目玉は安全運転支援システムの追加ホンダの主力コンパクトカーであるフィットが、この度マイナーチェンジを行なった。そして今をときめく“綾野 剛”や“二階堂ふみ”を起用して、大々的にCM展開していることからもわかる通り、ホンダはこれを単なる化粧直しではなく「フルモデルチェンジにも匹敵するビッグマイナー」と考えているようだ。 その目玉となるのは、ここ数年で急激に進化を遂げた安全運転支援システムの追加。具体的には「Honda SENSING(ホンダ センシング)」の全8機能が、ガソリンおよびハイブリッドモデルに搭載された(グレード別)。特にステアリング制御を伴う車線維持支援システム「LKAS」と、前走車との車間距離を適正に保ちながらオートクルーズできる「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」の搭載は、現行のフィット3前期型オーナーにとって羨ましい装備だろう。 さらに全てのエンジンに細かい改良の手が加えられ、そのボディには骨格から手が入り、外装では意匠と空力性能、内装には各タイプのインテリアカラーが用意された。というわけでここからは、今回試乗した4台のインプレッションと共に、その進化について掘り下げてみよう。 静粛性にトコトンこだわった1.5リッターの自然吸気エンジン「i-VTEC」を搭載する「ハイブリッド・S」は、今回のマイナーチェンジで牽引役となるモデルだ。乗り込んでまず嬉しくなるのはドアをバシュッ! と閉めたときの“密閉感”の高さで、走り出してからもその静けさがキープされる。そしてこの静粛性こそ、今回ホンダがトコトンこだわった部分だとボクは感じた。 たとえばフロアに貼り込まれる遮音シートは、全車共通でその厚みが2mmから3mmへと引き上げられている。さらにこのハイブリッド・Sと「RS」、そして「15XL」のダッシュボードには、広範囲にわたって防振・防音用のインシュレーターが貼り込まれた。またハイブリッド・S専用の処置としては、エンジンマウントや吸音材、フロアアンダーカバーの材質や形状が最適化され、フロントガラスは遮音ガラスに、フロントコーナーガラスは板厚を増やすという徹底ぶりなのである。 ただホンダのハイブリッドは「パラレル式」といって、あくまでエンジンが主役。だから発進時にモーターのみで走行するような“EV的無音感”を期待すると、途中からすぐにエンジンが“ブーン”と動いて、とても小さな音なのだけれど、少しだけ肩すかしを食らう。 また高速道路での合流や追い越し加速では真っ先にエンジンが出力を引き出すから(エンジン回転数は4000rpmくらいに跳ね上がる)、「ここでもうひと押しモーターがプッシュしてくれたら…」と思ってしまうのも事実。 1.5L i-VTECは内燃機関として見ると抜群に静粛性が高く、振動も少ない秀逸なエンジン。しかしこれだけ車内空間が静かになると、やっぱりその存在感は立ってくる。EVやプラグインHVの静粛性に対抗するなら、極端に言えばそのサウンドが完全に聞こえなくなるほど、エンジンコンパートメントの遮音性を高めてしまってもよいのではないだろうか? と個人的には思えた。 高出力なパワーユニットとソフトな足回りがミスマッチまた走りのコンセプトは、もう少しだけ煮詰めて欲しかった。というのもその足回りは、システム出力で137psを発揮するパワーユニットに対し、ちょっとソフトなのだ。タイヤは後述する「RS」と同じスポーティな16インチタイヤ(ダンロップ SP SPORT MAXX 2030)が与えられているのだが、このグリップに対してロール及びダンピング剛性がやや低く、カーブがキツくなるほど自然に曲がりにくくなる。タイヤはグリップしているのにステア応答性が鈍くなり、トールボディが“おっとっと”となってしまうのだ。またバネ下でタイヤの収まりが少々悪い一面もある。 回生ブレーキの制御はかなり頑張っていて、違和感は少なくなった。モーターのベアリングを強化したという電動パワステのフィーリングもかなり自然。このクラスにして7速i-DCD(デュアルクラッチトランスミッション)とパドルシフトを備えるあたりも本当に見事。それだけに、この走りを支えきれないフットワークにもったいなさを感じてしまう。 これはホンダが「スポーツ・ハイブリッド」といいつつこのハイブリッド・Sに、上質な乗り味を与えようと欲張ったからだと思う。特に「S」ボタンを押して動力性能を先鋭化したときの走りはそれが顕著だ。フリードやヴェゼルといったより大きな車種にも使われる1.5L+ハイブリッドのパワフルさが(なにせスポーティモデルのRSよりも高出力なのだ)、乗り心地を強く意識したソフトな足回りとミスマッチを起こして「スポーツ」なのか「上質」なのかわからなくなってしまうのである。普通にダラダラと乗るなら、文句はないのだけれど…。 だからボクは、これならいっそのこと、RSと同じ足回りを付けてしまえば良いのではないか? と思った。もっと言えばさらにお金をかけて、このハイブリッドの素晴らしさと乗り心地を両立するようなプレミアムな足回りを用意すればよい。というのもフィットのハイブリッドシリーズは「ダウンサイザー」と呼ばれる上位車種からの乗り換え組がかなり多く購入するという。だから多少のお金を掛けても、その走りを完璧に磨くべきだと思う。というわけでその大仕事は、ホンダ・アクセスや無限に期待したい。 ハイブリッドの快適な乗り味を楽しむなら「L」同じハイブリッドでも「ハイブリッド・L」になるとタイヤもワンサイズ小さな15インチに、銘柄も燃費性能を意識したブリヂストン「ECOPIA EP150」となり、この傾向に拍車が掛かるかと思われたが、むしろバネ下でのタイヤ&ホイールの落ち着き具合はこちらの方が自然だったのは面白かった。 もちろんハンドリングの応答性はさらに劣るのだが、7速DCTの変速機構がパドルはおろかシフトノブにすらないことから、自然と穏やかに走るようになってしまい、結果的に走りのバランスが取りやすかった。 ただ渋滞緩和や速度コントロールのためにも無用なフットブレーキを踏まず、シフトダウンを有効活用することは必要なのではないか? と疑問に思い、これをエンジニア主任氏に問い詰めると「エンジンブレーキを多用すると、回生ブレーキによる充電が困難になってしまう」という回答が得られた。……なるほどなぁ。 総じてこの「L」は、「S」よりもゆる~くフールプルーフにハイブリッドの快適な乗り味を楽しむグレードだと言えそうだ。落ち着いたプレミアムブラウンのインテリアからも、それは納得できる。 明朗快活、走りに迷いがない「RS」あちらを立てればこちらが立たず。そんなコンパクトカーの難しさをスカッとさせてくれたのは、やっぱり「RS」だった。とにかくこのグレードは明朗快活、シャシーとエンジンの関係にバランスが取れており、走りに迷いがない。 足回りは高められたサス剛性に対してダンピング性能も高められ、張り感のある乗り味をもって小気味よく操舵に反応する。それでいて路面からの突き上げはきちんと吸収し、乗り心地も極めて爽やかである。ロールスピードは適度に俊敏で、高いGに対しては懐深くこのボディを支えきる。やや初期操舵に反応の過敏な一面があり、もう少しだけ直進安定性を上げて欲しいと感じたが、全体としては非常によくまとまっている。 対してエンジンは2000rpm程度の低い回転からでもしっかりトルクを引き出し、ノッキングすらしないで速度を上げて行く。そしてこれをカッチリとしたフィーリングの6速MTで引っ張れば、雑なバイブレーションなど一切ないままスカーン! と回っていく。ギア比がそれほどショートではないので6700rpmまでエンジンを回しきるのは難しいが、そこまでせずとも交通の流れはリードできる。 これこそマルチパーパスムーバーでも、走りの愉しさには一切妥協しないホンダの走りだろう。スポーツというと猫もしゃくしも「タイプR」を連呼するけれど、この日常域における気持ち良さこそがホンダの真骨頂。「RS」なんて名前を付けるから「レーシングスポーツじゃないのか!」と言われ「ロードセーリングです」なんて言い訳をしなければならないわけで、いっそのこと「SiR」にすればよいのに! とボクは思う。 RSに次ぐホンダ味。バランスのいい「13G」ちなみに当日は、会場の隅にひっそりと一台用意されていた「13G・ Fパッケージ」にも試乗した。100psの出力に14インチタイヤを履かせたその乗り味は、1010kgとちょっとだけ軽いボディを軽快に走らせ、これもRSに次ぐホンダ味。その足回りも、プレミアム感こそ希薄でロードノイズも結構入ってくるが、全体のまとまりが質素にしてバランスよく、うまい定食屋の朝飯みたいな乗り味だった。 トランスミッションの制御はCVTにありがちな滑り感を上手に抑えており、全開加速時でも速度とエンジン回転上昇のズレ感が少ない。車両価格は142万8840円、ハイブリッド・Lと較べて65万円以上の価格差を考えると、これもフィットにおける真の姿だと感じた。 だから本音を言うとフィットはこの1.3LモデルとRSがあれば良いと思うのだが、それ以上に世間のニーズは多様化している。そしてその商品性としては、やっぱりハイブリッド・Sが高い魅力を持っているのだと思えた。 クラストップの使い勝手と広い室内を軸に、若者から子育ての終わった大人まで、幅広い年齢層に支持されるフィット。そのビッグマイナーは成功したのだと思う。 スペック【 フィット ハイブリッド・L ホンダ センシング 】 【 フィット RS ホンダ センシング 】 |
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