ミディアムミニバンは「最新が最良」結論からいうと、2016年9月現在、細かな好き嫌いを省けば、5ナンバーワンボックスという市場で総合商品力が最高なのは、この新型セレナと考えていい。 このジャンルは、日産にトヨタとホンダを加えた3強だけで熾烈に争う市場だ。その3強がすでに15年以上、たがいにネジの1本にいたるまで研究し尽くして、ミリ単位でせめぎあっている。しかも、日本以外ではビジネスにならないから他社の参入も実質不可能といってよく、ある意味で軽自動車以上に特殊な進化を遂げてしまっている。 だから、その3強いずれかの新型車が発売されるときには、それ以外の2強をほぼ全面的に(僅差であるが、確実に)上回って出てくる。新型セレナは、トヨタのヴォクシー/ノアより2年半強(エスクァイアは少しだけ新しいが中身は一緒)、ステップワゴンより1年半弱も新しい。よって、新型セレナはその新しさのぶんだけ、ライバルよりも優秀である。価格設定も、装備内容を考えれば、もっとも割安である。 また、限られた外寸にすでにギリギリまで室内空間を広げているので、言っちゃ悪いが、エクステリアデザインもどれがどれだか門外漢には区別がつきにくいほど酷似する。特定のメーカーに思い入れがないなら、このクラスは基本的に「最新が最良」と覚えておけば、選ぶときに迷いも減ると思う。 新型セレナに対するほか二強のアドバンテージをあえて探すと、トヨタ(のフルハイブリッド)のほうがカタログ燃費がよく、さらに静粛性と市街地での動力性能が少し優れる。また、自分で運転するならステップワゴンの動力性能はさらに小気味よく、操縦性もわずかに正確。また、3列目シートが床下収納であること(トヨタと日産のそれは左右跳ね上げ式)や例の「わくわくゲート」が自分の生活スタイルや好みにピンときたなら、ステップワゴンを選ぶ価値がなくはない。 熟成きわまるシートアレンジ新型セレナの基本パッケージレイアウトは先代と変わっていない。5ナンバー基準の全長や全幅はもちろん、もともとクラス最背高だった全高も先代同様。プラットフォームもキャリーオーバーなので、トヨタやホンダほどの低床設計ではなく、結果的に室内高だけはクラストップではないが、子供ならゆうゆう室内を歩行移動できる程度にはキャビンのタッパに余裕はある。 新型セレナの諸元表に記される室内長だけが大幅に伸びた理由は、3列目シートにスライド機構を追加して、キャビンのギリギリまで下げられるようになったからで、室内容積は実質的に変わっていない。 3列目がスライドするようになった以外、シートアレンジは新型でも、熟成きわまって定評のあるセレナのそれ。つまり、2列目センタークッションを1列目まで追いやれる超ロングスライドとして、2列目をベンチ型(8人乗り)と独立キャプテン型(7人乗り)の両形式で使えるようにしたタイプだ。 これによって、8人乗りと7人乗りを購入時に選ぶ必要がなく、2列目左側には横スライド機構もついていて、3列目への動線を中央、もしくは左端の2タイプから選べるのは、セレナ伝統の売りである。 こうして文字にすると分かりにくい複雑なシートアレンジを、実際にはなんの迷いもなく、すべて片手(場合によっては指一本)でサクサクと軽く扱えるところは、さすがの熟成きわまる……という感じ。Dシェイプのステアリングホイールもまるでスポーツカーみたいだが、これも「運転席から後席の子供のところに素早く移動できるように」というのが最大の採用理由という。 また、全席での余裕も、セレナが現時点でトップといっていい。3列目もスライドで空間が広がっただけでなく、ヒップポイントも上げて、座り心地や着座姿勢も3強でもっとも健康的。室内高は少しだけライバルにゆずるが、シートに座ってしまえばどっちにしろ天井は見上げるほど高い。 今どきの生活スタイルに最適化した細やかな改良感心するほど滑らかなシート作動以外にも、細かい改良点は多い。なかでも明らかな改良といえるのは、2列目シートベルトをビルトインにしたことで、2列目に人が座ったまま(もしくはチャイルドシートを装着したまま)でも、気がねなく3列目に乗降できるようになったこと、そしてリアゲートをウインドウ部だけで開閉可能な2分割式としたことだ。 こうした改良点のキモについて開発陣に話をうかがうと「最近は祖父母を含めた3世代、もしくは親戚・知人家族を加えた2家族で移動して、3列目に大人や大きな子供が乗るケースが増えた。また、巨大化したリアゲートは、もはや、せまい場所では使いものにならなくなっていたから」という。 そういえば、これとまったく同じ内容の話を、1年半前にステップワゴン担当氏からも聞いたことは興味深い事実だ。各社ともユーザーの生活スタイルや、そこから生まれる不満点・改善点は知り尽くしている。ほぼ同じ課題への解決策として、ホンダはわくわくゲートを編み出し、日産はビルトインベルト&上下分割ゲートにいたったわけだ。……となると、トヨタも次期ヴォクシー/ノア/エスクァイアで、この課題になにかしらの手を打ってくることは必至である。 基本的な走り味や快適性についても、個人的には現時点で新型セレナがもっとも好ましいと思う。上屋の動きはホンダやトヨタより大きめで、またステアリング反応もホンダほど俊敏ではないが、トータルでクルマをゆったり自然に動かそうとする大人のチューニングである。ミニバンならではの「寸止め」のサジ加減はさすが手慣れたものがある。 開発陣は「全席で乗り心地や静粛性はクラストップ」と豪語しており、なるほどロードノイズや突きあげはうまく丸められている。ただ、パワートレーンノイズはお世辞にも静かとはいえず、さらに絶対性能や柔軟性で、トヨタのフルハイブリッドやホンダのターボに一歩ゆずる。新型セレナで周囲の流れに乗っていこうとすると、必然的にスロットル開度も大きめになることもあり、高速ではときおり、ライバルより「遅い、うるさい」と感じてしまうかもしれない。 プロパイロットはどこまで使えるか?新型セレナといえば、国産初をうたう自動運転システム「プロパイロット」を無視するわけにもいかない。日産プロパイロットは「車速10km以下で前走車あり」という条件では手放し完全自動運転も可能だそうで、この点ではメルセデスなどとならんで、市販車としては世界でもっとも高度な自動運転システムなのは事実。さらに、それを基本的にカメラ1個のシンプル(=低コスト)なシステムで実現したことは素直に感心する。 ただ、リアルな交通環境でそんな条件で手放し走行できるケースはまずない。よって、日産自身も実際は「高速道路のみの使用」を想定しており、これは実質的に「全車速対応&車線維持アシスト付きアダプティブクルーズコントロール(ACC)」である。 国産車でプロパイロットにもっとも近い機能を有しているのはスバルのアイサイトだ。アイサイトに対するプロパイロットのアドバンテージは、車線維持アシスト範囲が広いこと。担当氏によれば「実質的に日本国内の自動車専用道路すべてをカバーする」とのことだが、実際には設定速度が高すぎたり、滑りやすい路面状況ではアシストしきれないケースもままあり、今回の横浜周辺1時間程度の試乗では、アイサイトに対して明確に秀でたシステムとはいいづらい。 ただ、面白いのはステアリングに沿えた手に、クルマにまるで意志があるかのように強力にグイグイと強めの介入が伝わってくることだ。このあたりは「自動運転感」を演出するための意図的なチューニングだとか。 惜しいのは1カメによる車間検知精度が甘いのか、あるいはエンジンパワーに余裕がないせいか、純粋なACCとしてはアイサイトにちょっと劣る印象であることだ。クルマまかせの走りだと、アイサイト以上に頻繁に割り込まれたり、よほど気をつけないと追い越しで後ろからあおられるケースが目立った。 もっとも、こうした不満は「世界初の自動運転!」と期待しすぎ……の部分もあり、これを車線アシスト付きACCと割り切れば、少なくともアイサイトと同等、もしくはそれに次ぐ完成度と使い勝手をもつ。緊急自動ブレーキ機能も含めて、少なくともライバルのセーフティセンスCやホンダセンシングよりは優秀な装備といっていい。 ACCは一度使うと病みつきになる依存性の高い技術である。まして小さな子供がいるミニバンユーザーは、分かっていても大渋滞に突っ込まなくてはならないこともあるだろう。そうしたときにはACCは素直に便利で、確実な疲労低減効果もある。その意味で、実質25万円弱のプロパイロットを含む「セーフティパックB」をフンパツする価値は十分にある。 スペック例【 セレナ G 】 【こちらもオススメ】 |
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