実は日本製のアバルト124スパイダーマツダとフィアットのコラボで生まれた「フィアット124スパイダー」がついに日本に登場した。癒し系スポーツカーとして定評がある「マツダ ロードスター」(以下、ロードスターと表記)をベースにして開発されたフィアット124スパイダーは、日本のフィアット・インポーターに“広島の”工場から直送される。つまり国産車扱い。エンジンはフィアット製1.4Lターボが搭載されるが、これはイタリアから直送されるのだ。つまり注目はフィアットの心臓が移植されたロードスターがどのように変貌したのかということになる。 フィアット124スパイダーにはベースモデルの他に、アバルト・マジックが施された「アバルト124スパイダー」も存在する。そして日本では、エンジンをパワーアップしたアバルト124スパイダーだけが市販される。ベースモデル同士だとロードスターのライバルになってしまうことを両社は嫌ったのがその理由で、ロードスターよりも約100万円高いことで差別化はできている。当然、日本ではサソリマークの「アバルト」ブランドで市販されることになる。 ということで、アバルトの話からはじめよう。アバルトはイタリアに移住したオーストリア人の名前で、戦後、フィアットのチューニングパーツの市販から事業をスタートした。もともと走るのが好きだったアバルト氏はラリーカーのチューナーとしてもフィアット社から信頼され、ロードカーのチューナーとしても活躍。ラリーでは小さなクルマを俊敏に走らせる能力が求められる。一方、同じフィアットグループのアルファロメオやフェラーリはF1などのサーキットレースで、大きなエンジンを搭載するパワー競争に昂じていたわけだ。ちなみに私のような世代のハートには、70年代に大活躍したラリーカーの名車「131アバルト・ラリー」が刺さる。 アルファロメオからフィアットになった理由とは?60年代は「フィアット124スポルトスパイダー」のアバルトチューンがラリーで活躍していた。その意味では今回日本で市販されるアバルト124スパイダーは50年ぶりの復活となった。 このマツダとフィアットのコラボレーション企画がスタートした当初は、アルファロメオ・ブランドのスパイダーとなるはずだった。だが、アルファロメオはプレミアムセグメントに格上げされることが決定され、FRスポーツサルーンの「アルファロメオ ジュリア」の開発が始まると、ライバルはメルセデスの「Cクラス/Eクラス」やBMWの「3シリーズ/5シリーズ」で、マツダとアルファロメオのブランドイメージがバランスしないことになった。そして最終的に、フィアット124スパイダーが復活したのだ。日本でのブランディングを考えると、心底、アバルト124スパイダーで良かったと思う。 ベースとなるマツダ車は最近、ドラポジやペダル配置など人間中心の基本性能が光っている。一方、右ハンドルのイタリア車は今までペダル配置が悪くて、さすがのイタ車信者たちも我慢して乗っていたのが現実だ。輸出に向けた主たるビジネスモデルが無いフィアットにとって、右ハンドルのATを望む日本市場は面倒くさい市場だったのだ。 だが、イタリア車信者は日本に少なくない。例えば、アバルトモデルはイタリアについで世界で2番目に売れているのが日本で、信者は多いがまともな右ハンドル+AT車がないという辛い時代が続いていた。新しいアバルト124スパイダーには最良のペダル配置、オルガン式ペダルに加えて、トルコンATまで備わる。これは紛れもなく、神様からイタリア車信者への贈り物なのだ。 ターボエンジンのダイナミックパフォーマンスマツダ ロードスターは日本では1.5L自然吸気エンジンを搭載し、あえてアンダーパワーにすることで、原点回帰を目指している。しかし、フィアットは自前のアバルトチューンされた1.4Lターボをイタリアから送り込んできた。エンジンのトルクではマツダが150Nm、アバルトが250Nmと100Nmも差があるし、NAとターボという異なるキャクターなのでユーザーは迷うこともないだろう。 実際に乗ってみると意外なことに気がついた。アバルトのターボはチューンされているので、VWのTSIエンジンのように低速からフラットトルクではない。むしろターボ特有のタイムラグを感じる昭和風のターボなのだ。ブースト圧が高まるとグッと加速Gで背中を押される。この感覚は嬉しい。オプションのアバルトマフラーを装着すれば音もご機嫌で、絶対にこのオプションは装備したいところだ。 シートの出来栄えは完全にアバルトがいい。シート全体が身体にフィットするし、腰と背中のパッドは芯のある柔らかさを備えている。ロードスター・オーナーでもこのシートに変えたいはずだ。 エンジンのレブリミットは6500回転なのでこまめにシフトする必要がある。一方、参考テストした「マツダ ロードスターRS」はリニアで素直なトルク感だが発進加速は4000回転ぐらいまで回転を上げないと十分な加速力が得られない。ただし、普通に走るなら150Nmでも十分だ。ロードスターの0-100km/h加速は9.5秒、アバルト124スパイダーが8.2秒となった(富士スピードウェイ・P2で計測)。 燃費はJC08モード燃費で6速MTが13.8km/L、6速ATが12.0km/L。ただし、MTのモード燃費試験がいい加減なので(エンジンを回しすぎる)、MTは実燃費のほうが良くなる可能性がある。さらに言っておくと、ターボの燃費が悪いというのも都市伝説的なもので、未計測だが、250Nmの仕事ができるエンジンとして実燃費を測ってみれば決して悪くないはずだ。 シャシー性能が美味しい「トヨタ 86」や「マツダ ロードスター」の人気で“FR”を誤解する人が少なくないが、ドリフトすることがFRの楽しみだと勘違いしないでほしい。ドリフトはジムカーナや限られた場所でしか味わえない、趣味のドライビングだ。FRは前輪にエンジンのトルクがかからないから、ステアリングがスムーズで振動でも有利。つまり、走りがFFよりも洗練されることがポイントなのだ。 また、FRは重量配分前50:後50がベストという都市伝説も蔓延している。今回テストしたアバルト124スパイダーの重量は、車検証の記載値で1130kg、前後加重は前54%:後46%だ。ロードスターは90Kg軽い1040kgだが、同じ前54%:後46%だ。重心点から重いモノの距離が運動性能に影響するため、静的な重量配分ではなく、正しくは慣性モーメントが大切なのだ。総重量も軽ければ良いというわけではなく、サスペンションやホイールなどに重量をかけることも大切だ。静的な前後重量配分と重量の数値ではなく「重さをどう配分しているのか」が自動車の重要な技術なのである。 前置きが長くなったが、両者ともターンインはスムーズでハンドリングに不満はない。アバルト124スパイダーは250Nmのトルクを使ってコーナーリング中もパワースライドが可能だ。でも、美点はそこではなく、ステアリングフィールに芯があることだ。 サスペンションはロードスターよりもダンピングが高く、バネ上の姿勢変化が少ない。硬すぎず柔らかすぎず、アルデンテのパスタのような歯応えで、乗り心地とダイナミクスのバランスが良い。ロードカーにおけるアバルト・マジックは健在だ。アバルト124スパイダーはブレンボ製のブレーキを使うが、意外にも踏力感や剛性感はロードスターのほうが高い。 嬉しいのは6速トルコンATが選べること。これはアバルトの初体験だと思うが、ターボとトルコンATは相性が良いので、限定免許専用車ではなく、かえって6速MTより速いかもしれない。アバルトのサソリは毒ではなく、ドライバーに適度なアドレナリンを与えてくれる良薬であったと締めくくっておこう。 スペック【 アバルト 124スパイダー 】 |
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