新型はヒットした初代の正常進化版昨年夏に発売されたトヨタの2代目「シエンタ」は今もバカ売れ中だ。時期的に考えれば、新型フリードの開発最終仕上げはシエンタのヒットを横目におこなわれた。さぞ不安だったろう…と、新型「フリード」の開発責任者の田辺氏にうかがったら「トヨタさんの新型シエンタが発売されてから、従来型フリードの販売も少し復活しました。シエンタと比較して、フリードの良さをあらためて再認識していただけたのだと思います。シエンタがあってもなくても、新型フリードは変わらなかったでしょう」と強気の発言をしてくれた。 そこには多少のリップサービスもあろうが、先代のフリード(および同「スパイク」)はシエンタでは代用になれない唯一無二の機能が根強く支持されているわけで、田辺氏の言葉はあらかた本音だろう。 先代=初代フリードはいかにもホンダ的な奇想天外な提案型商品であり、それが見事にヒットした。こうした場合、次の世代はガッチリ守りに入った正常進化をさせるのがホンダの常で、新型フリードも例外ではない。 というわけで、新型フリードは予想外の部分は少ないが、細部までいちいち進化しており、「この小さなボディに、よくもまあ、これだけ詰め込んだものだ」とあらためて感心する。 室内空間は拡大。ハイブリッド4WDや超低床化も実現今回の進化のキモとなったのは開発陣が「ギリギリの許容範囲」と判断して50mm伸ばされた全長と、動力バッテリーを含むハイブリッドユニットが、従来のトランク床下からフロントシート下に移設されたことだ。 進化のキモその1…であるボディ全長の拡大だが、各部の寸法をさらに削り取ることで、室内長は先代比で+90mmと、外寸の拡大以上に広くなった。 室内空間の余裕は数値上だけでなく、ハッキリと体感できるくらい増えている。先代でも身長178cmの筆者が苦もなく7人座れて驚いたものだが、新型ではヒザや頭はクルマのどこにもまったく当たらず、3列すべてで健康的な姿勢で座ることができる。各シートのサイズやデキも相変わらず十分に優秀で、前席左右の余裕も増しているから、新型の恩恵は前席でも味わえる。 ただ、あえて不満をいうなら、ミニバンの特等席であるはずの2列目シートが、フロアに対してちょっと低すぎる(=ヒール段差が小さい)ことだ。筆者の場合、2列目に正しい姿勢で座ろうとすると、どうしてもヒザ裏が浮いてしまう。着座姿勢だけ取れば、3列目のほうが気持ちいいくらいである。2列目のスライドを目いっぱい後ろにして(2列目スライド量の拡大も新型の売り)アシを投げ出せばヒザは浮かないが、そういう姿勢で移動すると、かえって疲れるものだ。 この点はパッケージ担当エンジニアも迷ったところだそうで、最終的には「頭上の開放感とのバランスを考えて、このヒール段差にした」という。日本ではそういう心理的開放感がショールームで評価されることは理解しているが、それでなくても頭上空間は見上げるほどある。この2列目のヒール段差以外は文句なしに見事なパッケージだけに、ここも正論で通してほしかったところである。 進化のキモその2…によって、新型フリードのリアオーバーハング床下はポッカリと空いた。それを活かして、新型フリードでは積雪地域待望の「ハイブリッド4WD」というバリエーションを用意することに成功した。 また、2列シート車も床下空間を利してトランクを超低床化。ひとつのボディで大容量ワゴンと車いす仕様…という一石二鳥パッケージを実現している。このアイデアは軽自動車の「N-BOX +」と同じなので、フリードの2列車は従来の「フリードスパイク」から「フリード+」に改名した。 パワーソースはガソリンとハイブリッドの2種類パワートレインは1.5リッター+CVTの純エンジン車と、フィットなどでお馴染みの1.5リッター+7速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)をベースとしたハイブリッドの2機種で、車いす仕様をのぞいて、ほぼバリエーションで4WDが選べる。 フィットの初出当時はギクシャク感が目立ったハイブリッドも、かなり滑らかになった。それでも減速しかけての再加速…といったそもそもDCTが不得意とするパターンだと、通常のエンジン車以上に迷いとためらいが出てしまうクセは宿命的に残ってはいる。 そのあたりは「運転パターンから次のギアをスタンバイして待っている」というDCTの特性を理解して、あまりトリッキーなアクセル操作はしないように心がけると走りは洗練される。よく整備された路面ではハイブリッドの重さが「重厚感」につながって乗り心地も1.5リッターより高級感があったが、凹凸に蹴り上げられると、多少ドタバタするのは仕方ないだろう。 待望のハイブリッド4WDは、あくまで黒子に徹するタイプだ。走っていて4WD感はほとんどないが、都市高速のカーブなどで進入速度を間違っても、ある程度まではシレッと曲がれてしまうくらいには効く。 エンジン改良と車重の軽さもあって、1.5リッターは乗っても明らかに軽快で活発だ。事実、加速タイムその他の動力性能値でもハイブリッドを上回るという。ただ今回は最大3名乗車での試乗にとどまったので、フル乗車や多積載で走る場合には、低速得意のモーターが組み合わせられるハイブリッドのほうが乗りやすいかもしれない。 フィットベースながら専用設計で快適を向上乗り心地の大幅改善も新型フリードの美点である。リアサスペンションを専用の高剛性トーションビームと液封ブッシュ(!)という贅沢な設計としたことが如実に効いている印象だ。プラットフォーム構造では「フィットのミニバン版」といえるフリードだが、シャシーやボディ骨格などの基礎メカニズムは、実際には大半がフリード専用設計である。 リアの追従性がしっとりと落ち着いているので2~3列目の乗り心地も大きく改善して、静粛性も向上したという。ステアリングはホンダらしく、シエンタより機敏に反応する設定となっているが、クルマ全体がドシッとリアを軸に動いてくれるので、フリードのような背高グルマでも不安感が小さい。 フリード+のボディ骨格は車いす仕様とあえて共通になっているそうで、2列のハイトワゴンとしてはリア周辺のボディ剛性は過剰なほどだという。ごくわずかな差ではあるが、同じ乗車人数でも、操縦性はフリードよりフリード+のほうが好印象な気もした。まあ、単なるプラシーボ効果かもしれないが…。 ちなみに、フリードのシャシー設計を率いた深海氏は、この前には「S660」を担当して、その昔は初代「インテグラタイプR」もつくった人物である。そんな深海氏の「FFでいちばん重要なのはリアサスペンションなんですよ」という言葉を、フリードに乗ってからお聞きすると、なんとも味わい深いものがある。 ライバルのシエンタと価格&装備は拮抗冒頭の田辺氏がいくら「シエンタは敵でない」といっても、価格設定を見ればシエンタを意識しているのは明らかで、装備を揃えると、両車は価格でも拮抗する。 今や必須アイテムとなりつつあるアドバンスドセーフティ機能でも、シエンタのセーフティセンスCよりフリードのホンダセンシングのほうが高機能。さらに車間距離維持機能付きのアダプティブクルーズコントロール(ACC)は現時点でシエンタにはないフリードの特権。ACCの便利さを知る人には、これひとつでもフリードを選ぶ理由にはなる。 それにしても、この小さなボディにあらゆるものを詰め込んだフリードは、まさに日本人が得意とするボンサイ技術の典型である。筆者自身はミニバン不要の家族構成だし、フリード+のような大容量トランクを必要とする生活も、車中泊趣味も持たない。なのに、フリード/フリード+をちょっと見ただけで「これが1台あれば、こんなことできる、あんなこともできる…」とあらぬ皮算用をかきたてられてしまう。 そもそもフィットを買いにショールームを訪れても、フリード+を見せられると思わず「予算があればこっちにしよう」と傾く向きは多いだろう。また、フリードのミニバン機能は、少しばかりの余裕のちがいはあっても、上級の「ステップワゴン」と実質的に差はない。「どうしても8人乗せたい」という切実な事情をお持ちでないなら(フリードは最大7人乗りまで)、ステップワゴンを見に来ても「フリードでいいや」となってしまうケースも少なくなさそう…と勝手に妄想してしまう。 田辺氏が「シエンタのおかげでフリードが復活した」というように、新型フリードの宿敵はシエンタではなく、じつはフィットやステップワゴンかもしれない。かつての王者だったフィットも、国内販売では今ひとつピリッとしない。このままいくと、ホンダの国内市場は「軽とフリードだけ」になってしまうのではないか。新型フリードの爆発的な機能を見るに、他人事ながらそんな心配をしてしまう。 スペック例【 フリード ハイブリッド EX(FF/6人乗り) 】 【 フリード+ G・Honda SENSING(FF/5人乗り) 】 |
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