガスは19kgだ。この2種類の燃料を使って80Km/hぐらいで走ると950Kmの航続距離となる。この距離は魅力的だし、CO2排出量はガソリン使用時に136g/Km、天然ガス使用時に109g/Km(欧州混合モード)となる。しかも、天然ガスの正体はメタンガス(CH4)なので石油由来とは別のプロセスで合成することが可能だ。 実は、アウディがCNG車にこだわる理由はここにある。アウディがこだわってきたのは、家畜の糞や汚泥から作るバイオメタンと、自然エネルギーから作る合成メタンなのだ。特に後者に関しては、再生エネルギーの太陽光や風力発電で水(H2O)電気分解して水素(H)を作り、工場などから排出される二酸化炭素(CO2)と反応させると合成メタンが作れる。日本ではパワー・トゥ・ガス(PtG)と呼ばれるシステムを、アウディのノウハウを参考にしながら日立造船が実証実験を行っている。 アウディの戦略では、電気と水素と合成メタンを供給できる再生可能なエネルギー・チェーンに、「e-tron(電気自動車)」と「h-tron(水素燃料電池車、2020年代前半に市販化)」と「g-tron(メタン)」の3つのパワートレーンが利用できる。しかもCO2を再利用するとCO2排出量はマイナス80%となる。まるで夢のような話だが、北ドイツにあるアウディの実証プラントがすでに稼働している。再生可能なエネルギーから作られたメタンは100Km走行で4ユーロ以下の料金となっている。再生可能な電力よりも安いメリットがある。 実際の走行性能は2L TFSIと全く同じ感覚で走ることができる。再生可能なエネルギーが利用できれば、内燃エンジンは持続可能なパワー・プラントとなるのである。アウディは2025年以降に再生可能なエネルギー(電気・水素・メタン)を本格的に拡大する計画なのだ。 ガソリンエンジンはBサイクル、ディーゼルも死なないアウディの内燃エンジンの基本はターボをベースにするTFSI(ガソリン)とTDI(ディーゼル)だ。以前、内燃エンジンをすべて電動化すると聞いて驚いたが、これには48Vを使ったマイルドハイブリッドも含まれている。この簡易型ハイブリッドシステムでも0.7L/100km燃料を節約できるそうだ。マイルドハイブリッドではオルタネーターがスターターを兼ね、ガソリンエンジンはターボとアトキンソンサイクルを使うBサイクルが主力だ。 吸気バルブを早めに閉じると圧縮比と膨張比が変わり、熱効率を高めることができる。すでにS4に搭載される3L V6ターボはバンク内にターボを搭載するコンパクトなV6エンジンで、いわゆるアウディ流のBサイクルが採用されている。4L V8ターボはポルシェが開発するものをアウディが利用する。ポルシェとアウディの協業が進んでいる。 最後に、日本では欧州のディーゼルは死んだと考える人が少なくないし、アメリカでのディーゼル販売を取りやめた欧州メーカーは多い。だが、アウディのエンジニアは「アウトバーンを180km/hで走って燃費のいいエンジンはディーゼルしかない」と断言する。たしかにEVもPHEVもCNG車もガソリンターボも超高速は苦手だ。ル・マン24時間レースで培ったアウディのディーゼル技術は必ず復活する。「SQ7」で採用されたディーゼル用補助的電動過給器は48Vのご利益がある技術だ。 CO2は燃料側(合成メタン)で対応し、エンジンは排ガスをいかにクリーンにできるのか(過給やBサイクル)がアウディの内燃エンジンのコア戦略だった。次期型A8は秋に正式に市販されるが、プラグイン・ハイブリッド車とディーゼル車に注目しておきたい。 |
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