エンスージアスト注目の和製アバルト「ABARTH」の6文字、もしくは「アバルト」の4文字を目にしてどんなクルマを思い浮かべるかで、その人の世代が分かるはずだ。僕のような団塊親爺はついつい1000ビアルベーロやシムカ1300GT、あるいは1000TCといった、1960年代のリアエンジンGTやスポーツセダンを思い浮かべてしまうから、歳がバレる。というか、とっくにバレてるか(笑)。 そこで、昨今エンスージアストのあいだで話題になっている和製アバルトに乗ってみた。マツダNDロードスターがベースの、アバルト124スパイダーである。ロードスターをベースにフィアットがオープン2座スポーツを生みだすという話は以前からあって、最初はアルファロメオのスパイダーになると言われていたが、フィアット側の方針変更によってフィアット124スパイダー、およびそのアバルト版になったわけだ。 そのなかで日本で発売されたのは、高性能版のアバルト124スパイダーのみだが、このクルマにはオリジナルがある。まず1966年、1.6リッターDOHC直4エンジンを持つオープン2シーターのフィアット124スポルトスパイダーが登場。それをベースにして1972年に出現したのが、WRCに打って出るウェポンとしてアバルトで開発された、1.8リッターのフィアットアバルト124ラリーだった。 全方位に効かせたスパイスその現代版であるアバルト124スパイダーはどんなクルマかというと、基本NDロードスターと同じプラットフォームにアバルトチューンしたフィアットの1.4リッター直4ターボエンジンを搭載したもので、170psのパワーと25.5kg-mのトルクという、1.5リッターNAエンジン(131ps/15.3kg-m)のロードスターを上回る数値を生みだす。トランスミッションは6段MTと6段ATが選択可能。試乗した赤いクルマはMT仕様だった。 サスペンションは基本NDロードスターと同じでフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクだが、そのセッティングはマツダとは異なる、フィアットアバルト独自の設定となっている。 それに加えてもうひとつ大きく異なるのがボディで、フィアットの社内デザイナーによるスタイリングは、かつてのフィアット124スパイダーのイメージを現代に甦らせたものだといえる。NDロードスターよりやや長くてボリュームのある伸びやかなラインや、菱形のグリル、ボンネットのパワーバルジなどによって、昔のイメージを再現しているのだ。 インテリアも基本配置や基本的な造形はロードスターと同一だが、メーター、シート、ステアリングホイールなどのデザインのディテールをフィアット化、アバルト化して、マツダとは異なる雰囲気を演出している。その他、ソフトトップをロードスターより遮音効果の高い二重式にするなど、キメ細かい変更が施されている。 それらの結果、車重はMT仕様で1130kg、AT仕様で1150kgと、ロードスターより100kgと少々重くなっている。さらにプライスも、MTが388万8000円、ATが399万6000円という、ロードスターより高価な設定になる。 白黒がハッキリしたエンジン今回は伊豆で開かれた某試乗会への足としてアバルト124スパイダーに乗っていったのだが、赤いボディはパッと見、イタリアの、そしてアバルトの気分に満ちているから、このデザインは成功といっていいだろう。コクピットも、アバルトのマークを中央に配したステアリングや盤面が赤いタコメーターなどで気分を煽られたところで、スタートである。 まず1.4リッター直4ターボだが、最近のスポーツカーユニットとしては、けっこう白黒がハッキリしたエンジンだといえる。例えば街中で前が空いたとき、3速のまま急にスロットルを踏み込んだりすると、エンジンはカボッという感じで咳き込んで、スムーズにレスポンスしてくれない。どこからでも素直に反応する今どきのターボの多くと違って、ちゃんと適切なギアに入れなさいと、エンジンが語りかけてくるのだ。 つまりこのエンジン、一気に深いスロットル開度を与えたいなら、回転は3500rpm以上に保った方がいいという印象の、高回転トルク型なのである。とはいえ、高速道路をメーターの100km/h、6速の2500rpmでクルージングしている際などには、シフトダウンせずにそのまま軽くスロットルを踏み込めば、スムーズにスピードを上げていく。 6段MTは、レバーの長さ、ストロークとも適度で、スポーツカーらしい歯切れのいいギアシフトを可能にしてくれる。ノブ部分の形状も、手になじむ感じがあって悪くない。というわけで、パワートレーンはスポーツカーとして合格だといえる。 GTとしてのキャラクターものぞかせるならばシャシーはどうかというと、まず都内をゆっくりと走って感じたのは、ビルシュタインのダンパーに17インチのBS・ポテンザRE050Aを履いた脚が、ちょっとしなやかさに欠けることだった。決して硬すぎはしないのだが、路面の細かな凹凸をもう少ししなやかに吸収してくれると、乗り心地はぐっと向上するに違いない。 ただしその乗り心地は、高速道路に乗ったり、ワインディングロードに入ったりして、それなりのペースで走れるようになると、事実上気にならなくなる。高速道路では良好な直進性を示し、一般道に意外と長い直線が多く、高速道路を飛ばすことも多いイタリアのブランドのスポーツカーだということを、思い出させてくれる。 オープン2シーターながらGTとしてのキャラクターも与えられていて、ソフトトップを被っていれば、ほとんどクーペと変わらぬ快適さで高速クルージングをこなしてくれるのだ。このあたりが、NDロードスターとは少し違うところのひとつかもしれない。 趣が異なるコーナリングではアバルト124スパイダー、ワインディングロードではどうだったか。車重が100kg強重く、サスペンションのセッティングも異なるため、NDロードスターとはやや趣が異なり、スロットルとステアリングでヒラリヒラリと向きを変える、いかにも身の軽い印象ではロードスターに及ばない。 けれどもそれはあくまでロードスターと比べての話であって、アバルト124スパイダーの身のこなしも充分に軽快で、スポーツカーらしいものなのは間違いなく、スロットルを閉じつつステアリングを切り込むと、やや長めのノーズが素直に向きを変える。挙動が軽すぎず、身のこなしに適度な重量感があるのが、イタリアンブランドのスポーツカーらしいところだ。 しかもこのアバルト、コーナーからの脱出の際にも悦びを味わえる。デフにトルセンLSDを標準装備しているため、クルマの向きの変わり具合や後輪への荷重の掛かり具合、およびパワーの掛け具合によっては、軽いテールアウトを実感しながらクルマが前に押し出されるという、後輪駆動スポーツカーにとって理想的なコーナリングを味わうこともできるからだ。 走り味の明確な違いが嬉しいというわけで、ソフトトップを下ろしてオープンで味わった夕刻の伊豆山中でのドライビングは、少々寒かったけれど快感に満ちたものだったといっていい。フロントがベンチレーテッドの4輪ディスクブレーキも、もちろん常に充分な効きを示してくれた。 さて、ベースとなったNDロードスターより少しだけ大きく、100kg強重く、その分エンジンはパワフルだけど、プライスも高いアバルト124スパイダーをどう見るか。 ルックスが違うだけでなく、ドライビング感覚にも明確な違いが感じられたのだから、ロードスターとは別のクルマとして存在する価値は確実にあるといえる。しかも、僕の周辺から聞こえてくる話では、ロードスターのユーザーとはやや異なる人たち、例えばイタリア車好きなどからけっこう熱烈な注目を浴びているらしい。 だとするなら、少なくともここ日本では、フィアットの狙いはピッタリ的中したといえるのではないか。となると、海外のスポーツカーエンスージアストからは、マツダMX-5とどのように違うクルマと認識されているのか、それが知りたいところである。 スペック【 アバルト 124スパイダー 】 |
GMT+9, 2025-6-25 16:52 , Processed in 0.126943 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .