S207より少しだけ快適性が高められたS4 tSこのクルマのココロは、昨年10月に発売されたスバルWRX STI S207の2ペダル版だそうである。S207は発売日に即日完売したマニア垂涎の究極のWRXである。 もっとも、ベースモデルありきのコンプリートカーなので、S207との差異がトランスミッションにとどまらないのはご想像のとおりだ。S207が伝統のEJエンジン搭載の“STI”だったのに対して、今回は同じWRXでも、最新鋭の直噴FAエンジンを積む“S4”がベース。エンジンと駆動系が別物なのに加えて、今回はスバル自慢のアイサイト(最新版たるver.3)もなかば自動的に標準搭載となる点も、いかにも今っぽいコンプリートカーとしての大きな売りだろう。 内外装やシャシー関連はS207に準じる内容となるが、エンジン本体には手が加えられていないために、商品名が“tS”となる。これはいつものSTIコンプリートカーの文法にのっとったネーミングである。19インチのダンロップ製スポーツマックスRTタイヤ、STI独自の“フレキシブル~”系部品によるボディ&サブフレーム強化対策、リアのピロボールブッシュ、専用スプリングと専用ビルシュタイン製ダンパー(フロントはダンプマチックII)、そしてブレンボ製ブレーキ……といったマニアな専用部品群のリストは、前記のとおりS207と基本的に同じだ。 ただし、シャシーの微妙なチューニングは「2ペダルという性格を考えて少しだけ快適性に振った」のだそうで、日常生活では少しわずらわしい(?)ステアリングのクイックレシオは採用されず、サスペンションのチューニングもS207と微妙にちがう。さらに、タイヤも吸音スポンジを内蔵してロードノイズを低減した新タイプを履く。スポーツマックスRTという銘柄は変わらず、吸音スポンジの有無以外のグリップ性能やケース剛性はS207のそれと同じとか。ということは、S207でもこれに履き替えるだけで、性能はそのままに静粛性だけがアップする品だそうだ。 硬質なのにまるで跳ねない。機敏なのにチョロつかない運動性能は文句なしにステキである。いかにもレーシーな全身は硬質な剛性感で、低く這うようにムダな動きをいっさい感じさせない。しかし、直進性はバツグンに高く、轍(わだち)や路面不整に進路を乱される度合いが異例に低い。つまり、硬質なのに、まるで跳ねない。そして機敏なのに、まったくチョロつかない。これは微小域もスムーズに動くサスペンションに加えて、固めたい方向にはがっちりと締めるいっぽうで、いなしたい方向の入力には柔軟なフレキシブル系剛性部品群の効能も大きいのだろう。 ブレーキの効きとタッチも素晴らしいが、それよりも印象的なのは絶妙に身を沈めるように荷重移動するブレーキング姿勢には感心するほかない。VDCも専用チューンだそうで、コーナリング時にイン側をつまむブレーキ制御はより積極的になっているようだ。そういわれると、なるほどステアリングの指令にびたっとハマッたオンザレール感は強い。 S207より快適性重視……との弁から、多少はひよった乗り味を想像したのだが、少なくとも直接比較しなければ、このS4 tSはまさに理想のカフェレーサー味である。無反応領域をまったく感じさせない硬質な走りながらも、河口湖付近の荒れたルートでも神経質さはまるでない。吸音タイヤなどによる静粛対策効果も明確で、目地段差を乗り越えたときの“ポコン”というノイズと衝撃は、このレベルの高性能車としては印象的に小さい。 注目はCVTオイルクーラーの大容量化前記のとおりエンジン本体には手が入っていないものの、吸排気系の変更によって高速域の過渡トルクが最大10%アップしているという。もちろん、S4はもとからすこぶる速く、今回もノーマルとの差が単独で乗って明確に分かるほどではないが、どことなくレスポンスに鋭さが増した気がする。よりヌケが良くなったサウンド効果も大きいのかもしれない。 パワートレーンでエンジンより注目すべきはCVTオイルクーラーが大容量化されたことだろう。(とくにハイパワーエンジンと組み合わせた)CVTは、調子に乗ってマニュアルモードを多用すると、一般の山坂道でも十数分から数十分で過熱してフェイルセーフモードに入ってしまうケースが多い。 大容量オイルクーラーを装備したtSのCVTは、STIのテストによるとサーキット走行の稼働周回が約1.8倍になったといい、あのニュルで数周のアタックをしてもへこたれないという。もっとも、オイルクーラー効果は大量の走行風が供給されるサーキットのような高速走行のほうが大きく、低速でクルクル変速するジムカーナ走行のほうが厳しいらしい。 来年3月12日までの期間限定受注このtSは普通のS4より100万円以上高額だが、ベース比で高いか安いか……で選ぶ人は多くないだろう。少なくとも500万円台でこれほど硬質で速いスポーツセダンはほとんどない。 ひとりのお客としては「もったいぶらずにMTも出してくれ!」、あるいは「いつでも買えるようにカタログモデルに昇格を!」といいたくなる気持ちもあるが、量産メーカー商品にして、このように特別の架装ラインを必要とする改造車は、チョロチョロと終わりなく、キレ悪く造るのは難しい。台数や期間を限定したビジネスとなってしまうのは、しかたのない側面もある。 個人的にはS207のオカワリも期待したいところだが、2ペダル+アイサイトを待っていた人も確実にいるだろう。実際、今回は来年3月12日までの期間限定受注で、台数限定ではないからゆっくり吟味する時間があるのは嬉しいが、すでに相当数のオーダーが入っており、それなりに待つ必要はあるようだ。 XVの最終進化版はフンパツする価値あり今回の試乗会には“tS”がもう1台用意されていた。クロスオーバーであるXVハイブリッドのtSである。同じtSを名乗ることもあって、カタログに記載されるモディファイの基本メニューはS4のそれに近い。パワートレーンに手は入っていないが、内外装を専用部品で装飾しつつ、ボディやシャシーはフレキシブル系部品で強化。そしてバネとダンパーは専用品……といったところである。 ただ、XVハイブリッドの場合は、ブレーキやタイヤ、そしてエンジン吸排気系はノーマルのまま。試乗車に装着されていたスポーツマフラーはなかなか迫力のある快音を奏でていて、ハイブリッドなのに……とも思ったが、これはオプション扱い。好みで有無を選べるのは良心的。つまり、XVハイブリッドtSがS4 tSほどガチガチの体育会系でないことは、ビジュアルの仕立てから想像されるとおりである。 バネが専用といっても、厳密な専用部分は赤いペイントだけでバネレートは標準のままという。ダンパーは標準と同じショーワ製ながら、バルブ構造がちがうアップグレード版というが、タイヤやバネが同じなので、減衰力が特別に締め上げられているわけではない。よって、XVハイブリッドtSの乗り味は、良くも悪くもS4のそれほど別物感はない。乗り心地もスポーツモデルだと構えて乗ると、拍子ぬけするほど快適である。 XVの走りはもともと、この種のものとしては動きがシュアだが、tSではその美点がさらに強調されている。それでいて、微小域からきっちり減衰を出すダンパーとボディ強化策のおかげか、四輪をバラバラに蹴り上げるような荒れた路面でも、上屋は盛大に動かずフラットな姿勢を保ち、しかも方向安定性も乱されず、直進性の高さは印象的である。 XVハイブリッドの場合は、tS専用部品もほぼすべて量産ラインで組み込まれることもあって、S4 tSのような限定車ではない。ノーマル比で約40万円という価格差を考えれば、特別な思い入れがなくても“乗り味も装備もいちばん高級なXV”として、ちょっとフンパツする価値はあると思う。新型インプレッサも出たことなので、今のXVもおそらくモデル末期。これが現行のXV最終進化版にして理想形……ということになりそうだ。 スペック例(スバル WRX S4 ts )【 スバル WRX S4 ts 】 スペック例(スバル XV ハイブリッド ts)【 スバル XV ハイブリッド ts 】 |
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