前世代から一皮むけた運転感覚いま最も日本国内で注目されているインポートカーであるボルボ。その旗艦車種である90シリーズのエステート、V90 R-デザインに試乗した。 ボルボは現在シャシーとエンジンの両方で、知的かつコンパクトなモジュール機構を採用している。スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(以下SPA)はSUVのトップモデルであるXC90から始まったシャシーモジュールで、前輪車軸からインパネまでのコンポーネンツを共用するもの。当然今回のV90及びセダンのS90にもこのモジュールが採用されており、共用化によるコストの低減と、FFベースとしては車軸~インパネ間の距離を67cmと広く取ったことによるクラッシャブルゾーンの確保、そして伸びやかなボディデザインの獲得を果たしている。 またそのSPAをベースに構築されるシャシーもこの世代から完全にボルボ・オリジナルとなっており、その運転感覚は前世代に対してさらに一皮むけた。従来型と比べハイテンションスチールで20%増し、ボロン鋼においては全体の30%を占めるようになったことで、そのシャシーは大幅な軽量化を実現したはずだ。それでもその操作感にはボディ剛性の不足を感じないどころか、むしろよりシッカリ感が増していると感じられるのは、フォード時代に他車と共用しなくてはならなかったシャシー面での鬱憤を、ここで一気に晴らしてきたからだろう。 そんなシャシーに「R-デザイン」のパッケージがインストールされたわけだから、その期待はかなりのものだった。しかもエンジンはツインチャージャー仕様となる「T6」で、駆動方式はAWDである。 すこぶる気持ち良いT6エンジンしかしボクがこのR-デザインに乗ってまず最初に感じたのは、意外にもその乗り心地の良さだった。 足下には20インチの大径タイヤを履き、フロントのコイルスプリングとリアのコンポジットリーフスプリング、そして直接縦バネには関係ないが前後スタビライザーを強化し、ノーマル比で50%の剛性アップを果たしたサスペンションを装着するにもかかわらず、突き上げ感やバネ下のバタつきがほぼ感じられない。まるでエアサスを装備したかのようにエアリーなライド感を持ちながら、低荷重領域でもハンドリングの追従性は高く、ステアするとその巨体をスッと曲げてくれる。 そしてそのフロントに搭載される直列4気筒の直噴ツインチャージャー T6が、これまたすこぶる気持ち良い。そもそもが82.0×93.2mmと、低速トルクに有利なロングストロークシリンダーを持つこの2リッターエンジンは、さらにスーパーチャージャーによって低中速トルクが増強され、2200-5400rpmという広範囲で400Nmもの最大トルクを発揮し続ける。だからタウンスピードから常用域にかけて4気筒エンジンを意識するのはその鼻先の軽さばかりと、メリットしか感じられない。 そして、そのアクセルをフラットアウトしたときにちょっとした感動が訪れる。トルクで押し切ったその先に、もうひと伸びシューンとした加速感が味わえるのである。その切替ポイントを意識することは難しいが、これこそがターボへとスイッチした瞬間なのだろう。 レブリミットは6000rpm手前と決して高回転型ではないが、リミットいっぱいまでサージングなくきっちり回しきってくれる精度の高さは、アウディと張る4発感。そしてパドルを弾けば次のギアへと瞬時にシフトされ、回転落ちしてもそこはトルクバンドの真っ直中。だから加速は鈍ることなく、8速ギアを駆使してどんどんと高みへ登って行くことができる。 ワインディングで感じたダンパーの追従性不足ただ残念だったのは、ここでダンパーの追従性が甘かったことだ。そのモードを「ダイナミック」に転じるとエンジンの過給圧が上がり、トランスミッションの反応は鋭く、電動パワステのアシストもスローになる。しかし肝心のダンパーは可変しないから、その快速スピードに対してノーズの動きが抑えきれなくなってしまうのだ。 特に起伏やうねりがある路面ではロールや振幅が増幅する傾向があり、そこに操舵が加わるとライントレース性が大きく損なわれる。AWDの影響もあるのだろう、リアのスタビリティは非常に高いしESCもこまめに安定性を確保しているのだが、肝心な操舵応答性が悪く走りが安定しない。 そこまで挙動を追い込まずともその兆候は感じられ、正直あまりワインディングでは元気に走る気にはならなかった。せっかくレスポンスのよいモノチューブダンパーを採用し、ガス圧の反発力も上手に抑えたセッティングを施しているのだから、もうひと手間、可変機能を加えてスポーティな走りにも応えて欲しい。それはスポーティな走りだけでなく、緊急回避という面でも大きな役割を果たすはずだから。 そういう意味では、車高も重心も高いXC90の方が、それを補おうとしてロールやピッチングに対する制御がうまく調教できている。また同じV90でも、ノーマルグレードの方がより剛性感の高い、ドイツ車顔負けの乗り味を実現できていると思う。 果たしてこのセッティングの理由とはではなぜボルボのトップグレードであるR-デザインがこのようなセッティングを採ったのか? と考えると、それはこれまでとは違う、プレミアムラグジュアリー路線を狙ったからだと思う。 というのもV90/S90に採用されるのかはわからないが、ボルボにはもうひとつ「ポールスター」というスポーティグレードがある。これと棲み分けをするためにも、彼らはそのセッティングを大きくラグジーな方向へと振ったのではないかとボクは思う。 新世代となって車体性能とそのデザインテイストを大きく変え、そして見事に成功したボルボ。それだけに大きな期待を寄せてこれをテイスティングしてしまうが、もとはといえばV90は、高い年齢層に向けて用意されたフラッグシップモデルである。そんな顧客たちを上質にもてなすという意味で、その超熟した乗り味がひとつの回答になっていると考えれば、R-デザインという名称こそ若々しいけれど、全てに納得が行く。 だからボルボには、この乗り味を保ったまま、人知れずしれっと芯の通った応答性を整えて欲しいと思う。そうすればV90は、完璧なフラッグシップモデルになれるはずだ。 スペック【 ボルボV90 T6 Rデザイン 】 |
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