魅力十分だがオプションに注意?新型アウディA5スポーツバックを高速道路と一般道で走らせた。上品なスタイリングや快適な乗り心地、高い走行安定性、望めば相当に速く走らせられる動力性能、そしてアバント(ワゴン)に迫るユーティリティ性能、それに先進安全装備なども備わる魅力的なモデルだった。ただし、ブルーハーツの曲じゃないが、あれも欲しい、これも欲しい、もっと欲しい、もっともっと欲しい♪と、好みのオプションを全部装着していくと、あれも買える、これも買える……という値段になってしまうのであった。 4ドアクーペというジャンルは、メルセデス・ベンツが2005年にCLSクラスによって切り拓き、数々のフォロワーも生んだ。1985年発売のトヨタ・カリーナEDに端を発する4ドアクーペブーム(ほかの国産メーカーもこぞって追従した)を経験して程なく飽きた日本人としては、「あぁアレね」と余裕を見せたいところだが、世界的にはその人気は何年たっても衰えず、今やひとつのジャンルとして定着した。 アウディはその4ドアクーペブームに完全には乗っからず、さりとて無視するわけでもなく、09年に5ドアハッチバックの“スポーツバック”をA5に追加したほか(日本導入は10年)、翌年にはスポーツバック専用のA7を発売することで(同11年)ブームに対する回答とした。A5スポーツバックは当時もっとも美しいクーペとの呼び声高かったA5クーペをベースに開発されたわけだが、ドアが2枚増えても依然美しかった。なおかつ実用的でもあったのでよく売れた。 男性的なエレガンスをまとうそれから約7年、モデルチェンジした第2世代の「A5スポーツバック」が日本導入を果たし、箱根を拠点に試乗会が開かれた。会場の芝生に置かれた新型を見つけ、いろいろな距離と方向から眺めてみる。カッコいい。ヘッドランプの端からリアへ向かって伸び、前後輪の位置に合わせて少しホップするようにカーブを描き、リアコンビランプの直前でスッと消えるキャラクターラインが実にシャープでエレガント。高い生産技術を感じさせる。 基本的には先代同様のエレガントで洗練されたスタイリングだが、新型はところどころにマッチョとまでは言わないまでもマスキュリン(男性的)な部分が見つかる。たとえばリアフェンダーの肉付きがよく獰猛さを感じさせるところとか、ボンネットフードもわずかながらパワードーム風に盛り上がって力強い印象を与えるところとか。 8万5000円を支払うと塗ってもらえるマタドールレッドメタリック(こってりめの赤)のボディカラーもあって、太陽光の下よりも夜間の照明の下のほうが、芝生の上よりもアスファルトの上のほうが、練馬区より港区のほうが似合いそうなクルマだ。 高性能版の2.0TFSIがパワーアップ&熟成運転席に乗り込む。従来ダッシュボード内に組み込まれていたディスプレイは独立型になった。けれどアウディの場合、センター・ディスプレイはむしろサブであり、メーターパネル自体がメインのディスプレイとなる。アウディが「バーチャル・コックピット」と呼ぶこの12.3インチの異形ディスプレイはフルデジタルの液晶画面。左に回転計、右に速度計、中央に各種情報といった従来通りの表示もできるし、画面全体を地図画面とし、両脇に回転計と速度計を小さく浮き上がるように表示させることもできる。ステアリングスイッチの操作に慣れ、必要な情報を自在に表示させられるようになればこれほど使いやすく、使って楽しいものはない。装着を強くオススメしたいオプション(7万円)その1だ。 今回試乗したのは、「2.0 TFSI クワトロ スポーツ」。搭載されているのはけっこう昔から使われている2リッター直噴・直4ターボエンジンだが、今回、久しぶりにこのエンジンを搭載するクルマに試乗してみて、こんなに力強かったっけ? と思ったら、最高出力が40ps、最大トルクが20Nm向上し、同252ps/5000-6000rpm、同370Nm/1600-4500rpmにパワーアップしていた。パワーアップだけならターボを使えばどんどんできる時代だが、排ガスをクリーンに保ち、実用エンジンとして燃費も無視できないとなると難しい。その点、新型はJC08モード燃費16.5km/Lと先代に比べ2割向上している。 山道でアクセルを踏むと、さほど回転が上がらぬうちからどんどんトルクが出てきてスピードもグイグイ上がる。官能的なエキゾーストノートとともに高回転まで淀みなく……みたいなのは一切ない。ないが静かなまま速い。車体側の遮音対策が優れているのかエンジンそのものが静かなのかはわからない。4気筒にしては振動も少ない。今やプレミアムブランドといえども4気筒搭載モデルの比率がどんどん高まっている。過給器や電気モーターとの相性を含め、いい4気筒をつくるブランドが生き残るのかもしれない。 スポーツサスには予算を回すだけの価値がある高速道路へ合流すると、A5スポーツバックはさらに魅力を増す。はっきり言ってドライ路面で制限速度の範囲内だとクワトロ(4WD)ならではの矢のような直進性を感じることはできないが、雨が降り風も強い日に舗装の古い高速道路を走らせるときなどには、さほど飛ばさずともクワトロのありがたみを確実に感じることができる。クワトロは予防安全装備と言える。 新型からA5にもFWD仕様(エンジンもデチューン版が載る)も設定されはしたものの、事情が許せばクワトロを選ぶべきではないだろうか。“せっかくアウディを選ぶわけだし”という、合理的ではないが多くの人が納得するであろう理由も含めて。 クルージング中の乗り心地が予想を大きく上回って快適だ。昨年乗った「A4」の1.4割増しで快適だ。戻って広報部長にそれを伝えると、「みなさん、そうおっしゃいます」と苦笑い。A5の足まわりがA4よりも優れているわけではなく、今回試乗したモデルにダンピングコントロール付きスポーツサスペンションが付いていたからではないかと推測していた。なるほど。これはダンピングレートを電子制御で連続可変させることができるシロモノで、あらゆる種類の入力(道路の不整のような細かい凹凸から道路のうねりなどまで)に対し、常に最適なレートで対処してくれる。14万円の高級オプションだが、装着を強くオススメしたいオプションその2だ。 サンルーフや高級オーディオを我慢してでも付けるべき。このサスが備わるモデルの方が、アウディドライブセレクト(「コンフォート」や「ダイナミック」などクルマの特性をスイッチ操作で切り替えられる機能)の変化の幅が大きい気がした。A4でもこれを付ければ同じように快適になるはずだ。 定量化できる性能はすべて正常進化している昨年A4がモデルチェンジした際、アウディはライバルに対して遅れていた先進安全装備(ADAS)のレベルを一気に取り戻した。複数のカメラとミリ波レーダー、それに超音波センサーなどを駆使して自車の周囲ほぼ360度を監視し、障害物の接近をドライバーに知らせる。 今回試乗した「A5スポーツバック 2.0 TFSI クワトロ スポーツ」の場合、アウディプレセンスシティ(車両だけでなく歩行者も検知する衝突被害軽減ブレーキ)、全車速対応ACC(渋滞時にステアリングもアシストしてくれるトラフィックジャムアシスト付き)、アクティブレーンアシスト(車線逸脱警報および車線維持アシスト装置)などが標準装備される。 加えて、セーフティパッケージという21万円のセットオプションをオーダーすれば、アウディプレセンスリア(接近する後続車を検知して自動的にブレーキがかかるなど追突に備える)、サイドアシスト(後側方からの車両の接近を検知するいわゆるブラインドスポットアシスト)などが付く。このセットオプションにはリアサイドエアバッグなども含まれるので、付けるに越したことはない。 スタイリングに関してはプロからも市場からも評判が高かった先代モデルの方が好きという人がいてもそれを否定することはできないが、定量化できる動力性能、燃費、安全と言った性能面については間違いなく全方位的に正常進化していた。 本体価格は686万円。ただし、強くオススメしたバーチャルコックピットとダンピングコントロール付きスポーツサスを付けると21万円プラス。さらにセーフティパッケージを付けると21万円プラス、写真のマタドールレッドを望めば8万5000円プラス、19インチタイヤを望めば17万円プラス、Bang&Olufsenが17万円プラス……と底なしのオプションリストが待ち受けるので商談は冷静に。 スペック例【 A5スポーツバック 2.0 TFSI クワトロ sport 】 |
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