新型の悩みはハードトップの格納方法マツダ・ロードスターにはよくできているが簡素なソフトトップが備わる。トップを下ろしたくなったらロックを解除してサッと後ろへやればいい。きれいにZ型に畳まれる。慣れれば2、3秒でオープンエアが手に入る。閉じるのもすぐだ。開けたくなったらすぐ開けられる気軽さは、マツダに限らず、ロードスターの本質的価値のひとつだ。 いっぽうで、ソフトトップはセキュリティ上不安だ。計8年間ロードスターに乗ってきてトップを破られたことは一度もないが、大丈夫かな? と不安に思ったことは何度もある。セキュリティ上の不安でオープンカーを諦めるのはもったいないと、マツダは先代の3代目に「ロードスターRHT(リトラクタブル・ハード・トップ)」を追加した。文字通り、格納できるハードトップだ。ちなみに、オープンカー開けっ放し文化の聖地のように言われるアメリカ西海岸でも、実際にはソフトトップのセキュリティを心配してオープンカーを避ける人がけっこういるそうだ。 タルガ風ハードトップに落ち着いた理由現実的なソリューションであるRHTを現行型にも追加しようとした開発陣は、しかしある事実に気づいて愕然とした。先代よりも小型化し、前後の絞りを強めたボディのために、3代目と同じやり方ではハードトップを乗員背後に格納しきれないことが判明したのだ。トップを細かく分割すれば格納できないこともなかったが、複雑になりすぎるし、なにより上げたトップが蜘蛛の巣を引っ掛けたように継ぎ目だらけになってしまう。彼らは考えた。「ガイアの夜明け」が取材しにくるぐらい考えた。 そしてある時、原点に立ち返った。トップを収めることではなく、乗員が開放感を得るのが目的だ。そのためには乗員の頭上の部分だけ格納できればいい。そう考え、ルーフ後方部分は格納せずに残すことにした。そうすればコンパクトなボディにも格納できるし、ラゲッジスペースも確保できる。そうやってできたのが「ロードスター RF」だ。RFはリトラクタブル・ファストバックの略だという。 開閉を実況してみよう。上下に動く手元のスイッチを上げ続けると、サイドウインドウが素早く数センチ下がり、ルーフの後方部分が持ち上がる。持ち上がって出現したスペースにルーフの前方部分(乗員の頭上部分)が格納される。持ち上がっていたルーフ後方が元に戻ってオープンとなる。スイッチを下げ続けると逆の順序で動き、クローズド状態となる。RFは先代のRHTと違ってトップロックも自動となった。全体的に動きはスムーズで洗練されている。特に最後にルーフ後方が元に戻る瞬間、バタンと動かず、ゆっくり静かに戻るのがいい。開閉中のモーター音は注意していれば聞こえるが、街中なら無視できるレベルだ。 結果オーライのファストバックスタイル真横から見ると、ファストバックの傾斜に沿ってリアガラスがあるように思えるが、リアガラスは乗員背後にほぼ垂直に立っている。つまりこれは中央がえぐれたトンネルバックで、両脇はフェラーリをはじめミッドシップによく見られるバットレスになっている。トップを格納する機構を設けつつトランク開口部も確保するための苦肉の策でもあるという。そうやって苦労して実用化にこぎ着けたRFだが、結果的には非常に美しいスポーツカーとなった。トップを上げていようと下ろしていようと美しい。特に斜め後方から見ると、両サイドのバットレスがきれいな稜線をつくりだしている。 クルマというのは見て美しければ乗ってみたくなるもの。早速トップを下ろして都心の道路を走らせてみた。エンジンがそこはかとなく全域でトルキーなのは、RFには2リッター版が搭載されるからだ。例えば北米仕様のロードスターは元々2リッターだが、RFに限って日本仕様も2リッターが搭載された。というのもRFはソフトトップ版に比べ、約65万円高い。その価格に見合った余裕ある性能を盛り込むために2リッターが採用されたのだという。2リッター化とルーフの違いによって車重はRFが約60~70kg重い。 実は国内販売モデル初の2リッターを搭載とはいえ、街中を試乗した限りにおいては、それほど大きな違いを感じなかった。車重そのものの違いとトップ違いによる重心の変化に応じて足まわりのチューニングが最適化されているため、ロードスター特有のひらりひらりとした動きが備わっている。だが2リッター化されたことで、トルクはいくぶん増したものの、回転特性がよりドラマティックになったというわけではないので、2リッターのRFが1.5リッターのソフトトップ版より楽しいとは思わない。 そもそもロードスターがパワフルだから楽しかったことは一度もない。むしろ明確なコンセプトとシャシーの正しいつくり込みがあれば、どんなエンジンでも楽しくできますといういい例だ。だから予算や好みにしたがって選べば良いと思う。ただし、今回試乗したのは豪華仕様のVSグレード。よりスポーティーな挙動を目指したRSグレードならまた話は違ってくるのかもしれない。 サイドウインドウを上げればキャビンはほぼ無風に一般道では、オープン時の風の巻き込み量はソフトトップ版に比べて明らかに少ない。サイドウインドウを上げればほぼ入ってこないといっても過言ではない。これをよしとするか否かで好みが分かれるのだろう。ソフトトップ版はこれ以上ない開放感が得られる代わりに風の巻き込みは大きい。RFは開放感は多少落ちるが、風の巻き込みは防ぐことができる。 開閉に要する時間は約13秒間。走行しながら華麗に開閉したいところだが、残念ながら走行中の開閉は10km/h未満でしかできない。機構的には200km/hでの走行中であっても開閉可能な強度をもっているそうだが、社内で議論した結果、開閉中に事故があってはよくないという判断でそうなったという。ソフトトップのライバルは50km/h前後まで開閉可能なモデルが多いのだから、この点はぜひ再考してほしい。オープンカーはすべからくカッコをつけられるクルマであるべきだ。 スペック【 ロードスター RF VS 】 |
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