超キープコンセプトの中に2つの新技術いよいよ2月2日から発売となる新型CX-5は、写真やカタログデータを見るだけでは、正直いってあまり変わり映えしない。 実車をならべて見較べれば、質感向上、プロポーションの変化、そして押し出しが強まったフロントフェイス……など、違いはなるほど明らかだ。しかし、先代と同寸のホイールベースをはじめとしてボディサイズや室内空間に特筆すべき変化はなく、パワートレーンラインナップも先代同様。つまり、超キープコンセプトのモデルチェンジである。 そんな新型CX-5の発売に先立って、マツダは北海道は剣淵にある雪上コースで報道向け試乗会を開催した。ちなみに、ここはマツダが25年以上前から使っている実験場だが、トヨタの士別、日産の陸別、ホンダの鷹栖(これらには広い敷地を活用した超高速周回路や独ニュルもどきのワインディング路などもある)などとは異なり、剣淵は冬季限定。普段は一般道となるルートも含まれており、冬季のみ閉鎖して、マツダがテストに使っているという。 新型CX-5はもちろん、内外装だけでなくボディやシャシーまで徹底的に改良されている。ただ、今回はスタッドレスタイヤ(試乗車はブリヂストンのブリザックDM-V1)を履いての雪上・氷上走行に限られたため、新型CX-5そのもののデキ具合を確認することはできなかった。 新型CX-5には、走行性能の進化に大きな役割を果たしているであろう新技術が2つある。ひとつがCX-5では今回初搭載となる「Gベクタリングコントロール(以下、GVC)」と、今回さらにフリクション低減対策が施された4WDシステム「i-アクティブAWD」だ。とくにこの2つの効果を体験してほしい……というのが、今回の試乗会の主旨である。 人間が感じられるレベル下で制御まずはGVCについて。クルマの運転が上手い人は、加減速による荷重移動で「減速でフロント荷重を増してステアリングの効きを良くして、加速でリア荷重して方向安定性を高める」といった意識でクルマを操っている。GVCの原理は、それをクルマのエンジン制御で自動的におこなう。 GVCの制御そのものは意外と単純だ。操舵すると自動的にエンジントルクを絞り(=フロント荷重を増して)、舵を戻すにつれて、そのトルクの絞りを解放して(=リア荷重に移行して)いく。もちろん、そのサジ加減は緻密だが、やっていることはこれだけである。 GVCには「クルマを操る楽しさを社是に掲げるマツダが、一種の自動運転を率先してやるのか?」というツッコミもあると聞く。ただ、その主張にはちょっと誤解があると思う。 まずGVCの制御はスロットルを自動開閉させる一般的なトラクションコントロールとは違う。GVCのトルク制御は燃料噴射などでおこなっており、人間が右足で調整できるレベルより、はるかに微小な領域での制御である。また、GVCはトルクを絞る方向の制御だけで、トルクを増大する方向には働かない。 これによってGVCで発生する減速Gは最大で0.05G。0.05Gは一般的に人間が感じられる下限値といわれており、GVCはその下限Gを最大時にだけ発生させる。 開発陣によると「この程度のGは路面変化や操舵による走行抵抗で、走行中は頻繁に起こっているレベル」だそうである。さらに「人間は加速方向のG変化には敏感ですが、減速方向にはそれほどでもありません」との研究結果から、GVCはトルクを絞る制御はするが、ドライバーのスロットル操作以上のエンジントルクを増大させる制御はしていない。 もはやGVCなしでは怖い実際、GVCの働きをそのまま“前後Gの変化”としてダイレクトに感じ取ることができる人は、マツダのトップガン・テストドライバーの一部だという。かくいう私も、GVCの効果には目からウロコが落ちる思いだが、エンジントルク変化そのものはまったく体感できなかった。 GVCの実効果は「走行中のタイヤグリップが上がる」ことだ。以前、舗装路でGVCのオンオフを体験したときには、ブリヂストンでいうなら“エコピアからポテンザに履き替えた”ように錯覚するほどだった。もちろん、実際のタイヤは同じなので、乗り心地、ノイズ、タイヤ耐久性は変わらず、グリップだけが上がるのだ。 その効果は数値上でも証明されている。開発陣によると、高速ダブルレーンチェンジテスト(20年ほど前に話題となったエルクテストの一種)の「ISO3888-1」では、GVCを装着しただけで通過速度が5km/hアップしたという。 このテストはC/Dセグメントで平均125~130km/hだそうで、1km/h改善するだけでもタイヤからシャシーまで多岐にわたる改良が必要らしい。なのに、アイテムひとつ(しかも、失礼を承知でいえば、GVCはただの制御プログラムでしかない)で一気に5km/hも上がるのは画期的というほかない。 見事に滑りやすく仕上げられたコースを走らされた最初の新型CX-5は、GVC効果を体感すべくFF車だったが、「これなら4WDはいらない?」と思えるほど安定していた。試乗車には特別にGVCのオン/オフスイッチが追加されていたが、GVCをオフにした瞬間、いきなりレールをはずされたようにふらつく。助手席のマツダ技術者も「細かい修正舵が明らかに増えましたねえ」と笑った。 もちろん、ブリザックは現行スタッドレスタイヤでも高性能なので、一般的にはGVCなしでも十分に安定性が高いはずなのだが、もはやGVCなしでは怖いのだ。GVCの効果はそれくらい如実である。 4WDの反応を高めるオタクな技術を採用続いては、i-アクティブAWD。マツダの4WDはスカイアクティブ世代技術のひとつであるi-アクティブAWDが登場してから、一気に評価があがった。 このi-アクティブAWDも最近流行のオンデマンド型で、ハードウェア自体は特別に目新しくない。フルグリップでは基本的に2WD(FF)で走り、必要に応じて電子制御で緻密に後輪へとトルクを吸い出す。そのトルク配分装置にマツダの場合は電磁式カップリングを使う。 ビスカスカップリングの登場で一気に普及したオンデマンド型4WDは、軽量化や燃費性能では有利だが、当初は「いかに素早く4WDにするか」の勝負だった。結局のところ、主駆動輪が完全に空転してから4WDとなったところで、過酷なシーンでは間に合わないケースが多いからだ。 そこで世界では多様な高反応カップリングの開発が進むと同時に、スロットル操作や操舵などを4WD制御のパラメーターに追加することで「空転する前に、前倒しである程度4WDにしてしまう」という思想を取り入れるオンデマンド4WDが増えた。 i-アクティブAWDもタイムラグゼロのレスポンスを標榜するが、前記のような“見込み”による前倒し4WD制御は基本的にしない。4WD制御に外気温と駆動輪の反力(パワステのセンサーで検知)も追加することで、これまでにない精度と速度で“スリップの予兆”を実際に検知して即座にトルク配分する。 また、駆動シャフトのわずかなネジレやギアのバックラッシュによる反応遅れにも注目。フルグリップ時も微小にトルク配分して、いわば“駆動系のガタ取り”をしておくことで4WDの反応を高める……と、なんとまあ、オタクな技術である。 制御の巧妙さを物語る黒子ぶりFF車の試乗では「4WDなんていらないかも?」と思ってしまったが、実際に同じコースを4WDで乗ると、その安心感はさらに高い。i-アクティブAWDは、マツダならではの乗り味をまるでスポイルしないが、かといって駆動配分によって積極的にクルマを曲げるスポーツ4WDでもない。実際、今回の雪上・氷上でも、体感的にはまるで4WD感はないが、徹底的に黒子であることが、逆に4WD制御の巧妙さを物語っている。 また、i-アクティブAWDは同時に「FFより低燃費の4WD」を開発テーマに、低フリクション化も徹底している。新型CX-5では新たに全軸受をボールベアリング化、さらにハウジング内の形状を変更して、リアデフ内のオイル量をさらに減らしたそうである。 まあ、「FFより低燃費……」というのは物理的にほぼ不可能だが、この低抵抗化と無駄なスロットル抑制が実現した結果、今回のような過酷な冬季道路では、FFより良好な実燃費データが得られるまでになったそうだ。 今回はあくまでGVCと4WDを体感するにとどまった。新型CX-5は見た目やスペックは完全キープコンセプトだが、中身はかように、オタクな進化がテンコ盛りである。 いい意味での“あざとさ”があってもいいひとまずスカイアクティブ第一世代は大成功だった。しかし、こうしたオタクな進化は、新旧をダイレクトに比較できれば効果明白だが、そうでないと分かりにくいのも事実だ。 元も子もない表現をすれば、プログラムひとつで素晴らしい効果を発揮するGVCも、逆にいうとタイヤを履きかえれば似たような効果が得られる。また、オンデマンド4WDをいかに進化させたところで、限界の走破性能は最終的に直結4WDにはかなわない。 マツダのエンジニアリングはオタクには興味深いし、とても良心的である。ただ、こういう良心を世間一般に浸透させるのは長い時間がかかる。市場での新鮮さをキープするには、あざとくても、ある程度のイメチェンは必要だろう。その点で、あまりにキープコンセプトの新型CX-5の商品力に不安がないわけではない。 もっとも、マツダのグローバル販売の4割を占めるというCX-5は、もはやトヨタにとってのクラウンのようなもの(?)。今後の冒険する役割は、ほかの車種が担う番なのかもしれない。 スペック例【 CX-5 XD L Package(2WD) 】 |
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