ポールスターが総合的に手を入れた“本物”モータースポーツチームとして創業した「ポールスター」は、やがてボルボのスポーツ部門的な役割を課せられるようになり、ボルボの中核となるDrive-Eエンジンの先行開発にも参画。現在はボルボの100%子会社である。 独立したレース屋としてスタートしつつ、メーカーとの関係を年を追うごとに緊密化して、車両開発をも分担するようになり、ついには一体化……という同社の歴史は、メルセデスに対するAMGに似ている。 そんなポールスター物件のなかでも、うるさ型のエンスージァストも納得せざるをえない存在が、S60/V60ポールスターである。このクルマだけは軽微なパッケージオプションとは別格で、ポールスター自身がボディ、シャシー、エンジン、変速機、空力まで、総合的に手を入れた本物のコンプリートカーだ。 先ごろのフォードの撤退にも象徴されるように、海外メーカーにとって「うるさいクセに数は出ない」という日本は、もはや未来ある市場ではなくなった。いっぽうで日本は「マニアック商品は高くても確実に売れる」のも特徴で、本格スポーツ車にかぎっては日本は世界屈指の有力市場である。上は4ケタ万円のスーパーカーから下はアバルトやルノー・スポールまで、本格スポーツブランドの大半で、日本は世界トップ5に入る大票田である。 エンジンは掛け値なしに頂点クラスに属するポールスター初(にして現時点でも唯一)のコンプリートカーであるS60/V60ポールスターが初めて世に出たのは2014年(=15モデルイヤー)だが、日本にも当然のごとく初年度から導入された。以降、同車はモデルイヤーごとの限定生産として、17モデルイヤーとなる今回で3年目を迎えた。総生産台数は初年度と2年目はグローバルで750台だったのが、今回は1500台まで増大。日本割り当ても100台に増えた。 このクルマに興味をもつエンスージァストならご承知のように、今回のポールスターはパワートレーンがまるごと刷新された。エンジンは伝統の3.0リッター直6ターボから、最新のDrive-E系の2.0リッター4気筒ツイン過給に、そして変速機も6ATから新エンジンとセットで開発された8ATとなった。 4気筒に低速用スーパーチャージャーと高速用ターボチャージャーを2基がけする基本構成は、最上級カタログモデル「T6」と共通である。しかし、ポールスターでは大径ターボのほか、カムシャフト、バルブスプリング、吸排気系も専用である。コンロッドも短い専用品だが、これは強化部品というより、ポールスターのエンジンが“低圧過給+高圧縮比”という効率重視チューンから、“低圧縮比+高圧過給”という伝統的なハイチューンへの宗旨替えによるものだ。 排気量を大幅に縮小しながらも、出力、トルク値をしっかり上乗せできるのは過給エンジンならでは。新ポールスターは2.0リッターで367psだから、公道量産エンジンとしては掛け値なしに頂点クラスに属する。 もっとも、いかに新世代エンジンで数値上の向上を見ているとはいえ、マニア目線で見ると、希少価値のあった直6に対してダウンサイジングとともにスペックダウンのイメージがあるのは否めない。ただ、このDrive-Eユニットには前記のとおり先行開発からポールスターも関与しており、また現在のWTCCマシンもこのエンジンを基本設計そのままに使っている……というウンチクを伝え聞くに、この種のクルマには欠かせない物語性やカリスマ性はそれなりにあるともいえる。 スカッとぬけた快音とともにスパーンと吹け上がる新ポールスターエンジンは迫力満点だ。また、今回から新機能として「スポーツ+」モードを追加。ノーマルでもスカッとぬけた快音は、スポーツ+モードでは、まさにいい意味で下品な爆音となる。 スポーツ+モードは、シフトレバーをマニュアルスロット側に入れて、ステアリングのシフトパドルを引いたままレバーを2回ティップすると起動する。起動時にメーター内の変速ポジション「S」のランプが一時的に点滅するが、それ以降はモードを示す警告・表示の類は出ない。 こうした控えめな表示パターンや複雑な起動方法は、なるほど“裏メニュー”的な悦びと捉えられなくもないが、少しばかり分かりにくすぎる気がするのも事実。ただ、ベースとなった現行60シリーズはモデル最末期にさしかかっており、新たなボタンや警告灯を追加するわけにはいかなかった……という事情があるのかもしれない。 中低速のレスポンスにも過給ラグの類がまったく感じ取れないのは、この領域をスーパーチャージャーが担当するからだろう。1500rpmも回っていれば、どんな瞬間からもすさまじいトルクを見舞ってくる。 3000rpm付近からさらに鋭さを増すのは高回転担当のターボチャージャーに切り替わるせいだろう。そこから6500rpmのリミットまでトルクの落ち込みを感じさせない……どころか、リミット付近までスパーンと気持ちよく吹けきるのは、さすが本物のハイチューンターボである。 まあ、昭和生まれのオヤジ世代としては、それでも直6特有の“泣き”への郷愁は捨てられないのだが、少なくとも性能は文句のつけようがなく、また競合他社の同種エンジンに対しても官能性も(いい意味での)下品さも負けていない。 しっとりと潤いのある乗り心地排気量と気筒数がダウンサイジングされたといっても、パワートレーンの総重量は残念ながらさほど軽くなっていない。最新8ATは軽量さも売りなので、やはりエンジン周辺の臓物が複雑化しているのが最大の理由だろう。 車検証に記載される前軸荷重は昨年の直6モデルから20kg軽くなっただけである(車両重量もそのまま20kg差)。ハナ先の20kgだから効果なしとはいわないが、乗った瞬間に「軽い!」と直感するほどでもない。 シャシーはタイヤ(ミシュランPSS)やダンパーの銘柄(オーリンズ製DFVダンパー)やサイズ(前後245/35ZR20)も含めて直6時代と大きな変化はない。ただ、パワステが従来の電動油圧から電動式にあらためられて、ブレーキ系が熟成されて、バネと減衰力が再チューニングされているという。たとえば、スプリングはわずかに柔らかくしてあるというが、総合的な狙いは「重量変化に応じた微調整」にとどまる。 運動性能は相変わらずステキである。いさぎよい固定減衰タイプなので、どんな路面でも基本的に硬いが、ひとつひとつの部品や組みつけがよほど高精度なのか、サスペンションそのものは常に滑らかにストロークし続けて、路面を離さない。 さすがに4輪をバラバラに蹴り上げられるような路面では上屋は揺すられるものの、飛んだり跳ねたり……の無粋な素振りはこれっぽっちも見せない。平均的な舗装路ではフラットそのもので、しっとりと潤いのある乗り心地だ。電動化されたパワステの手応えも、今回の試乗では十分に納得できた。 トルコンATであることも大きな魅力今回は箱根ターンパイクをクローズした専用コースでの試乗にかぎられたが、そのぶん遠慮なしに踏みまくることができた。 いかに振り回そうとも、操縦性は基本的に安定したアンダーステアに終始する。敏感ではないのだが、サスペンションの横剛性が高いのか、穏やかなのに正確無比である。なるほど今回のようなコースでは「もっとステアリングを利かせてもいいのに」とも思うが、オールラウンドなストリートスポーツ車としては、この寸止めするセンスこそポールスターの知見であり真骨頂だろう。 4WD機構も黒子に徹するセッティングである。アウディやスバルのようにお尻から明確に蹴り出す味つけではないものの、巧妙に余剰トルクを吸い出してくれるから、どんな運転をしてもフロントタイヤが暴れるような事態はまったく起こらない。 これだけ速いクルマなのにトルクコンバーター(トルコン)ATのままなのを危惧するマニアもいるだろう。今回のターンパイクでは優秀なシャシーとエンジンによるハイペースなリズムに、変速機だけが追いつかない場面がなくはなかった。ただ、普段使いでは、穏やかで融通がきくトルコンATのメリットは大きい。個人的にはあえてトルコンATであることも、ポールスターの大きな魅力と思う。 国内外に伝わるボルボの新型車スケジュールから想像するに、この現行60シリーズベースのポールスターの終わりは近そうだ。このS60/V60ポールスターの潤いある乗り味には、物量たっぷりの重厚なボディやシャシーによるところもある。次期型ベースのポールスターは最新の軽量骨格でさらに速くなるのだろうが、この絶妙で重厚な味わいも継承できるかは定かではない。旧来ボディと新世代パワートレーン……という今回の組み合わせは、後世になって、レアな過渡期モデルとして語り継がれる可能性もなくはない。 いずれにしても、この種のスポーツモデルは、それこそモデルイヤーごと、生産ロットごとに、ああでもないこうでもないと語れるウンチクも重要なキモである。 スペック【 V60 ポールスター(限定65台) 】 【 S60 ポールスター(限定35台) 】 |
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