狙いはクラスを超えた質感とデザインイタリア北部、ボローニャで対面した新型3008は、想像を遥かに超える存在感を放っていた。パリモーターショー2016で公開されたときの写真は見ていたから、その姿が先代モデルとガラリと変わっていることは十分に理解しているつもりだった。けれど、実車を前にしてみると、尖ったデザインもさることながら、立ち位置までもが変わっていることを実感したのだ。おそらくプジョーは3008をひとつ上のクラスに移行したかったのだろう。そんな印象を抱くほど、新型3008はプレミアム感に満ちていた。 ボディサイズは全長4447mm×全幅1841mm×全高1624mm、ホイールベース2675mm。現行型(同4365×1835×1635、2615mm)と比較してわずかに大きくなっているが、劇的な大型化というわけではない。全高は逆に低くなっている。しかし、前述したように伝わってくる存在感はまったくの別モノ。よりダイナミックに、より力強く、よりスポーティーに、よりモダンに、そしてよりプレミアムになった。先代は数字より小さく見えたが、新型は数字より大きく見えると言えばわかりやすいだろう。もっと正確に言うなら、大きく見えるというより、存在感が強いとなるのかもしれない。 そんな印象を開発者にぶつけてみたところ、狙ったのはまさにそこで、新型3008を開発するにあたってもっとも注力したのは、クラスを超えた質感とデザインを与えることだったという。さらに、高貴で優雅で均整のとれたプロポーションと、ライバルより低い車高をライバルに対する独自性として挙げていた。 攻めの姿勢を貫いてきた3008が属するのはVWティグアンや日産キャシュカイ(日本名=デュアリス:2014年3月に販売終了)が成功を収めている欧州CセグメントSUV。昨年はセグメント全体で157万台を販売し、今年に入ってからも大きく伸びているという。となれば当然、各メーカーとも力を入れてくる。そんな群雄割拠のセグメントで確固たる地位を確立するべく、プジョーは「デザイン」と「質感」をナンバーワン・プライオリティに据えた。これはなかなか面白い流れだ。 先日発表されたばかりの新型VWティグアンもかなり力の入ったモデルだが、デザイン的には冒険を避けてきたなという印象がある。それに対し、3008はデザイン面で徹底した攻めの姿勢を貫いてきた。どちらがいいということではなく、ガチンコライバル同士がこうして異なるアプローチをとってきたことを、一クルマファンとして嬉しく感じる。だって似たようなクルマが増えても面白くないでしょ。 超モダンでスポーティーなSUVへということで改めて3008を眺めてみる。先代はハッチバックの面影を残したSUVだったが、新型は超モダンでスポーティーなSUVに生まれ変わっている。精悍なフロントフェイス、フロントフードやフェンダーの立体的な造形、コークボトル状に絞り込んだボディ中央部とそれを強調するプロテクターモールなど、ありとあらゆるところに見所がある。 薄型リアコンビランプの周囲を左右につなぐ形でブラックアウトしているのも興味深い。ピラーやルーフのブラックアウトと相まって、視覚的な重心を低下させ、重心の低いスポーティーな印象を強めている。 ブラックルーフをキリリと引き締めるのが、クロームメッキを施したルーフレールとモールだ。ルーフエンドスポイラーのサイド面までメッキ処理を施した凝ったデザインは、一歩間違えると野暮ったくなる恐れがある。しかしそれを、品性が保たれるギリギリのレベルに留め、プレミアム感の表現手段として使いこなしているあたりのセンスには脱帽である。 エクステリア以上に攻めたインテリアデザインと質感への挑戦はインテリアでも行われている。挑戦という意味ではエクステリア以上にアグレッシブなのがインテリアと言ってもいい。ドライバーを囲むクーペライクなコックピット感とセンターコンソールのトグルスイッチは先代から継承しているが、各部の質感は比べものにならないほど向上。大物から小物にいたるすべてのパーツの成形、表面処理、触感、組み付け精度、シートのステッチ処理など、どこをとっても抜かりはない。プジョー、シトロエン、DSという3ブランドからなるPSAグループ内では、DSのフラッグシップである「DS5」の次にプレミアムなインテリアであり、ライバル車との比較においても文句なしにトップを走っている。 見た目だけでなく、居心地もいい。シートの座り心地は疲れ知らず。後席スペースも十分で、大人4人がラクに乗り込める。100L増えて591Lとなった荷室を使えば、ファミリーカーとしてキャンプにも出かけられる。SUVがここまで人気を呼んだ背景には「見た目のカッコよさと優れたユーティリティの高いレベルでの両立」という背景がある。そういう意味で、3008はまさにSUVの美味しさを存分に味わえる一台と言える。 モダンかつ使える最新鋭の「i-Cockpit」3008のもうひとつの売りが、「i-Cockpit」と呼ばれる進化した操作&表示系。僕の知る限り、フランス車でこれほどまでにモダンなコックピットはなかった。i-Cockpitはダッシュボード中央の8インチタッチスクリーンと、ドライバー正面にある12.3インチスクリーンを中心に構成される。限られた文字数ではとても説明しきれないが、簡単に言うと、センターにあるタッチスクリーンを使ってあらゆる機能をコントロールするシステムだ。 プジョーはすでに「308」でタッチスクリーン式コントロールを採用しているが、ナビゲーション画面を表示させたままだとエアコンの温度設定すらできないなど、お世辞にも使い勝手はいいとは言えなかった。その点、3008ではメーターパネルもフル液晶化したことで、使い勝手は改善された。わかりやすい例では、センタースクリーンにエアコンや音楽画面を表示した状態でも、メーターパネルにナビゲーション画面が表示される。 とはいえ、いついかなる状況でもエアコンの温度設定は常にワンタッチで操作できるべきだと思う。いちいちボタンを押してエアコン画面を表示させてからの温度調整は面倒だ。開発者は「スマートフォンが当たり前の時代だからボタンは少ない方がいい」と言っていたが、高速移動中に操作が必要なクルマと、そうではないスマートフォンではインターフェイスに求められるロジックは違って当然だろう。 そんな要改善ポイントはあるものの、i-Cockpitは、ナビゲーション、音楽、車両設定、電話、apple CarPlayなど、現代のクルマに求められるきわめて多くの機能をわかりやすく、使いやすく統合したシステムとしてよくできている。なによりグラフィックやフォントの美しさが素晴らしいと思った。用意されるディスプレイモードは5種類。アナログメーターを模したモードもカッコいいし、クルマの絵とともに先行車との車間距離や車線逸脱警告を視覚的に伝えてくるモードもいい。また、車速と標識速度以外は表示しない「ミニマム」モードを選べば、夜間はリラックスした運転ができるだろう。純正車載システムとしては初となるフォーカル社製オーディオが奏でるサウンドも素晴らしかった。 力強いディーゼルか、小気味よいガソリンターボか試乗したのは1.6Lガソリン直噴ターボ(165ps)と、2.0Lディーゼルターボ(180ps)の2台。ともに6速ATを組み合わせる。ディーゼルは低速域から太いトルクがあるため、どこから踏んでも力強く加速していく。しかも驚くほど静かだ。なんの予備知識も持たずに乗ったらディーゼルだと気付かない人もいるだろう。タイヤは19インチを履いていたが、荒れた路面ではやや角の尖ったショックを伝えてきた。また、右に左にときついコーナーが連続するセクションでは、少々鼻の重さも感じられた。 その点、18インチタイヤを履くガソリンターボは、路面からの入力もマイルドだったし、コーナーでの身のこなしも軽快で気持ちがよかった。ハンドリングと乗り心地に関してはガソリンターボのほうが好印象だったと報告しておこう。 動力性能に関しても、1.6Lターボでなんら不足はない。ただしトルクの出方がやや唐突かなと思えることもあった。とくにスポーツモードを選んでいると、アクセルを踏み込んでから一瞬置いてトルクがググッと立ち上がるため、アクセルを戻す操作を求められることもあった。そういう意味では、分厚いトルクが下からスムースに沸き上がるディーゼルのほうが運転のしやすさは上だ。 とはいえ、慣れてしまえばガソリンターボも楽しく走れる。トルコンのスリップを抑えたタイト特性のATは、ラフなアクセル操作をするとギクシャクしがちだが、走り込んでいくにつれ、それは決して機械的な弱点ではなく、味付けであることがわかってくる。フランス人はルーズな味付けのATを好まない。そう、MT車を運転するときのようなスムースなアクセル操作をしてやれば、ダイレクトで気持ちのいい走りを楽しめるのだ。 ディーゼルターボで余裕たっぷりの力強い走りを楽しむのもよし、ガソリンターボで小気味よい走りを楽しむのもよし。日本での価格設定がどうなるかはまだちょっとわからないが、価格差が大きいようであればガソリンターボというチョイスも大いにアリだと思う。 デザイン・走り・使い勝手のトリプルスリーアクティブ・セーフティブレーキ、ディスタンスアラート、アクティブ・レーンデパーチャーウォーニング、ドライバー・アテンションウォーニング、スマートビーム、スピードリミットサイン・リコグニッション、アダプティブ・クルーズコントロール、アクティブ・ブラインドスポットモニターシステムなど、最新鋭の運転支援技術を搭載しているのも3008の魅力だ。とくに速度標識を自動で読みとり、ワンタッチでアダプティブ・クルーズコントロールの速度設定ができるシステムはとても使いやすく、便利だった。 駆動方式はFFのみだが、2019年には電気モーターで後輪を駆動するプラグインハイブリッドの発売も予定されている。新型3008の日本発売は公式には「2017年」としかアナウンスされていないが、そう長くは待たなくてよさそうだ。デザイン、走り、使い勝手と3拍子揃ったスタイリッシュなSUVとして大いに注目したい。 スペック例【 New プジョー 3008 】 |
GMT+9, 2025-6-25 16:36 , Processed in 0.133849 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .