エンジンを前後のデフではさむ超個性派ヨンクは健在V12気筒とヨンク(四輪駆動)を武器にする「GTC4ルッソ(Lusso)」が日本でも予想以上に売れているらしい。そこに追加されたV8ターボを積むRWD(後輪駆動)の「GTC4ルッソT」は、果たしてどんなGTカーなのだろうか? GTC4ルッソのオリジナルでもあるフェラーリ初のヨンクこと「FF」を2011年のジュネーブショーで見たときは興奮した。一般的にフロントエンジン、リヤ駆動の「FR車」をヨンクにするのは大変だ。「日産 GT-R」やメルセデス・ベンツの4マチックのように、フロントデフを左右どちらかにオフセットして配置し、センターデフとフロント車軸を結ぶドライブシャフトはエンジンの下側(オイルパンの中)を貫通させる、複雑な構造をとる。 フェラーリ初のヨンクは「FF=フェラーリ・フォー」と名付けられた。その個性的なヨンクシステムは驚くべきものとなる。そもそもフェラーリのFRは前後重量配分を気にして、重量物のエンジンをエンジンルームの後方(室内側)に配置するフロントミッドシップだ。ギアボックスも重量分散のためにリヤアクスルに配置していて、フロント荷重は48%前後と軽い。 このパッケージではフロントタイヤを左右に結ぶライン上に空間があり、そこに目をつけたエンジニアはデフと4速までのギアボックスを配置したのだ。V12のエンジンを前後のデフで挟むという実にユニークな発想のヨンクが誕生した。 初代FFはその後、名前を改め「GTC4ルッソ」として登場する。GTC4ルッソのステアリングを握ったのは、イタリアのスキーリゾートとして知られるドロミテで開催された昨年の試乗会だった。フェラーリ・ヨンクのGTCルッソは自然吸気のV12気筒と、世界でも例がないユニークな4WDシステムで私を魅了した。コイツはホンモノのGTカーだ。 V8ターボはエンジンのキャラクターがまるで違うGTC4ルッソのパッケージは大人が四人乗ることができるグランド・ツアラーだ。低い車高でフロントスポイラーを壊さないかドキドキしながら走るミッドシップの「488」とは大きな違いで、自由に力強く、好きなところに行けるのが、GTC4ルッソの魅力だ。 これこそ歴代のフェラーリにはなかった新しい価値なのだが、今回試乗したのはV8ターボを積むGTC4ルッソT。しかも二輪駆動のRWDなのでヤンチャなキャラクターが想像できる。「V8でRWDなら価格も安く抑えることができる」と書くとフェラーリは嫌がる。FRのV8ターボはヨンクのV12とは異なるコンセプトで、別のモデルだと主張しているからだ。はたして派生モデルなのか、別のモデルなのか? 水掛け論となりそうなので、早速、トスカーナ地方のワインディングに持ち出して走ってみよう。 まず、駆動方式の違いはタイヤのグリップ限界内なら感じられない。もともとアンダーステアを嫌って後輪駆動風の操縦性を実現したのがフェラーリ独自の四輪駆動システムなので、フィールでは差はない。だが、エンジンのキャラクターとシャシーの走り味はまるで異なる。 ギアボックスはともにDCT(ツインクラッチ)を持つが、シフトアップ&ダウンに最適な4000~5000回転のトルクは2倍ほど異なりそうだ。自然吸気V12の最大トルクは約700Nmだが、4000~5000回転では400Nm前後。一方、低回転域から760Nmという最大トルクを発生するV8ターボは、シフト時の回転域ですでに最大トルクを発揮している。つまり、ギアシフト時に2倍ほどのトルク差があるのだ。 V8ターボでスロットルを踏んだままシフトアップ&ダウンすると、助手席の人は脳震盪を起こすかもしれない。スタイリングは同じでも、V12の高級GTとは、ひと味もふた味も異なっているのだ。 V8ターボの助手席に座るのはやめたほうがいい0-100Km/h加速はV12もV8ターボも3.5秒、100-0km/hブレーキも33~34mとほぼ同じだ。いずれもスポーツカーとしては第一級のパフォーマンスを持っていることは間違いない。だが、V8ターボを積むルッソTのドライバーは、助手席の人が口から泡を吹いていてもスロットルを踏み続けてしまうかもしれない。ダイレクトで獰猛な加速感で噴き出たアドレナリンによって理性を失っているからだ。私なら、V8ターボの助手席に座るのは遠慮しておくだろう。 強烈なキャラクターは加速性能だけではない。シャシーもそのままサーキットに持ち込めるほどレーシーだ。488ほど神経は使わないかもしれないが、V8ターボの巨大なトルクはたった2本のタイヤでは受け止め切れない。 ステアリングホイールの走行モード・セレクターを試してみる。ウェットモードでやっと猛獣はおとなしくなるが、スポーツモードは危険な香りがする。私は「理性」というスイッチを脳内でオンにして、スポーツモードを選択した。あいにく助手席には某雑誌の編集長さまがお座りなので、丁寧なシフトを心がけなければならない。シフトアップのとき、クラッチが繋がる瞬間にスロットルを少し戻す。こうすれば、変速ショックで脳震盪を起こさないですむからだ。 GTC4ルッソTの想定ユーザーは35~40歳と聞いて「オレには資格がないな…」と思った。価格的には約500万円も安いので、既存のフェラーリユーザーではない人に乗ってもらいたいそうだ。「ポルシェ 911 ターボ S」や「アストンマーティン DB11」がライバルとなりそうだが、走りっぷりはV8ターボを搭載する「フェラーリ GTC4ルッソT」がもっともヤンチャだろう。 GTC4ルッソとGTC4ルッソTを数式にしてみると?テストドライブのスタート場所はモンテリッジョーニという城壁に囲まれた小さな村だ。ここを訪れたのは二度目で、2000年頃に開催された「メルセデス・ベンツ SL」試乗会の中継地点だった。今は随分と過疎化が進んでいる。当時、SLの助手席には故・徳大寺有恒先生が座り、トスカーナのワインディングを思い切り走った。そのとき先生は「カズオに抱かれてもいいと思った」と元ラリー屋のテクニックを褒めてくれたのだ。今はきっと天国で、同じ場所で走るGTC4ルッソTの雄姿を見守ってくれているはずだ。 ここでV8ターボのGTC4ルッソTを数式で表してみよう。 左脳で考えるとこうなるが、実際はアドレナリンの量で差別化できる。V8ターボのハンドリングは驚くほど限界が高いが、ESCが巧みに作動し、リヤアクスルを安定させてくれる。獰猛なキャラクターが顔を出しても、ひどい仕打ちは受けないで済みそうだ。ただ、バンピーな路面ではかなりサスペンションが固く感じた。 結論を述べるなら、オトナチックな対話型グランド・ツーリングを楽しみたいならV12のGTC4ルッソがいい。だが、体内をアドレナリンで溢れさせたいなら、V8ターボのGTC4ルッソTがいい。とはいえ脳内に「理性」というモードを用意しておくのをお忘れなく。 スペック【 フェラーリ GTC4ルッソ T 】 |
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