遅遅として進まないドイツのEV普及自動車先進国として自他ともに認めているドイツは、メルケル首相の音頭取りで国を挙げての電気自動車普及に励んでいる。今年6月にはEVに対して4000ユーロ(約45万円)、PHEVには3000ユーロ(約34万円)のインセンティブ(販売奨励金)の給付を決定し、2020年までに100万台の普及目標に対して加速を開始した。 しかし翌7月のEVおよびPHEVの新車登録台数は惨たんたるものであった。新車総登録台数27万8866台に対して、ハイブリッドは3万6250台で前年同月比26%上昇、PHEVは1016台で7.6%の上昇とまあ良い傾向を見せたのだが、肝心のEV(電気自動車)はわずか785台と前年同月比でマイナス18.4%となってしまった。つまり政府の決断にも関わらず電気自動車の普及は遅々として進んでいないのである。 EVの四重苦、特に200km程度の航続距離が問題まあ、日本でもEVおよびPHEVはこれに近い状況で、2016年5月までのEV/PHEVシェアはようやく0.6%に達したに過ぎない。中でもローカル・エミッション・ゼロのBEV(ピュアEV)の普及は遅々として進んでいないが、それにはいくつかの理由が存在する。 まず、1)航続距離の問題、続いて2)充電時間と3)充電インフラ、さらに4)車両本体価格が高い、という四重苦に対して決定的な解決策が見当たらない事が大きな問題点なのである。 特に現時点でのEVの平均的な航続距離が200km程度という問題は致命的で、たとえ通勤やショッピングなどで1日平均50km程度であると言われても、高価なEVを通勤や買い物だけに使うには贅沢過ぎるというものだ。そこで各国のEVメーカーはこの航続距離増大のための努力を続けている。 本格的なEV専用カーボン・ボディまで開発したBMW「i3」も同様だ。2013年にドイツ、2014年からアメリカや日本で発売開始されたi3の初期スペックは125kW(170ps)の電気モーターを搭載し、エネルギー消費量は12.9kWh/100kmで、航続距離は190kmだった。この数字に不安を持つユーザーにはレンジエクステンダーが用意され、SOC(充電率)が25%へ低下すると発電を開始、120km~150kmの追加走行を可能にする。 i3の販売台数だが、2015年は世界市場に向けて2万4000台が出荷された。特に重要な輸出先はアメリカで、2014年発売時点で4万1350ドルという高い値付け(ニッサン・リーフは約2万9000ドル)にも関わらず1万3300台が販売されている。 新型i3は航続距離が50%も向上前置きが長くなったがBMWはこのi3を進化させ、今年の秋から発売を開始する。新たに供給される電解質の改良などを受けたリチウムイオン電池はサムソンSDIと共同開発され、サイズは不変のまま従来の60Ahから94Ahへと容量アップ。航続距離は190kmから300km以上に延び、リアルワールドでも200kmと発表されている。ちなみに車重は1245kgで電気モーターの出力は170psと変わらず、0-100km/hの加速所要時間も7.3秒に留まっている。 一方、航続距離が伸びても充電時間が伸びてはあまり意味が無い。BMWは家庭用充電システムを7.4kWから11kWに増加することで、従来モデルとほぼ同じ3時間弱での充電を可能にしている。さらにもし将来的に50kWの充電ステーションが完成すれば40分で80%の充電が可能になる。 この新しいi3のドイツでの価格は3万6150ユーロで、併売されるベースモデルの3万4950ユーロよりも1200ユーロ(約13万5000円)ほど高い。また両モデルともに従来同様レンジエクステンダー付きモデルが5000ユーロ(約56万5000円)の追加料金で用意される。 良い事ずくめの改善だが、そうなると古い電池だけを交換したいオーナーも出ると思う。ドイツのBMWではこれも可能にしている。価格はまだ発表されていないが、新しいバッテリーに交換可能で、その保証期間は8年で10万kmとなっている。 延びた航続距離は新型i3の販売を変えられるか?さて、肝心のドライビング・インプレッションであるが、エクステリアやインテリアのデザイン上の変化はほとんど見当たらない。もっとも大きな違いは私が選択したボディカラー「プロトニック・ブルー」は94Ah仕様の専用カラーという事ぐらいである。家具のようなインテリアも材質と仕上げが若干変わったかなと思うくらいで、ここでも外観同様に新旧の差は並べてみないと判らない。 走り出すと、もうEVでは慣れているはずの立ち上がりからの鋭い加速力に驚かされる。特に面白いのはドライビング・ポジションを含め、車高が1.58mとSUV並の高さであるにも関わらず、殆どロールをもせずにコーナーをスイスイとクリアして行くところだ。フルカーボン・ボディがもたらす驚くほど逞しい剛性による確かなステアフィールはハイライダー・スポーツカーと名付けてもおかしくないドライブ・フィールを提供する。同時に大きな開口部を持つ観音開きのドアが乗降性、実用性を高めており、260L(リアシートを倒せば1100L)のカーゴスペースも考慮するとシティカーとしても最適である。 結論を言えば、なによりも嬉しいのは最低でも200km、条件さえ許せば300kmは走れるという安心感である。それはバッテリーの改善から読み取れる確かな数字なのだ。この「確かさ」「安心感」がニューi3の魅力である。今から3年前の発売直後、60Ahバージョンで厳寒のドイツで田舎道を走っている時に、満充電でスタートしたはずなのに航続距離があっと言う間に二桁になってしまった時の心もとなさは今でも忘れられない。 この94Ah仕様であればこうした電欠におびえる事無く「ドライビング・プレジャー」を楽しむことができるだろう。 ※1ユーロ=113円の概算値 |
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