共通点はターボと4WDだが…1990年前後に日本車が頂点を極めた瞬間があった。各メーカーから色々なコンセプトで開発されたクルマが登場し、どれも魅力にあふれていた。中でもスポーツカーの分野では日産R32「GT-R」が復活し、GT-Rの伝統が蘇った。「グループAで勝つ」という大義のもとに開発された点は、初代のGT-Rと同じだった。 一方、ホンダはF1の第二期黄金期にポルシェやフェラーリをライバルとするスポーツカー「NSX」を開発した。それまでのスポーツカーとは異なる新しい価値を提供し、三本目の基軸を打ち立てることに成功した。独自の世界観を持ったNSXは当時の量産メーカーの常識を覆すオールアルミ・モノコックボディで徹底的な軽量化に挑み、ABS、トラクションコントロール、エアバッグなどの安全性と快適性も実現していた。1990年前後に登場した忘れることができない日本車は他にもあるが、世界のスポーツカーのスピード競争に参戦したGT-RとNSXは、日本車のフォワード2トップだろう。 それから四半世紀が経った今、あのGT-RとNSXが新型車として蘇っている。R35 GT-Rは2007年の登場以来10年かけて技術を磨いてきたが、NSXは2005年に生産が中止され、今年、事実上の2代目NSXが登場した。GT-Rはターボパワーと電子制御4WDというR32 GT-Rのコンセプトを踏襲しているが、NSXは 3つのモーターを持つハイブリッド4WDとして開発されている。 共通点はターボと4WDだが、NSXはフロントに配置される左右独立モーターで旋回モーメントをアシストできるモーターベクタリングという新兵器を搭載するため、スペック的には似ているものの、走り味はまったく異なっていた。この2台のスポーツカーはどんなパフォーマンスを持っているのだろうか。 タイヤの違いに両者の違いが現れているドリフトBOXを使ってドライの路面で0-100km/h加速と100-0km/hの加減速をテストした。まずは2台のスペックと状態を紹介しよう。 GT-Rは最新の2017モデルでタイヤはオリジナルのダンロップ・SPスポーツマックス。フロント7分山/リア9分山であった。ランフラット構造のGT-R専用タイヤだが、外形が大きいのでリプレイスは存在しない。フロントヘビーなGT-Rはどうしてもフロントから減りやすい。 NSXは乗り心地を重視したコンチネンタル・スポーツコンタクトを履くが、ブロックはGT-Rのタイヤよりも小さく、明らかに静粛性や乗り心地を重視している。また、テストカーはフロント8分山/リア6分山とややリア側が減り気味だった。NSXはミッドシップなので、GT-Rとは反対にリアが減りやすいのだ。 スポーツカーにとってタイヤは極めて重要だが、チーフエンジニアがどんな性能にこだわったのかでタイヤの選択が変わってくる。GT-Rはニュルブルクリンクで「ポルシェ 911ターボよりも速く走ること」にこだわったので、タイヤはサーキットを主眼に置いて開発されている。 一方、NSXはモーターを積極的に使う次世代ハイブリッドスポーツカーなので、静粛性と乗り心地を重視している。その半面、サーキットでは物足りないので、ホンダはピレリ・Pゼロ トロフェオRをリコメンドしている(米国ホンダ)。 早い話がGT-Rは乗り心地を犠牲にしてでもホットな走りを重視し、NSXは意外にもロードカーとしての快適性を重視しているということだ。 加速/減速は互角だが、フィールは全く違うパワー・プラントを見てみよう。GT-Rは3.8リッターV6ターボで570ps/637Nmのパワー/トルクを発揮し、DCTと組み合わされる。NSXは3.5リッターV6ターボで507ps/550Nmを発揮するが、前後合計3つのモーターが装備されているので、瞬間的にはモータートルクが加算される(システム合計出力=581ps/646Nm)。重量もパワー・トルクもほぼ同じレベルにあるので、タイヤのキャラクターの違いのほうが性能への影響は大きそうだ。 発進加速テストもクロスゲームだった。0-100Km/h加速ではGT-Rが3.62秒、NSXが3.63秒。だが、加速フィールも醤油とソースくらいの違いがあった。どちらもローンチコントロールを使用して発進したが、GT-Rは予想どおりクラッチを急激につなげるロケットのような加速力で、荒々しい発進加速に驚くが身体には悪そうだ。 NSXはフロントに左右独立のモーターを配し、リアのDCTギアボックス内にもモーターを1基持っている。最初はモーターで発進、エンジンがもたつく間モーターがアシストするので、気がつくと加速に乗っていて、後からエンジンが車体を加速させていく。スムーズという言葉は適当ではないが、異次元のローンチスタートだった。 1.7トンの重量級スポーツカーはブレーキが厳しいはずだ。100-0km/hのブレーキは制動距離でGT-Rが34.68m、NSXが34.89mとほぼ互角。加速テストと同様にデータは互角だったが、実際にはフィールが全く異なっていた。GT-Rは前につんのめる感じで止まるが、NSXは後ろから引っ張られる感じだ。また、両車ともブレーキペダルの剛性感に不満はないが、板を踏んでいるようなフィーリングなのはいただけない。右足のデリケートなタッチでコントロールできるポルシェのブレーキにはまだ届いていない。 驚きはハンドリング。スマホとガラケーぐらい違う!しかし、もっと驚いたのはハンドリングだ。ミッドシップのNSXに分があるのは明白だが、NSXは低重心なのでフロントタイヤが軋むまでもなく、ステアリングを操舵した瞬間にワープした感じのコーナリングが可能だ。限界ではリヤタイヤのグリップ力とリヤサスペンションの剛性感にすこし物足りなさを感じるが、限界の90%くらいまでなら、前後のバランスは悪くない。 ところで、NSXの特徴であるモーターベクタリングはプロトタイプよりもマイルドにチューンされている。ホンダの話では量産ボディの剛性が高まったことが効いているらしい。実際のハンドリングではどこまでモーターが貢献したのかは観察できなかった。大切なポイントはハンドリングに関しては1.7トンという重量は感じられなかったということだ。 GT-RとNSXは似たような車両重量だが、フロントエンジンのGT-Rはフロント荷重が大きいため、ハンドリングではやや不利だ。GT-Rはタイヤのコーナリングパワーを高めることで、フロントヘビーな特性に対応している。実際のハンドリングも高いタイヤ性能を活かして、限界まで気持ちよく走ることができた。 テストで得られたデータではGT-RとNSXは互角だったが、モーターで加速し、低重心のハンドリングを持つNSXの走りは新鮮だった。ハイブリッド技術はF1からWECまでレースマシンのスタンダードになりつつある。早い話がGT-Rは超高性能なガラケーで、NSXはスマホなのだ。だが、昔のスポーツカーを知っている人にはGT-Rのアナログ的なドライブフィールはありがたい。 結局、この2台のスポーツカーはアナログとデジタルの違いなので、単純に比較して優劣を語るのは難しい。個人的にはNSXの未来を見守りたいし、ハイブリッド化した次世代のGT-Rを夢見たい。 スペック【 NSX 】 【 NISSAN GT-R Premium edition 】 |
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