6代目ワゴンRは黄金時代に返り咲けるのか?「スズキ ワゴンR」が、モデル末期もなにも関係なく、不動の軽自動車(以下、軽)販売トップ銘柄だったのも今は昔である。 ワゴンRが軽の年間販売台数No.1から陥落したのは2011年のこと。軽販売におけるワゴンRの公式連勝記録は04年から10年までの7年連続だが、それ以前のランキング記録はなく、実際には初代の途中から15~17年連続でワゴンRがNo.1だった可能性が高い。 そんなワゴンRも昨16年の軽販売ランキングでは9位。スズキの調べによると、昨年の軽販売は「ホンダ N-BOX」や「ダイハツ タント」などのスーパーハイトが全体の39.4%を占めたという。対して、ワゴンRを含む全高1.6m台のハイトワゴンのそれは32.6%。軽の主流は今や完全にスーパーハイトに移行しており、そもそもワゴンRがベストセラーになりにくい時代になっている。 もっとも、最近はワゴンRが同ジャンルの「ムーヴ」や「N-WGN」の後塵を拝しているのが現実。まあ、「ハスラー」との合計であれば、スズキのハイトワゴン全体がダイハツやホンダに負けているわけではないのだが、いずれにせよ、ワゴンR全盛期からは隔世の感がある。 しかし、スズキは今の状況に「時代のせいだから」と諦観したわけではなさそうだ。 ハイブリッドもデザインも先進装備も全部出す新型ワゴンRは(マイルド)ハイブリッドを完全な主力に据えて、そのハイブリッドを3種のエクステリアデザインで供給する。自動ブレーキ機構は少なくともスペック上は軽トップの機能だし、濡れたままでもきちんと排水する傘ホルダーなどは目からウロコだ。 サイド系エアバッグに不熱心(?)なスズキの例にもれず、サイド&カーテンエアバッグが最上級グレード限定になる点だけは、正直いって「なんだかなあ」ではある。ただ、それをのぞけば、新型ワゴンRはまさに「出せるものは全部出す!」といった風情なのが、スズキがあきらめていない証拠だ。 内外装デザインにもスズキの“ワゴンR復権”への執念がうかがえる。たとえば、6ライトのサイドウィンドウグラフィックや“くの字”のリヤクウォーターピラー、ボディ同色の極太センターピラー、そしてバンパー内蔵のリアコンビランプ…は、歴史的傑作である初代のアイコンを忠実再現した原点回帰の意味があるのだろう。 インテリアも一転して高級志向にそのいっぽうで、これまでのワゴンRが質実剛健を売りとしてきた内装は、一転して高級指向である。エアコンパネルやエアコンアウトレット周辺に埋め込まれたメッキ部品の繊細さなどは軽とは思えない。軽初のヘッドアップディスプレイも、現代の必須アイテムといえる“セーフティパッケージ”とのセットなので、けっしてカタログを飾るためだけの高額オプションでないところが嬉しい。 先代比で60mm拡大した室内幅の効果も明らかである。まあ寸法的には「やっとムーヴやN-WGNに追いついただけ」ともいえるが、低く見せる水平基調のダッシュボードの効果もあって、心理的な開放感は一頭地を抜く。 これまでのワゴンRは圧倒的な販売実績と認知度もあってか、デザインでも機能でも、あくまで“ワゴンRらしいこと”が最優先だった感が強い。質感表現や装備内容に、あえて“軽トップ”や“軽初”に執着していなかったように思えた。 しかし、先代の途中からは一転、自動ブレーキにハイブリッド(先代の呼称はS-エネチャージ)、燃費…と、目に見えるスペックにこだわりはじめたのは、やはり軽販売トップからの陥落が影響しているように思える。今回の新型は最初からライバルを追いかける立場で開発されたわけで、開発陣の気合い(というより危機感)がヒシヒシと伝わってくる。 クリープ発進ができるマイルドハイブリッド新型ワゴンR最大の売りであるマイルドハイブリッドは、基本構造そのものは従来のS-エネチャージと変わりなく、電動動力系の強化による“EVクリープ発進”と“より強力な駆動アシスト”が新たな特徴という。 ただし、基本構造はエンジンとモーターの間に断続機構をもたないS-エネチャージのままなので、EV発進といっても、エンジンのクランクシャフトはモーターと一緒に回る。よって、トヨタその他のフルハイブリッドのように“無音のまま発進”とはいかない。 なるほど、アイドルストップで停止した状態でブレーキペダルから足を離すとそのまま動き出すのだが、EV走行時にも“ヒュルヒュル”という独特のノイズを放つ。EV走行時間は条件が整っていても最大10秒ほどといい、実際に間もなくエンジンに火が入るのだが、意識して耳を傾けないと、EV状態とエンジン始動の境目は分かりにくい。 つまり、EV走行といっても実感しにくいが、それでも実際に軽ハイトワゴントップのカタログ燃費に貢献しているのだから、文句をいう筋合いではない。 軽量ボディとハイブリッドが走りを高めているただ、モーターが燃費アップの黒子役に徹していた先代S-エネチャージに対して、パワーアップした電動動力をより積極的に使う新型のマイルドハイブリッドは、リアルな場面でそれなりの恩恵はある。 たとえば、減速時に車速13km/h以下となるとエンジンがストップするのは従来どおりだが、その近辺で再加速してもギクシャクしなくなったのは高出力モーターのおかげだろう。圧倒的に軽い車重もあいまって、新型ワゴンRは他社のNAハイトワゴンと比較しても動力性能が0.5ランクくらいは力強い。 ターボはエンジン単体でもピーク性能になんら不足はないが、ハイブリッドのアシスト効果で、結果的にアクセル開度が小さくて済む。中低速での扱いやすさやエンジン回転が低く保てる静粛性などに、ハッキリと効果がある。 先日発売されたスイフトも含めて、最近のスズキが、低速での乗り心地に意識を向けているように思えるのは、宿敵ダイハツの影響も大きいかもしれない。 実際、新型ワゴンRは以前のように中低速でもドタバタしない。ただ、リアを柔らかくした影響なのか、かつてのワゴンRの美点だった小気味いいステアリングレスポンスがちょっと薄れた気がするのは、クルマオタク的には残念だったりもするが。 スティングレーのターボはセグメントNO.1の完成度ここまで各部を高級・高機能化しても、安価な「ハイブリッド FX」以下では相変わらずフロントスタビライザーを省略しているのはケチなスズキ(失礼)らしいところではある。ただ、あくまで自分で運転するドライバーズカーとしては、意外にもスタビなしのFXのほうがスタビ付きのハイブリッドFZより好印象だったりするのは意外…というか、スズキのシャシーづくりの上手さでもある。 もっとも、そうした細かいツッコミも、15インチを履く「スティングレー」のターボ(ハイブリッド T)を選べばすべて消し飛ぶ。この最上級グレードは乗り心地、操縦安定性、ターボ+モーターによるパワートレーンの高級感、そして内装の質感…のすべてて、現時点で軽ハイトワゴンでトップの商品力といっていいと思う。 新型ワゴンRはシリーズ合計の月間販売目標で1万6000台という数字をかかげる。単純計算すると年間で19万2000台だ。昨年の販売実績では、1位のN-BOXでも18万6367台、同じハイトワゴンでいうとムーヴが10万2410台、N-WGNが8万6710台にすぎない。 この数字を鈴木修スズキ会長がいうところの「行儀の悪い売り方」なしで達成しようとしているなら、スズキは本気でワゴンRの復権を目指しているということだ。 スペック例【 ワゴンR FA 】 【 ワゴンR ハイブリッド FZ セーフティパッケージ装着車 】 【 ワゴンRスティングレー ハイブリッド T 】 |
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