0-100km/h=2.7秒は億超えのスーパーカー並み停止状態から100km/hまでたったの2.7秒で加速。これが「テスラ モデルS」の中でも、最も高額で最も高性能なグレードである「P100D」が持つ能力のひとつだ。 加速は強烈。首に力を入れて構えても、ヘッドレストに頭が打ち付けられる。内臓が背中に寄るような感覚に襲われ息苦しくなる。同乗者が予告無しにこの加速に見舞われたら、驚くというより、むちうち症状になる可能性さえある。しかもバッテリーとモーターの能力をフルで使う「ルーディクラス」モードを選んで、アクセルを踏むだけで容易にこの加速が手に入る。モーター駆動による変速機のない滑らかな加速と、高度なトルクコントロールがこれを可能にするのだ。 そもそもモデルSは、速さを求めたスペシャルモデルではない。ボディサイズは全長4979mm×全幅1950mm、車両重量2トンを超える大柄の高級セダンだ。それがハイパフォーマンスカーでもほとんどのモデルが届かない、0-100km/h加速3.0秒を切ってしまう。このP100Dを超える加速能力のクルマを探してみても、「ポルシェ 918スパイダー」「フェラーリ ラ・フェラーリ」「マクラーレン P1」「ブガッティ ヴェイロン/シロン」といった、伝説級の億超えモデルだけだ。 しかも、変速の必要がないトルクコントロール自在のモーター駆動の特性によって、タイヤもバタつかず、トラクションコントロールさえ介入の兆しを見せない。今後、バッテリーとモーターの性能が上がればさらなる加速も容易に手にできそうだ。まるで今までの経験や知識に基づく価値観、概念、定説などを根こそぎ覆すような能力。まあ加速能力は電気駆動の特性といえなくもないが、モデルSには他にも型破りな特徴が無数にある。今回はテスラのそういった特徴を挙げてみよう。 クルマの運転にスタートボタンなんか要らない少しだけテスラを振り返っておこう。この北米の電気自動車メーカーを率いるのは民間で宇宙船開発・製造を含めた宇宙事業を展開するスペースX社も手掛けるイーロン・マスクだ。宇宙船が偉いわけではないが、今までの固定概念にとらわれず新しい技術や効率を追求して宇宙に進出する姿勢をクルマに向けると、テスラのような斬新なクルマが出来上がるのかもしれない。 ラインナップは4ドアセダンのモデルSと、SUVの「モデルX」。今年中には新たなプラットフォームを使ったミドルサイズ級の「モデル3」も加わる。グレード概念はなく内装はオプションで変わり、走行能力を左右するバッテリーとモーターの選択が「P100D」といった具合に車体後方に表記される。ちなみに「P100D」の“100”とはバッテリー容量が100kWh。“D”はデュアルモーターのDで、後ろだけではなく前にもモーターを積んだ高性能4輪駆動モデル。そのデュアルモーターをさらに高性能にしたパフォーマンスモデルになると頭に“P”が付く。 このように整理された合理的な商品展開も注目だが、見るべきはテスラワールドと呼びたくなる、走り出す前から始まる世界観だ。まず鍵を持って近づくだけで、ドアパネルに収納されていたドアノブがせり出し、ノブを引けばドアは開く。モデルXに至っては、鍵を持って近づくと前席ドアが自動で開くので、ドアを開ける動作から解放されているのだ。 運転手順のリストラはさらに続く。シートに座ってブレーキペダルを踏めばシステムスタンバイ。あとはコラム型シフトレバーをDレンジに送ってブレーキペダルを離せば走り出してしまう。エンジン始動(システム始動)の動作が省略されているのだ。 当たり前だった運転手順のムダを省いた、と考えるのは従来の固定観念から出発したときの話だ。そうではなく、必要な操作だけを搭載したら、今までとは違う結果に辿り着いただけなのだ。そして、このシンプルな作法が、実に使いやすい。長い年月をかけて培われた自動車運転作法の背景には安全があり、それを省くのは危険…なんて意見も聞こえるが、テスラに乗ると、それ自体が固定観念かもしれないと思えてくる。 ソフトの更新でレベル4の自動運転が可能になる?既存のクルマとモデルSの違いは、ガラケーとスマホの違いに例えられるかもしれない。試乗車は最新の2017モデルだが、自動運転をはじめとする各種ソフトウェアが、定期的なアップデートによって性能向上や機能拡大していくのだ。これはアプリのダウンロードやソフトのアップデートで購入後も進化するスマホに近い。 もちろん、プロセッサーの処理能力やメモリーの容量を変えたければハードの交換が必要になり、スマホを数年おきに買い替える動機もそこにある。しかしテスラはハードの進化もある程度まで見越して、10年先を見据えた機能を搭載しているという。おかげでクルマの目となるカメラだけで、フロントガラスに3個、フロントフェンダー部に左右1個ずつ、前席と後席ドア間のBピラーに左右1個ずつ、リアに1個の合計8個搭載。さらに以前の2倍の距離をセンシングする超音波ソナーを12個搭載して周囲を監視する。頭脳となるCPUも演算処理能力が以前の40倍に高められた。 その結果、本当にそんなことができるのか半信半疑だが、このP100Dを含めた最新テスラが搭載する前述したカメラなどの「ハード2.0」は、ソフトアップデートによって最終的に「レベル4(例えば高速道路など限定された環境下で完全にシステムに運転を任せることが可能。これより高次の自動運転はあらゆる環境下で完全にシステムに運転を任せることができるレベル5のみ)」の完全自動運転にまで対応できるというのだ。現時点でも走行環境次第ではクルマに大部分の運転を任せられる半自動運転と表現できる能力が備わっているが、いずれは目的地を告げるだけで…いや予定表に入っている目的地を読み取るようになるので、クルマが目的地に自動で向かうような世界にまで対応するというのだ。 もちろんこうしたアップデートは有料ではあるが、購入済みのクルマが進化していくという考え方自体、スマホやPCに似たビジネスモデルがクルマでも始まりつつあるということだろう。 エアサスはオプションでも選んでおこうまた、テスラ(モデルS/モデルX)はピュアな電気自動車として、プラットフォームから完全にゼロベースで設計された現時点で唯一のクルマだ。エンジンを搭載するスペースや燃料タンクのスペース、4輪駆動にするための複雑な駆動力伝達アイテムの搭載スペースなどから完全に解放され、パッケージングも規格外のクルマになっている。 例えばバッテリーの重量は重いが、車体の中央に寄せるようにフロア下に敷き詰めて低重心化しているから、カーブでは張り付き感や安定感が高い。衝突時のバッテリー保護も踏まえた補強がボディのしっかり感も向上。前後のモーターは前後重量バランスを整える効果も発揮している。 こうしたシャシーの基本性能に加えてエアサスの効果が見逃せない。しなやかな足回りの動きに加えて、高速走行時は車高を下げて安定性を高めるなど、快適性とスポーツ性を高次元で両立している。ちなみにP100Dはそのパフォーマンスもあってやや硬めの乗り味に感じたので、快適性を重視するなら「100D」や「90D」がおすすめだ。0-100km/h加速は少し遅い4.4秒だが、一般的には十分に速い。また、これらのグレードではエアサスがオプションになるが、こいつは選んでおきたい。乗り心地とスポーツ性の両立効果は大きいし、購入後のメカのアップデートはできないし、エアサスはナビと連携することで、下回りを擦りそうな場所で一度操作したら、次回からは自動で車高が上がるようにもなるなど、使い勝手がいいのだ。 かくして五味康隆はモデルS 90Dを注文したモデルSの弱点は、自動車メーカーとしての歴史や技術の蓄積が差をつける分野だろう。シートのサポート性、ハンドルの初期操舵への応答性、無機質感が漂うインテリアなど、これからどうやって高級車らしさを演出できるか? また、北米向けのボディサイズは日本では大きいが、このあたりは他メーカーの高級車も似たような事情ではある。とはいえ気になる要素を加味しても、既存のクルマでは得られない“味”が濃厚だという事実は変わらない。 白状しよう。今年の年末年始に取材を兼ねて「モデルS 90D」と2週間過ごした。そして、ここには紹介しきれないほど多くのテスラワールドを体感し、常識を覆す型破りなつくりに衝撃を受け、購入を決意した。そんなわけで5月にクルマが届くまでの間、イメージを膨らませている最中なのだ。 バッテリー容量をどれだけ使うか?(バッテリー劣化と航続距離を自身の好みで任意設定できるバッテリーマネージメント機能がある)・・・とはいえ、実際の使い方でも90Dで400km、100Dだと450km程度は走れるので、航続距離も実はあまりネガ要素になってこないだろう・・・云々。また機会があれば、晴れてオーナーとしてのモデルSのレポートなども出来ればと思う。 スペック【 モデルS P100D 】 |
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