実験的なスタイリングをどう消化する?実車を見る前に画像が出回るインターネット時代。アウディQ2を初めて画像で見た時、画像が粗いせいでカクカクしているのかと思った。だが画像は精細で、クルマがカクカクしていたのだった。やや違和感があった。これがあの美しいアウディのニューモデルかい、と。 しかしデザインについて説明を受け、そのルックスが意図するところを理解すると、自分でも現金だなと思うが、途端に魅力的に見えてきた。そして走らせてみれば挙動は軽快、先進装備はどれも使いやすく役に立つ。実験的なスタイリングを受け入れることができる人はディーラーへGO! とはいえまずは箱根の山道を走らせた印象をご報告しよう。 “丸くなる前”の勢いや若々しさがあるカクカク・アウディことQ2は、なんというか従来のアウディより線が多い。面が多いというべきか。ショルダーラインがフロントドアのあたりで東名高速下りの大井松田を過ぎたあたりのように二手に分かれ、リアフェンダーで御殿場手前のように1本に集約される。2本の線で挟まれた部分は、ヘラで削り取ってできた平面のようで、このクルマの複雑な面構成の象徴となっている。 フロントマスクも新しい。通常、アウディ各モデルのフロントグリルはヘキサゴン(6角形)だが、Q2はよく見るとオクタゴン(8角形)で、グリル内の模様もスタッガード状。Cピラーにはシルバーの加飾パネル(ボディカラーによってパネルの色は異なる。1.4リッターに標準装備。レスオプションも可能)が装着されていて、横から見るとまずそこへ目がいく。 アウディというと、曲線的で流麗なスタイリングというイメージだが、Q2はとにかく全体に要素が多く、見方によってはやかましいデザインだ。聞けばデザイナーは“川の上流の石”を意識したそう。 上流の石はまだ川の流れにもみくちゃにされておらず、角が取れていない。いっぽう下流の石はもまれて丸くなっている。ものわかりがよくなったことを「丸くなった」と表現するように、川の石は人の性格にもたとえられる。デザイナーはQ2をカクカク、ゴツゴツさせることで、若々しさを表現したかったのだ。アウディはこのクルマで若者ユーザーを獲得しようとしているということだ。 1.4リッターTFSIは職人気質で休み上手Q2はフォルクスワーゲン・グループが新開発したエンジン横置き車用プラットフォーム「MQB」を使って開発された。つまりVWゴルフ、ティグアン、パサート、アウディA3、TTなどと同じだ。カタチもサイズも全然違うが、伸縮自在のモジュラー・プラットフォームのため、あらゆるサイズに対応できるのだ。 日本仕様のエンジンは、今回試乗した1.4リッターTFSI(直4ターボ)と1リッターTFSI(直3ターボ)の2種類。1.4リッターはゴルフやA3に積まれるのと同じCOD(シリンダー・オン・デマンド。低負荷時に4気筒のうち2気筒が休止し、燃費を稼ぐシステム)付きで、1リッターはA1にも載るのと同じタイプだ。いずれもデュアルクラッチ・トランスミッションの7速Sトロニックとの組み合わせとなる。 1.4リッターTFSIは改良を重ねながら長く使われているエンジンだ。突出した高性能を誇るわけではないが、ネガも見当たらない。パワーは車重1340kgのQ2に対しては十分以上で、このクルマを速く走らせる。ただしドラマティックな特性かといえばさにあらず。黒子に徹して実直に仕事をする職人気質のエンジンだ。 気筒休止するとメーター内の燃費を表示するインジケーターの色が変わるのだが、切り替えはスムーズで、2気筒と4気筒が切り替わったのを体感するのは難しい。アイドリングストップ付きで、JC08モード燃費は17.9km/L。 駆動方式はFWDのみ。クワトロならQ3をどうぞコンパクトSUVとして競合するであろうメルセデス・ベンツGLA、BMW X1、ミニ・クロスオーバーあたりが4WDもFWDも設定しているのに対し、日本仕様のQ2は潔く全モデルFWDで登場した。 本来クワトロ(4WD)システムはアウディの最大の売りであり、実際本国にはクワトロのQ2もあるが、日本には入ってこない。ひとつ上のQ3とサイズや価格帯がそう違わないこともあり、日本では「クワトロが欲しい人はQ3をどうぞ」という感じで売り分けようとしているわけだ。将来ラインナップが変化する可能性も十分に考えられるが、現時点ではこうなっている。 ハイシーズンの箱根は交通量が多い。その中に交じって山道をのんびりと走らせてみると、乗り心地はまずまずよくて快適だ。天気もいいし、このまま温泉旅館にでも入っていきたくなる。 そうこうするうちに前方の「わ」ナンバーがどこかへ去った。ペースを上げて右へ左へとステアリングを切っていくと、車体がロールする速さと量が予測に反し、どこかちぐはぐに思える場面もあった。Q2のリアサスはトレーリングアームで、A3のそれはマルチリンク。主にスペースの都合だと思うが、A3のほうが気持ちよく走らせることができる。しかしこれは飛ばさない人にはさほど重要な話ではないかもしれない。 リアシートの居住性はQ3とほとんど変わらないインテリアは若者向けらしく派手だ。シートは黒とグレーの2トーンで、インパネには艶消しアルミの加飾パネルが施され、ドアの内張りの一部にもグレーのユニークな素材が使われる。 今回テストしたのは、「1stエディション」というQ2登場を記念して280台限定で発売されたモデルで、ダッシュボードとセンターコンソールの両脇に埋め込まれたLED照明が夜間にぼんやりと光るアンビエントライティングが備わっている。クルマがトンネルに入って足元が鈍く光っているのに気づいておっと驚いた。LEDの色は10色から選べる。明るさも調整できる。絶対必要な装備というわけではないが、あってもよい。 リアシートはだだっ広いというわけではないが、窮屈ということはない。Q3とほとんど変わらないのではないか。ラゲッジ容量は405リッター。リアシートを倒せば1050リッターに拡大する(※Q3は通常時460リッター~最大1365リッター)。ここで全国の立体駐車場ユーザーに朗報。全幅は1795mm、全高も1530mmなのでどの駐車場へも入ることができるはず。 バーチャルコックピットは良いことずくめアウディ自慢のバーチャルコックピットは5万円でオプション設定される。すでにこのクルマをオーダーした人の8割がこのオプション装備を付けたそうだ。これはフルデジタル表示のメーターパネルによって、速度計、回転計を中心とした表示だけでなく中央部分にマップを表示させたり、速度計、回転計を小さくして両脇に押しやって大部分をマップにしたりと、さまざまなパターンの表示を選ぶことができる。見て楽しいし、視認性は高いし、カッコいい。視線移動も減るから安全にも寄与するはずだ。強くお勧めしたい。 グレードによって衝突軽減システムのアウディ・プレセンスフロントやACCが標準で備わるのはもちろん、Q3では選ぶことができないトラフィックジャム・アシスト(0-65km/hの範囲で先行車に追従するだけでなく、車線を逸脱しないようステアリングもアシストしてくれる機能)も選べる。近頃の安全装備は日進月歩のため、開発時期が少しでも新しいほうが充実していることが多い。 299万円の「1.0 TFSI」には気になる点も若者向けに開発したが、実際には年配の方にも人気が出たというのは、クルマに限らずよくある話だ。クルマなら日産ジュークがその好例だろう。Q2の場合、若者向けを強調すれば、気持ちの若い年配の人が興味をもってくれるんじゃないかというマーケティング手法なのかもしれない。 内外装のスタイリングこそアヴァンギャルドだが、真面目なプラットフォームに真面目なパワートレーンを載せた真面目なエンジニアリングのクルマだ。コンパクトなサイズにやや高いドライビングポジションは誰にとっても扱いやすい。 ただし、Q2はアウディだ。テストした1stエディションだと490万円、そのベースとなる「1.4 TFSI cod スポーツ」でも405万円と、(多くの)若者が気軽に手を出せる価格ではない。けれど「1.0 TFSI スポーツ」の364万円、「1.0 TFSI」の299万円ならなんとかなりそうだ。 1リッターモデルはカーナビが35万~39万円のオプションになってしまうが、若者ならカーナビは得意のスマホで代用しよう。ただ1.0TFSIスポーツの場合、オプションのカーナビを付けないとバーチャルコックピット(5万円)が付けられず、1.0TFSIの場合、カーナビを付けてもバーチャルコックピットを付けられないのは残念。 さらにいえば、1.0TFSIだとACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や、トラフィックジャム・アシストなどを含むセーフティパッケージを選ぶことができない(ベーシックパッケージを選べばアウディプレセンスフロントを装備可能)。ドライブセレクト(エコ、コンフォート、ダイナミックなど車両特性を変えられる機能)やパーキングブレーキのホールドアシスト機能など、言わば便利装備、贅沢装備を削って安いグレードを設定するのは賛成だが、安全装備を削って価格を下げて「若者にも……」とアピールするのは、現実的にはどのメーカーもやっていることだが、プレミアムブランドのアウディにはぐっと我慢してほしかった。 スペック【 Q2 1.4 TFSI cod sport 】 |
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