ビハインドを一気にひっくり返す軽自動車をのぞけば国内でもっとも販売台数が多いコンパクトカー。欧州Bセグメントに相当する同クラスは、国民の足と呼べるベーシックカーでもあるが、気付けばその多くがハイブリッドカーやクリーンディーゼルなど、低燃費自慢の先進パワートレーンを搭載している。日本の自動車市場はそれだけ成熟しているということだろう。 日産ノートはこれまでミラーサイクルの直列3気筒1.2Lスーパーチャージャーというダウンサイジングコンセプトのガソリン・エンジンで勝負してきた。26.2km/LというJC08モード燃費はガソリン車としては十分に優秀だが、30km/L超が当たり前のハイブリッドカーには及ばず、新鮮さや記号性を求めるユーザーにとって物足りないのはたしか。そんなビハインドを一気にひっくり返すのがマイナーチェンジとともに登場した「e-POWER(イーパワー)」だ。 エンジンは発電するだけで駆動はすべて電気モーターで行ういわゆるシリーズハイブリッドで、システムとして目新しくはないが乗用車で本格的な展開は初と言っていい。ホンダのオデッセイやアコードが採用する「SPORT HYBRID i-MMD」はシリーズハイブリッドに近いが、高速走行時にはエンジンが駆動の補助をするので、少し高度になる。 リーフのモーターを流用。低コストで贅沢な走りにe-POWERのメリットは、EVと同じく電気モーターゆえのスムーズでトルクフルな走りを実現しながら、ガソリン車と同様の利便性があることだ。売れ筋グレードのJC08モード燃費は34.0km/Lで、燃料タンクは41Lなので航続距離は1394km/LとEVのリーフの5倍近く。ガソリンを給油する必要はあるが充電はいらない。バッテリーも回生した電力を貯めたり、エンジン出力を上回る電力を必要としたときに使うなど、バッファ的な容量しか必要ないのでコストや重量も最小限。車両価格は先行しているハイブリッドカーやクリーンディーゼルと同等になっている。 リーフでEVのリーディングカンパニーとなった日産にとって、EVのウィークポイントが払拭されて誰もが安心して乗れるe-POWERは、将来のEVオーナー育成という意味合いもあるのだろう。 駆動用電気モーターは最高出力80kW、最大トルク254Nm。2.5LガソリンNAエンジン並のトルクは、ノートのボディに対しては余裕たっぷりでオーバースペックとも言えるほどだが、リーフからの流用と聞いて納得。コスト的にも有利で、贅沢な走りが期待できるのだからユーザーにとっては嬉しいところだ。 エンジンはガソリン車と同様の直列3気筒1.2L(NA)だが、e-POWER用にシリンダーブロックを新設計。12.0の高圧縮比でミラーサイクルとされる。最高出力は58kW。電気モーターの80kWより低いが、フルパワーを要求されたときは55kWを出せるリチウムイオンバッテリーから電力が供給される。電力容量は1.5kWhで他のハイブリッドカーとほぼ同程度だ。 リーフより200kg以上軽量ゆえの十二分な加速力システムをONにしてもすぐにエンジンはかからない。Dレンジを選択してブレーキペダルから足を離せばクリープでスルスルと動き出し、アクセルを踏めば速度を上げつつ少したってからエンジンがかかるというのは他のハイブリッドカーと同様だ。 なるべく効率のいいエンジン回転数を使おうとしているため、いきなり2400rpm程度で回り始めるのが独特。さほど力を必要としない走りでは他のハイブリッドカーよりも高めのエンジン回転数となるが、うるさくはない。というよりもアクアやフィット・ハイブリッドよりもずっと静粛性は高い。音対策を入念に行っているうえ、2400rpmで回せば余剰トルクで早めにバッテリーを充電することが可能で、結果的にエンジンを停止している状態が長くなるからだ。 アクセルを深く踏みこんでいくとエンジンの回転数はグーンとあがってくる。2400rpmから最高出力発生回転の6000rpmまで、要求したパワーに合わせた回転数になり、エンジンで駆動しているかのような錯覚に陥りそうになるが、よく観察していると一瞬遅れているように聞こえる。 EVと同じく1ギアなので加速はシームレスでショックなどとは無縁なのが気持ちいい。しかもアクセル操作に対するレスポンスが、エンジン車やハイブリッドカーと比べものにならないほど鋭く、力強い。高速域になってくるとその感覚は薄まってくるが、50km/h程度までなら並のスポーツカーを置いていけるほどのダッシュをみせ、120km/h程度までは十二分な加速力がある。リーフより一回りボディが小さいうえに、バッテリーも小さく、200kg以上軽いのだから速いのは当然だ。 1ペダルドライブ的な「e-POWERドライブ」高速域ではSPORT HYBRID i-MMDや三菱アウトランダーPHEVのようにエンジン直結モードがあったほうが効率はいいだろうが、シティユースがメインのノートにとって必須というわけではなく、強力なリーフ用電気モーターのおかげで必要性も感じない。むしろ、コストや重量が嵩まずに、シンプルなシリーズハイブリッドにとどめておいて正解だろう。 バッテリー容量が少なくなるとフルパワーを発揮できなくなるのでは? と思い、高速道路やワインディングで意地悪にバッテリーが減る運転をしてみたが、加速が衰えるところまではいかなかった。サーキットでテストすれば話は別かもしれないが、公道ではフルパワーが発揮できない状況に陥ることはほとんどなさそうだ。 電気モーター駆動が走りに独自のメリットをもたらすのは、加速側だけではなく減速側にも及んでいる。電気モーターは駆動と逆の負荷がかかると発電して回生するが、それによって減速度がかかる。アクセルペダルを戻して回生するとエンジンブレーキのような感覚になるのだが、ノートe-POWERはそれを強くして、ブレーキペダルを踏む頻度を下げる1ペダルドライブ的なモードを持っているのが特徴だ。日産はこれを「e-POWERドライブ」と呼んでいる。 50km/hからアクセルペダルをパッと離して全閉にすると強い減速度が発生。最大減速度は0.15Gで一般的なエンジンブレーキの3倍程度だ。アクセルペダルを少し踏みこんだところに加速も減速もしないニュートラルな箇所があり、そこからの戻し具合で減速をコントロールすることができるので、右足をブレーキペダルに移す頻度が激減する。 BMW i3と比べてみると同じく、1ペダルドライブを標榜したBMW i3に比べると最大減速度はやや低めだが、ノートe-POWERは0km/hの完全停止までブレーキペダルを踏む必要がないのがユニーク。何もしなければそのまま停止していて、一度ブレーキペダルを踏めばクリープが復活するようになっている。その0km/hにいたる最後の止まり際は、まったくカックンとせずデッドスムーズ。プロのショーファーのようで、ずいぶんと念入りに造り込んできたことをうかがわせた。 減速度は速度に応じて変化し、40→30→20km/hと落ちていくときが一番強く、それ以下は緩やかになる。また50km/h以上も徐々に緩くなり、高速巡航時は一般的なエンジンブレーキよりもやや強めぐらいだ。 他のハイブリッドカーと違って協調回生ブレーキを採用していないが、この減速度の強さがあれば十分に回生が可能。しかも協調回生ブレーキはどうしても違和感が拭えないが、一般的なシステムのためブレーキペダルを踏みこんだときのフィーリングが自然だというメリットもある。 BMW i3では1ペダルドライブにどうしても馴染めないという声も聞かれるが、ノートe-POWERは3つのドライブモードを持っていて“ノーマル”では一般的なエンジンブレーキ並の回生となりエンジン車から乗り換えても違和感がない。スポーティな“S”と効率重視の“ECO“で回生が強いe-POWERドライブになるのだ。“S“と“ECO”は加速の強さに違いがある。“ノーマル”でもDレンジからBレンジに切り替えれば回生はやや強めになる。 革命と呼べるほどの出来映えシリーズハイブリッドは機構的にはシンプルなので、複雑にして熟成されたアクアやスポーティさをも実現したフィット・ハイブリッドに対抗できるのかどうか、事前には疑問を持っていたが、試乗してみたらむしろ革命と呼べるほどの出来映えだった。速さもレスポンスの良さもブッチギリに上回っていて、e-POWEWドライブによる新鮮な感覚もある。他のハイブリッドシステムは、エンジンと電気モーターが協力しあうが、それに伴うトルク変動で走りに違和感を感じることがある。純粋な電気駆動はそんな心配がまったくなくドライバビリティも極上だ。 静粛性でも他と同等以上。超低速域ではエンジンの音が明確に聞こえるが、40km/hも出すとロードノイズなどが支配的になってきて気にならない。しかもエンジンが停止する頻度も多いからだ。 シャシー性能に関しても望外に良かった。駆動用バッテリーは前席下に配置されているが、そのためにフロアはトンネルブレースの板厚アップやクロスメンバーの材料強度アップなどで、全体的な剛性が高まっている。またフロントサブフレームは専用のクレードル構造。本来はバッテリー保護や重量増への対応が主眼ではあるが、これをハンドリングの良さや振動・騒音低減にも役立てている。正直に言って従来のノートの乗り心地やハンドリングは、このクラスの平均的なレベルだったが、e-POWER化でいきなりトップレベルに躍り出たのだった。 想像以上の魅力に溢れるe-POWERをノートのためだけにしておくのはもったいない。そう遠くない将来に他の車種への展開も考えられているようだが、電気モーターのメリットが強くなるタウンユース系のモデルには積極的に採用するべきだろう。少し飛躍して考えると、ゆくゆくは日本の軽自動車は全部これにしてもいいぐらいだ。 ホンダとヤマハが原付バイクで協業を検討していることをみても、将来的には軽自動車のパワートレーンが各社協業となってもおかしくない。今の660ccエンジン+CVTは各社での実力差は少なく、趣味的なフィーリングの違いで勝負しているわけでもないから共通化してもユーザーは困らないはずだ。コストの問題も、200万台弱/年をすべて共通化すれば現実的になるかもしれない。やや乱暴な意見かもしれないが、e-POWERにはそれぐらいのポテンシャルが見て取れたのだ。 スペック例【 ノート e-POWER メダリスト 】 |
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