セダンにあったキャラクターラインが消えた既に春の陽気を漂わせるバルセロナ空港の駐車場に、整然と並べられた新型「Eクラス クーペ」をひと目見た瞬間、「なるほど」と、ひとりごちた。 なぜならば既に「Cクラス クーペ」が存在し、その上には「Sクラス クーペ」がある。その間を埋めるほど、クーペのラインナップは必要なのか? と思っていたし、これまでの歴史を振り返れば、先代のEクラス クーペはCクラスベースだったし、クーペ自体がCとEの間に置かれる位置づけだったからだ。 しかし、ひと目見た瞬間に、その伸びやかで美しいスタイリングと、仕事にもプライベートにも使えるギリギリの汎用性を雰囲気として備える辺りに、なるほどと思えた。事実、Cクラス クーペではビジネス臭は薄く、Sクラス クーペは浮世離れ感がある。そう考えると、 Eクラス クーペは実に絶妙な落としどころにあるモデル、と言えるわけで、ここが納得感の最大の理由となる。 それにしても目を引くのはサイドから見たときの伸びやかさだ。以前のEクラス クーペもそうだったが、Bピラーがないゆえにウインドウグラフィックはルーフに沿って綺麗な円弧を描いている。そしてもちろん、ルーフラインの美しさも言わずもがな、だ。 だが、今回のEクラス クーペで最大の特徴といえるのは、セダンにはあったボディのサイドを走るキャラクターラインが、すっかり消滅したことだ。セダンではフロントフェンダーからサイドドア、そしてリアフェンダーへと明確なキャラクターラインが存在しており、それがショルダーラインを際立たせていた。 しかし、クーペではその「線」が消滅して、「面」によってショルダーラインを作り上げている。これについて担当デザイナー氏は、「クーペというモデルだからこそ、純粋な彫刻のような表現を用いた」という旨の発言をしていた。そして話の中では「purity(純粋さ)」という言葉が頻繁に使われていたのが印象的だった。 直4ターボは実用エンジンだがパワーは十分一方でインテリアは、基本的に「Eクラス セダン」と同じ造形が展開されている。これは現行 Sクラスに始まったもので、メーターはナビ画面までをつなぐ全面液晶となり、先進的な雰囲気を醸し出すものとなっている。 ただしクーペの場合、セダンと異なる部分がひとつある。それがエアコンの吹き出し口の造形だ。セダン/クーペともに筒状のカバーの中に吹き出し口があるわけだが、セダンは数枚の桟が入っているのに対して、クーペは数多くのフィンが内側に入っていくようなエモーショナルな造形を手に入れた。見た目の印象も大きく変わっており、クーペにふさわしいパーソナルな雰囲気に華を添えている。 一通り内外装を眺めたのちに、キーを受け取って試乗スタート。まず我々に割り当てられたのは「E300」というモデルだ。2.0Lの4気筒直噴ターボ・エンジンを搭載し、9速ATを介して後輪を駆動する。スペックは最高出力が245ps、最大トルクが370Nmで、0-100km/h加速は6.4秒だ。 4気筒エンジンは決してエモーショナルではない。いやむしろ、かなりビジネスライクでサウンドは無味乾燥といって良い。回転を上げても、気持ちいいという感覚はあまり得られないだろう。しかし4気筒ながら全く不満を感じない動力性能が備わっており、必要十分以上の加速を味わうことができる。さらに街中などでは、3000回転以下で全てが賄えてしまうフレキシビリティがあって扱いやすさも抜群だ。この辺りはいかにもメルセデス・ベンツらしい部分で、色気はないが実用性に不満なし、をきっちりと実現していたのだった。 ちなみに試乗車は、オプションのエアサスペンションを備える他、タイヤ&ホイールは20インチサイズとなる。おそらく標準では、メカサスに18か19インチの組み合わせとなるはずだ。 Cクラスとは乗り味で格の差を見せたエアサス仕様早速空港からスタートすると、20インチと思えぬ乗り心地の良さは、やはりエアサスの効果に間違いない。しかもその乗り味は確実にEクラス セダンの豊かさと優雅さを受け継いでいるもので、この辺りがCクラスとは最も大きく異なる部分。Cクラスはどちらかといえば、その乗り味はすっきりした感覚の方が強いといえるものだ。 豊かでしっとりした乗り味ながら、速度が上がるほどに路面に吸い付き、なおかつフラットな感覚が増していく様は相変わらず素晴らしいメルセデス・ライド。路面からの入力に対しては十分なストローク感をもってサスペンションが沈み込むものの、その後の伸びはしっかりとコントロールされており、ふらつきやグラつきを生まない良い意味での抑えが効いている。そしてこの辺りが、絶大なる安心感につながっているわけだ。 一方でワインディングのような場所を走っても、その姿勢コントロールには全く隙がなく、常に高い安定感を伝えつつ綺麗にカーブを抜けていく。操舵に対してボディが傾き曲っていく一連の動作には、やはりメルセデスらしい見事な抑制が感じられて好ましい。BMWの積極的にハンドルを切っていきたくなる感じとはまた違って、どこまでもドライバーの操作に忠実に動く、といった感覚。そしてドライバーの操作を綺麗な動きに変換して安心とともに走り抜けていく、という感じだ。 V6ターボにはエモーショナルなフィールがある途中のコーヒーストップで今度は「E400 4マチック」に乗り換える。「E400」は、3.0LのV6ターボを搭載したモデルで、最高出力は333ps、最大トルクは480Nm。9速ATを介して4輪を駆動する4MATICが組み合わされたモデルである。 乗り換えるとすぐに、エンジンの違いからくるキャラクターの違いに気づく。先に乗った4気筒ターボは、お世辞にも官能的とは言い難いものだったが、その分実力は十分以上と記した。ではE400のV6ターボはというと、そこには先に感じられなかったエモーショナルなフィーリングが生まれていたのだった。 まず単純に、エンジンのサウンドが耳に心地よく響く。V6ターボは回転が上がるほどに、スポーツ・マインドを刺激するようなサウンドを発するのだ。もちろんスポーツモデルのそれよりは少し抑えられており、一定の上品さが感じられる。 さらに333ps/480Nm、0-100km/h加速も5.3秒という俊足からわかるように、動力性能も高く、クルマ自体が軽く感じられるレベルにある。先のE300の穏やかな感覚と比較すると、スッと胸をすく加速があり、爽快な走りが生まれていると感じるのだ。 4マチックだけに、FRモデルと比べると若干ステアリング・フィールも重みとしっかり感が加わっているので、安心感もさらに増している。コーナリングなどを見ていても、安定感を保ちつつも、スポーティな感覚が増していて気持ち良さが感じられた。 男性3人でも窮屈に感じない快適なリアシート走りだけでなく実用面でも注目すべきはリアシートだ。メルセデス自身も試乗前の説明でリアシートに是非座ってほしい、とアナウンスしたほど。実際に座ってみるとスペースは確かに広く、大人の男性3人で乗るシチュエーションでも窮屈さを感じることはなかった。乗り降りは2ドアだけにフロントシートバックを倒す必要があるが、それ以外は至極快適なリアシートが実現されており、この点においては長い距離もこなせるレベルだったと報告できる。 そう考えるとEクラス クーペは、美しいスタイリングと走りの良さなど、パーソナルなクルマとしての魅力を存分に備えつつも、実用性の高さをギリギリ忘れていない辺りに、ドイツらしさやメルセデスらしさを感じるモデルである。 そしてCクラス クーペでは実用性が強く、Sクラス クーペでは浮世離れし過ぎると考えると、なるほどビジネスシーンでも使える世間体を保ちつつも、ラグジュアリーな感覚を味わえ、なおかつ実用も…といった欲張りな存在であることに気がつくのだ。 日本への上陸は数ヶ月後と言われている。日本の道路でどのように見えてどのように感じられるかを確かめるのが楽しみだ。 スペック【 E 300 クーペ 】 |
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