アウトバーン、アウトバーン、アウトバーン!ドイツの旅の愉しみといったら何だろう。ビール、ソーセージ、シュパーゲル、古城巡り、はたまたブンデスリーガ観戦? いや、クルマ好きなら一も二もなくアウトバーンではないだろうか。 何しろ規制区間はあるものの、ご存知の通り多くの区間で速度無制限! もはや替え玉無制限や90分無制限飲み放題などにはまったく関心がなくなったという諸兄姉であっても、速度無制限という響きには年齢に関係なくトキメクはずだ。かくいう筆者もその一人で、今回ドイツに行くことが決まってからも頭の中はアウトバーン、アウトバーン、アウトバーンだった。 もうひとつの愉しみは、VWのディーゼル車を試すこと。ディーゼルが日本でブームを迎える遥か前から、「ドイツに行ったらVWのディーゼル、フランスに行ったらプジョーのディーゼルに乗るべきだね。すごくイイから~」と多くの自動車ジャーナリストが口を揃えて言っていたことが脳裏に残っているからだ。しかも、少しばかりのドヤ顔とともに。 今や日本でも、マツダやメルセデス、BMW、ボルボにPSAグループなど、多くのディーゼル車に乗ることができる。不幸なことに乗ることは叶わないでいるが、もしかしたらVWのディーゼルは、残された最後の果実かもしれない。少し大げさだが。ともあれ期待に胸を膨らませつつ、ジュネーブからドイツへ飛んだ。 豪雨でも室内は平穏無事のトルクフルドライブ諸々の取材を終え、いよいよVWのディーゼル車をドライブする時間がやって来た。レンタカーとして選んだのは、150ps/340Nmを発生する2.0Lディーゼルターボを積んだ「パサートヴァリアント 2.0 TDI」。選んだといっても、3人と3人分の大きなスーツケースを積もうと思ったら、サイズ的にこれがベストだっただけの話。計算通り、それらは余裕しゃくしゃくで飲み込まれていった。 レンタカーは当然ながら左ハンドルで、嬉しいことにマニュアルトランスミッションだった。本当は日本に入る可能性が高いオートマの方がより参考になるのだろうが、個人的な欲望が余裕で勝ってしまった。クルマ好きの諸兄姉なら、きっと理解してくれるはず。 ハンドルを任されたルートは、ザクセンリンクから北北西へヴォルフスブルクに向かう途中の残り150キロほどの地点から。イグニッションオンとともに、ガソリン車とは明らかに異なる重低音が響く。クルマもやる気満々ではないか。さっそく走り出す。が、外はすでに闇夜、しかも生憎の雨というか豪雨だった。 右側通行かつ久しぶりの左ハンドルMTということで、しばらくは運転感覚を取り戻すことに注力していると、ほどなくアウトバーンに突入した。さっそくアクセル全開! といきたいところだったが、120km/h制限の区間が延々と続く。とはいえ、60km/hの状態から120km/hまで一気に加速するトルク感、そして極低回転域で粛々と巡航するサマは、やはりディーゼルならではの美点だ。 ドライビングフィールは極めて良好。ギアを引っ張って力強い加速を楽しむのも良し、横着して高いギアのまま走るのも良し、自由気ままだ。トルクフルなディーゼルエンジンが、あらゆるシーンでドライバーのわがままに楽々と付き合ってくれる。 静粛性も高い、、はずなのだが、はっきりとした実感がない。そう、雨がちっとも止まないのだ。耳に届くのはクルマに叩きつける雨の音と時おり遠くで響く雷鳴、そして助手席に座る同行者の大きなイビキだけだった。視界もままならず、走るにはリスキーな状況が続いていたが、室内は至って平穏無事だった。 アウトバーンではやはりGTEよりディーゼルが有利翌日は「パサート GTE ヴァリアント」を借り出し、ヴォルフスブルクから進路を東に向けて、ベルリンまでの往復450kmを走った。大盛り上がりのWBCをまったく観ることができない悔しさをちょっとでも晴らすべく、ブンデスリーガを生観戦するためだ。 さっそくエンジンスタートボタンを押す。クルマは目覚めたが、昨晩の「TDI」とは違ってやる気を感じられない。それはそうだ、このクルマはプラグインハイブリッド。そのかわり、深夜だろうが早朝だろうが近所に気兼ねすることもない。充電さえしておけば約50kmも電気だけで走れるGTEは、爽やかな朝の出発をより清清しいものにしてくれた。 ほどなくしてアウトバーンに乗り、アクセルをぐいっと踏みこむ。速度無制限区間のあるアウトバーンだからといって、見通しは良いものの特別に路面状況が良いわけではない。むしろ日本の高速道路の方がこと路面条件に関しては良い。段差やうねり、ときにハンドルを取られそうになる轍などが連続し、ボディは上下動に揺すられネジレを繰り返す。 そんなアウトバーンでは、パサートの高いシャシー性能が際立った。それは昨晩の「TDI」も同様で、段差を乗り越えた後の収束が早く、ハンドリングには落ち着きがあり、180km/hオーバーの速度域でも不安を覚えるようなことはない。 燃費ではディーゼルの圧勝だ。GTEは12km/L台半ば程度だったが、ディーゼルは20km/Lに迫る好燃費を刻んだ。ハイスピード時での静粛性にも大差はないように感じられ、むしろGTEで加速する時のブーンというモーター音の方が気になる。加速の伸びもディーゼルの方がシームレスだ。 その一方、GTEモードでエンジンとモーターが最大限のパフォーマンスを発揮したときの重厚感ある加速は、ディーゼルとはまた違った味がある。どっしりと座ったステアリングや聞かせるサウンドチューンも相まって、クルマのやる気がひしひしと伝わってくるようだ。 旅も後半、ACCのありがたみを痛感するさらに翌日は、用もないのにヴォルフスブルクからハノーファーまでの往復180kmを走った。なぜ走ったかというと、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を試すことをすっかり忘れていたからだ。 実のところアウトバーンは、想像以上に加減速を求められるシーンが多い。無制限から130km/h、100km/h、80km/hへの減速、あるいは反対に80km/hから無制限への加速など区間ごとのリミッターが細かく、どこかしらに設置されているカメラがスピード超過のクルマをゴルゴのごとく狙っている。走り慣れていないツーリストにとっては、ゴルゴの潜伏場所など知る由もない。 そこで活躍するのが、ACCだ。アウトバーンでは日本とは違い、追い越し車線でもたもたしているクルマやふらふら~っと車線変更してくるトラックなどはいない。しっかりとした秩序と合理的な流れがあるから、ACCも急な制御を迫られないで済んでいる。ブレーキ操作もそこらのドライバーより上手い。ステアリングのスイッチ操作はやや忙しい場面があるものの、ラクにロングドライブをこなせるし、レーンキープアシストを併用すればさらに運転の負荷は減る。旅の疲れもたまっていたため、普段はほとんど使わないACCのありがたみがことのほか身にしみた。 VWのエンジニアの中には、本拠地のヴォルフスブルクが田舎過ぎることを嫌い、ベルリンから往復450kmを毎日のように通っている方もいるという。ドイツ勢が“自動運転”に精力的で、かつ技術的に先を行っているのも、本当に必要としているユーザーが多いからなのかもしれない。 VWのディーゼルがいよいよ日本導入へ宿泊していたホテルに充電設備が無かったこともあり、パサートGTEはハノーファーの街でEモードを使うことができなかった。アウトバーンでの燃費を犠牲にしてバッテリーチャージモードを選び、電力を増やしておくべきだったか。いや、それでは本末転倒だろう。このあたりにPHEVのジレンマがあるが、一回の走行距離が短い日本ならば、街ではEVに徹することもできるPHEVのメリットを享受できるだろう。もちろん、自宅やオフィスなどに充電設備が確保できることが前提だ。 こうした使用環境を鑑みると、ドイツ市場であってもEVやPHEVの普及が一気に進むとは考えにくい。一方で、約50万円にもなるインセンティブや、ボーナス扱いで会社が一部を負担して個人が使うというドイツで多く見られる購入スタイル(個人にも会社にもメリットがある)などを考えると、じわじわとだが確実に進む可能性は高い。とはいえ、しばらくのメイン市場は北欧や中国だろう。 パサートTDIとGTE、現時点ではTDIの方に多くの魅力を感じる。そうは言っても日本では乗れないではないか! という方に朗報がある。ジュネーブショーでのあるインタビューの席で、VWの国際マーケティングを束ねるユルゲン・シュタックマン氏が、「日本でもディーゼル導入を発表します」とさらっと言ったのだ。そして、その言葉を聞いた日本法人のティル・シェアVGJ社長が、「あっ……(それはまだ言っちゃだめなのに)」という表情を見せたことで、さらに真実味を帯びた。 実際にはまだ国交省や環境省などとの調整が残っているとのことだが、まずは「パサート/パサートヴァリアント TDI」から導入する予定。そう遠くない将来には、「ティグアン TDI 4MOTION」も期待していいだろう。 今年前半はフェイスリフト版の「新型up!」や「新型ゴルフ」の日本導入を予定しているVWだが、秋の東京モーターショーぐらいには待ちに待った「ディーゼル導入」をアナウンスしてくれるはずだ。 スペック例【 パサート GTE ヴァリアント 】 【 パサート ヴァリアント ブルーモーション 2.0 TDI 】 |
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