まずは純EVのe-ゴルフからフォルクスワーゲン ゴルフはその登場以来、常に世界中のCセグメントコンパクトのベンチマークとして存在し続けているが、こと7代目は歴代随一の完成度を誇っているとボクは思っている。そしてこの7thゴルフが先ほどマイナーチェンジを受け、その性能にさらに磨きを掛けてきた。それは主に外観の化粧直しとインフォテイメント機能の充実、そして時代の先端を行く運転支援技術のブラッシュアップにあるが、肝心な動力性能面でも新開発の1.5リッターTSI Evoや、新型7速DSGの搭載などで話題を呼んでいる。 そして遂に、そのトップレンジである「ゴルフR」「ゴルフRヴァリアント」と、次世代を担う「e-ゴルフ」及び「ゴルフGTE」にも磨きが掛かった。今回はそんな、これからの時代に大きく関係する、両極の道を行く4台のゴルフを、スペインはマヨルカ島で試乗してきたのでこれをお伝えしよう。 空港から降り立ち、簡単なレクチャーを受けたあとにモータープールへ行くと、我々日本人ジャーナリストにはe-ゴルフとゴルフGTEが用意されていた。宿泊するホテルまでの道のりは約100km。海外のテストドライブとしては異例に短い距離だが、その1台がEVであることを考えると、バッファを含めた意味でもこれは妥当な配慮なのだろう。 ボクが最初に受け取ったのは、純EVであるe-ゴルフ。その外観は至ってフツーのゴルフだが、グリルに仕込まれたコの字型デイライトとブルーラインをあしらったグリル及びヘッドライトのコンビネーションが、強烈な主張をしていてハッとする。 航続距離は190kmから300kmへ大幅増もしアナタがe-ゴルフを運転したら、まず驚くのはそのぺったりとした乗り心地と独特のハンドリングだろう。転がり抵抗を意識した剛性の高いタイヤを履いているせいもあるが、EV特有の出だしはスムーズで、かつ足回りがとてもしなやかに動くから乗り心地に粗さがない。 一番の重量物はバッテリー。それがもともと車体剛性の高いゴルフの床下に配置されるから、突き上げに対して車体が跳ねるようなこともなく、まるで高級なゴルフに乗っているような感覚になる。そしてひとたびハンドルを切ると、ベースのゴルフとはまたひと味違う身のこなしでカーブを曲がり出す。その重心の低さとノーズの軽さから、やわらかなサスペンションでもクルマが素早く反応し曲がってくれる。 慣れないうちは曲げすぎたり、路面のうねりや持ち手のチカラの入れようで直進安定性がやや失われてしまう場面もあったが、全体的にはその敏感さすら新鮮で面白く、新しいオモチャを与えられた子供のような気分で夢中になって運転した。大げさに言うと、スポーツカーのようなハンドリングを持っているのだ。 新しいリチウムイオンバッテリーはそのエネルギー容量を従来の24.2kWhから35.8kWhへと大幅に増強。これによってやはり新型となったモーターのパワーは従来の85kWh(115ps)から100kWh(136ps)に、またその最大トルクは270Nmから290Nmへと高められた。 ちなみにこれをガソリンエンジンのゴルフと比べると、パワーは1.2TSI(105ps)、トルクは1.4TSI(250Nm)よりも高いということになる。そのかわり車重は1615kgとかなりのヘビー級ではあるが。そして最大のトピックは、その航続距離が190kmから300kmへと大幅に増えたことだろう(欧州燃費モード)。また冬場は外気とドライブシステムからの熱を利用するヒートポンプの採用でヒーターの電力消費を最大30%も減少する工夫もなされている。 どっしりまったりとしつつ、キレもある乗り味アクセルを全開にしたときの発進力は、たとえばテスラなどが喧伝するカタパルトダッシュではない。しかし0-100km/hを9.6秒で走るだけの能力を有しており、実用的な使用域のスピードには不満なし。トランスミッションの変速がない、ワンギアによる伸びやかな加速はとても気持ち良い。また信号からのゼロスタートでは、動力源の回転数に関係なく瞬時に得られる最大トルクによって、一般的なガソリン車よりも早いダッシュが決まる。そして勢いよく前に出たあとは、前述した快適なクルージングが待っている。 回生ブレーキはシフトスティックを横に倒すことで3段階、Bレンジで最強、Dレンジで回生ゼロの全部で5段階。試乗車にはパドルはなかったが、欧州ではオプションの設定があるらしい。またフットブレーキの感触も、回生と油圧の使い分けが気になるようなことはなく、至って自然に操作できるのが嬉しい。 ちなみにゴールまでの約100kmに到達する頃には、バッテリーゲージが半分より少し上と、踏み倒したり色々やったおかげでフォルクスワーゲンが伝える電費よりは多めに消費されていた。しかし普通に走ればトータルで200~250kmは稼げる感触はあり、なおかつe-ゴルフはCHAdeMO(チャデモ)といった急速充電にも対応するとのことだから、新し物好きの心をかなりくすぐると思う。参考までに7.2kWで充電すると4時間15分で満充電になる。 ゴルフらしからぬハンドリングとEV特有のサイレントな走行性能を持ちながらも、この質感はやっぱりそのボディがゴルフだからこそできたとボクは思う。日産リーフ(ちなみに航続距離は280km)の軽やかさとはまた違う、どっしりまったりとしつつもキレのある乗り味が、e-ゴルフ最大の特徴だと感じた試乗だった。 e-ゴルフ並みの静かさ、GTIばりの痛快さをもつゴルフGTE翌日はゴルフRを試乗するサーキットまでゴルフGTEで走った。と言ってもGTEに関しては、実は性能的に向上した部分はほとんどない。1.4リッターTSIは150ps、DSGユニットに組み込まれるモーターは109ps(80kW)のままで、よってトータルシステム出力も204psのまま。ちなみにEVのみでの航続距離も50km(欧州燃費モード。JC08モードでは53.1km)と変わりが無い。ここらへんは、プリウスPHVが26.4kmから68.2kmへと距離を伸ばしたのだから、もう少し頑張って欲しかったが、開発者に聞いた話として後述しよう。 ただ欧州のナビゲーションシステムには予定ルートを考慮に入れてハイブリッドモードの制御システムを最適化するプログラムが組み込まれ、より効率的な走りができるようになった。またGTIと同意匠のエアインテーク付きフロントバンパーにe-ゴルフと同じコの字型デイライトが装備されているのは魅力的だ。 そしてその走りは、e-ゴルフを試した後だけによりリアリティに富んだものとなった。まず感動したのは、エンジンを併用するハイブリッドモードでもGTEはe-ゴルフに負けないくらい静かに走れる。モーターのアシストが絶妙であり、かつアクセルを無造作に踏み込まない限りはエンジンそのものも静か。きっと遮音もしっかりやり込んでいるのだろう。エンジンがうなると突然リアルな世界に引き戻されるプリウスよりも、ここは優れている。 そしてGTEモードを選べば、このモーターパワーが速さへと最大活用される。その車重は1615kg(e-ゴルフと同じなのだ)と、GTIに比べ200kg近く重いのだが、モーターによって得られるトルクはやはり強力。絶対的な伸び感こそGTIには敵わないが、瞬発力はこれを凌ぐものがあり、トータルで痛快。これがハイブリッドであることを考えるとむしろ「いーじゃーん!」となる。 e-ゴルフとゴルフGTE、今買うならどっち?ガソリンユニットをフロントに搭載している関係から、その乗り味はコンベンショナルなゴルフに少し似ている。しかし床下にバッテリーを配置しているのはe-ゴルフと同じだから、路面の突き上げは同様に抑えられている。そして後軸荷重が増えたことによる前後バランスの良さも感じ取れる。 またサスペンションの設定もe-ゴルフと似ており、しなやかに伸び縮みして低重心なボディをコントロールしようとする。だからe-ゴルフのような過敏さが薄れつつも、そのボディをバランスさせて走るのがとても楽しい。そしてステアリングに付くパドルで、6速DSGと回生ブレーキを使いこなせるのもいい。 これだけ素晴らしい内容に仕上がっているのだから、なぜEV走行の航続距離を増やす改良をしなかったのか? これに対してエンジニアは、現状でバッテリー容量を上げるには重量増もしくはそのコストがユーザーに跳ね返ってしまう、ドイツ人の一日あたり平均走行距離は十分に補えている、と述べていた。 また急速充電に対応しないことについては、そもそも50kmしか走れないEVにそれを用意するより、安い方がよいだろう? フル充電でも3時間だし、ECOモードなら運転中に充電することもできるじゃないか? という具合。まさに実用主義のヨーロッパらしいシンプルな回答である。 となるとe-ゴルフとゴルフGTE、今買うならどっち? となるが、これは非常に悩ましい。先進性を先取りして楽しみたいならe-ゴルフだが、より現実的で、ずぼらでも乗れて、それと変わらぬEV感も楽しめるGTEのポイントはかなり高い。何を隠そうこのボクも真剣に考えていて、これについては未だに答えが出せていないのである。 最後はパイロットスポーツ カップ2を履いたゴルフRに試乗「Circuit Mallorca Llucmajor」と銘打たれたサーキットは、アップダウンのあるツイスティな中規模コース。そのピットレーンで待ち構えていたのは、イメージカラーのブルーに塗られたゴルフRとゴルフRヴァリアントだった。試乗したのは、3ドアハッチバックであるゴルフRの6速MTと7速DSG。フォルクスワーゲンのインストラクターが先導する方式で、都合10周ほどのセッションをおかわり付きの2タームで行なった。 今回最大のトピックスは、280psから310psへと30psもアップしたそのエンジンだろう。しかし驚いたのは、むしろそれを支えるフットワークの成熟だった。というのもその足下には19インチの「ミシュラン パイロットスポーツ カップ2」が履かされていたのである。ご存知の方も多いと思うが、これはポルシェ「911 GT3」、「GT3 RS」にも標準装備されるスポーツラジアル。最初ボクはジャーナリストや関係者の安全配慮のために用意されたものかと思っていたが、後で調べるとこれはオプションである「パフォーマンスパッケージ」の一部らしかった。 しかしそれを知らなかったボクは、この選択には感心しなかった。なぜならあまりにハイグリップなタイヤを履かせると、マシン側が音を上げるからだ。たとえばブレーキはその急激な制動グリップについて行くことができずフェードし、サスペンションは荷重が掛かりすぎてロールオーバーしてしまう。いくらゴルフの「R」といえど、カップ2のグリップはオーバースペックだろう、と思ったわけである。 ブレーキ改良でゴルフRの潜在能力が引き出されたしかし新型ゴルフRは、見事にそれをやってのけた。最も感心したのはブレーキ性能で、長いストレートからの下り坂、タイトなヘアピンカーブでフル制動するような場面を何周繰り返しても、タッチが甘くなるくらいで最後までその効きとコントロール性をキープしてくれたのである。 聞けば今回エンジン以外に改良したのはまさにこのフロントブレーキで、そのローターは鋳造ピンを介した2ピース構造となっていた。これは鋳鉄製ディスクの放熱と熱膨張に有利で、ハブ部分はアルミ製として、その重量も2kg軽くなっているという。 またそのサスペンションも、じつに懐が深かった。特にフロントサスペンションはロードホールディング性が高く、ターンインでステアリングを切ってからも手応えが最後まで変わらないまま、高いグリップをキープしてくれる。サスペンションは適度なロールでしなやかに伸縮し、それを使ってボディを行きたい方向へとコントロールする様は今までのゴルフRにはない味わい。サスペンションも改良している? とエンジニアに尋ねたが答えはやっぱり「ブレーキだけ」とのことだった。つまりゴルフRが潜在的に持っていた能力を、前述のブレーキシステムが引き出してくれたということになる。 「R」はゴルフ版911GT3のような存在になって欲しい期待のエンジンは、アクラポヴィッチと共同開発したマフラー「R-Performance」エキゾーストシステムの歯切れ良いサウンドと共に心地よく回ってくれた。低速からの立ち上がりでブーストの掛かりが遅いと感じたのは、カップ2のグリップが駆動系に負けていなかったせいもあるだろう。クローズドコースでちょうど良いと感じる速さはオープンロードでかなりの刺激に変わるから、その出力アップは成功と言えるのではないだろうか。 ちなみに6MTと7速DSGの乗り比べは、サーキットを優先するならやはりDSGに軍配が上がる。まず運転に集中できるし、変速ミスでマシンを壊す心配もない。6MTはヒール&トゥといった操作は楽しいが、それ自体に官能性があるシフトフィールやストロークを有しているわけではなかった。 現状ゴルフRを評価すると、アマチュアドライバーがサーキットを安全に走る上ではかなり優秀なマシンになっていると言える。ただやっぱり気になるのは、徹頭徹尾アンダーステアを貫くそのコンセプト。ここまで素晴らしく仕上がっているのだから、もっとリアタイヤから荷重を抜いて、旋回性能を引き上げてもよいと思う。 4モーションという4WD機能やスピンを回避させる電子制御、そして高いボディ剛性を持っているのだから、我々に手が届く本格スポーツとして、ヨーコントロールを楽しませて欲しいのだ。現状それができているのは、「ルノー・メガーヌRS」だけである。入門編はGTIに任せて、それこそ「R」はゴルフ版911GT3といえる特別な存在になって欲しい。 スペック【 e-ゴルフ 】 【 ゴルフGTE 】 【 ゴルフR 】 |
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