操る楽しさは歴代随一ルノー・トゥインゴにエントリーグレード「ゼン」(「禅」からきている)が追加された。5速MTと6速EDC(エフィシエント デュアル クラッチ)があり、今回はMT仕様を試乗した。 トゥインゴは現在3世代目。コンパクトボディに最大限の室内空間を確保するのが初代と2代目に共通するコンセプトだったが、現行型はメルセデス・ベンツのスマート・フォーフォーのベース車両としても使われるという大人の(といってもルノーにとってはきっと名誉な)事情があったため、現代のクルマ、それもコンパクトカーとしては非常に珍しいRR(リアエンジン・リアドライブ)レイアウトが採用された。 本来、ラゲッジスペースとなるべき後席背後の下半分がエンジンで埋まり、かといってフロントには補機類が詰まっていてラゲッジスペースがあるわけではないので、荷室容量は初代、2代目ほどではなくなった。その代わりRRならではの特徴的な身のこなしを手に入れた。広いことを実用性というなら実用性は一歩後退したが、操る楽しさや持つ喜びの面では先代までを上回ると思う。 RRならではの身のこなしでは特徴的な身のこなしをご紹介。まずフロントにエンジンがないから前輪の切れ角が大きく、最小回転半径が4.3mと異例に小さい。外で見ているとフロントサスペンションが丸見えになるほど切れているのがわかる。ドライバーはUターンに関して万能感に包まれ、普通はおっくうなUターンが楽しみになるといっても過言ではない。またフロントに重いエンジンがないため、パワーステアリングのアシスト量が少なくて済み、さらに前輪が駆動から解放されているため、ステアフィールが極上。リアエンジン車の常でステアリングギア比はスローだが、多めに回せば問題なし。 楽しいのは、適切な足まわりのセッティングのおかげでもあるはずだ。サスペンションはフロントがマクファーソン・ストラット、リアがトレーリングアームとどこにでもある形式だが、FF車と異なり、前車軸が軽いのでソフトなセッティングにできるのだろう、フロントの足がよく動き、ロードホールディングが良好だ。いっぽうリアはどっしり安定志向。典型的なRRの挙動だ。 簡単ではないけれど、操りがいがある同じゼングレードでもEDC仕様は従来からあるパワフルな0.9リッター直3ターボエンジンを積むが、MT仕様には1リッター直3エンジンが載る。このエンジン、最高出力71ps/6000rpm、最大トルク9.3kgm/2850rpmとスペックはターボ付き軽自動車と同程度。車重は960kg。これも重い軽自動車と同程度だ。したがって絶対的な動力性能は推して知るべし。発進加速も追い越し加速も現代のクルマの中では最もマイルド、はっきりいえば遅い部類に入る。 トルクが細いクルマをMTで走らせるのは簡単ではない。また、このクルマにはタコメーターが装備されないため回転数はわからない。エンジンを遠慮なくブォーンと回したすきにささっとギアチェンジできる、ある程度のベテランじゃないとギクシャクする。ちょうど軽トラを元気よく走らせるような感じで扱うと “らしく”走らせることができる。 MTのトゥインゴはMT初心者には荷が重いかもしれないが、逆にこれをスムーズに運転できればどんなMT車でもスムーズに扱えるはずだ。MT操作が上手な人か上手になりたい人にお薦めしたい。ラクしたいなら絶対にターボエンジンのデュアルクラッチ仕様にすべきだ。 高速巡航でも“らしさ”を感じるパワーはないが音はいい。不快な周波数がしっかり遮断されているのだろう。あとエンジンがドライバーの遠く背後にあるため、隣の部屋のドライヤーの音を聞いているような感じとでも言おうか、聞こえ方がどこか直接的ではない。 望むスピードに達するのに時間はかかるものの、ひとたび巡航状態にこぎ着けさえすれば、そこからは軽自動車とは次元の異なる安定感を味わえる。安普請の欧州コンパクトカーがなぜかしっかりと備えている高速巡航時のスタビリティの高さが、このクルマにもしっかりと備わっている。道路の不整や横風などの外乱に大きく姿勢を乱されることなく矢のように突き進む。フランスではコンパクトカーでも130km/hで長時間巡航させられるから、こういう性能が備わっているのだろう。 その一方で30km/h未満の市街地ダラダラ走行では、例えばダイハツのよくできた軽自動車のほうが快適だ。トゥインゴは低速で段差を超える際にガツンと強めの突き上げをくらうことがある。 気になる点もあるけれどMTのトゥインゴというと、欧州ではどこの街でもたくさん見かけるきわめてポピュラーなモデルだ。すなわち欧州車本来の魅力がぎっしりと詰まったクルマと言えるのだが、日本へ持ってくるとなると、かなり変わった好事家向けモデルとなる。日本こそが相当変わった市場ということだ。だから日本の誰にでも薦めようとは思わない。けれど、これが好みのど真ん中という人も少数ながらいる。ルノー・ジャポンはそれを知っているからこそ輸入するのだ。姿かたちを気に入って、MTが一番安い(171万円)からと、試乗もしないで買うと大変な目にあうかもしれないが、どういうモデルかを知ったうえで、あえてこの世界へ飛び込むつもりなら高い満足が得られるはずだ。 ただし、さすがにこのコンパクトボディだと右ハンドル化は容易ではなかったようで、いくつか無理をしている点があることも指摘しておきたい。少しだがステアリングの中央がドライバー中央からズレているし、右前輪のホイールハウスが邪魔してアクセル、ブレーキの両ペダルが左にオフセットしすぎの感がある。そのため、クラッチペダルも左へ押しやられており、ペダルの左に左足を置くスペースがまったくないのは辛い。操作していない時、左足は靴底をフロアにベタッと付けておくか、足をペダルの下を回り込むように動かしてペダル裏にもっていく必要がある。また、アクセルペダルとブレーキペダルが近く、ブレーキを踏むとアクセルも踏んでしまうこともあった。いずれも慣れが解決してくれるのかもしれないが、少なくともこの日の試乗中はずっと気になった。もともと万人向けの仕様じゃないし、ETCもあることだから、左ハンドルをもってきてもよかったのではないか。 スペック【 トゥインゴ ゼン MT 】 ※上級グレードの「インテンス」に対する装備の簡略化 ※試乗車・装着オプション 【 トゥインゴ ゼン EDC 】 |
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