リアエンジンに先祖がえり3代目トゥインゴがリアエンジン車として登場することを知ったとき、「おっ、ルノーが先祖がえりした!」と思った。1970年代以降に登場したルノーのニューモデルは、サンクターボのような特殊なモデルを別にすればすべてフロントエンジン前輪駆動、いわゆるFFだったけれど、戦後間もない時代から60年代までのルノーの主力モデル、なかでも特に小型車はすべてリアエンジン後輪駆動の通称RRだったからだ。 1946年秋に発表され、翌年発売されるやフランスのベストセラーになった4CVを皮切りに、その後継車ドーフィン、さらにその後継車たるR8、その発展型といえるR10と、60年代までのルノー小型車のニューモデルの大半は、リアエンジンを採用していたのだった。 それから50年後の今日、ルノーが乗用車レンジの最小モデル、トゥインゴの3代目にリアエンジンを採用したのには、こういうバックグラウンドがあったというわけだ。 0.9リッター3気筒ターボ+6段DCTそこで新型トゥインゴだが、いかにもフランスの小型実用車らしい4ドア4座ボディの後端、左右後輪のあいだの低い位置に、0.9リッター3気筒ターボエンジンを後方に49度寝かせて横置きしている。その結果、エンジンルーム上の床を低く設定することが可能になり、テールゲートの奥にフロントエンジン車に近いラゲッジスペースを確保している。エンジンは897ccの3気筒ターボで、90ps/5500rpmと13.8kgm/2500rpmを発生、ゲトラグ製の2ペダル6段DCT、ルノーの呼称でEDC=エフィシエントデュアルクラッチと組み合わせられて後輪を駆動する。 ボディサイズは全長3620×全幅1650×全高1545mm、ホイールベース2490mmで、見た目のイメージほど小さくはなく、例えば全長やホイールベースはVWのup!より長い。サスペンションはフロントがストラット、リアがトレーリングアームの4輪独立で、ブレーキはフロントがベンチレーテッドディスク、リアがドラム。ホイールとタイヤは前後異サイズで、フロントが5Jに165/65R15、リアが5.5Jに185/60R15を履く。 日本で発売されるのは当面、上級モデルといえるインテンスとインテンス キャンバストップの2モデルで、車重は1010kgおよび1030kgと、これも900kgのup!より重い。ちなみにプライスは前者が189万円、電動キャンバストップつきの後者が199万円である。 多くの読者がご存知のとおり、こういったメカニカルな部分の基本はダイムラーのスマート フォーフォーと共通しているが、エクステリアおよびインテリアのデザイン、それにドライビング感覚を左右する細部のセッティングなどに、ルノーの個性が表現されているわけだ。 フランス好きには堪らないいわゆるレトロはやらないというルノーのポリシーにしたがって、近年のルノーに共通するブラックグリル+ロサンジュのノーズに始まる3代目トゥインゴのスタイリングは、MINIやフィアット500のように過去のルノーのどれかの明確な現代版にはされていないが、初代サンクと初代トゥインゴのボディからいくつかの要素を採り入れているという。 いずれにせよ、ファニーな要素を採り入れつつもドイツモノらしい押し出しの強さを意識させるスマート フォーフォーと違って、どこか“のほほん”とした大らかさと軽快さを感じさせるトゥインゴのスタイリングは、アンチジャーマン派にウケるのは間違いない。それに加えて、パリ生まれのスモールカーであることを意識して開発されたという雰囲気を、そのカラーリングも含めて見事に感じさせるのも、フランス好きには堪らないはずだ。 運転席に収まると、インテリアはポップなデザインで統一されている印象をうける。ヘッドレスト一体式のフロントシートはたっぷりとしたサイズなうえに、クッションも適度にソフトで、いかにもおフランスな座り心地を提供してくれる。女性ドライバーにも良好な視界が得られるようにと着座位置は高めだが、手動のハイトアジャスターを操作すれば、まずまず低い位置まで下げることができる。ステアリングにテレスコピックはないがチルトは可能だから、ドライビングポジションは不満なく決まる。 自分の運転姿勢を決めてその後ろのリアシートに移ってみると、ニールームの余裕はミニマムで、膝が運転席のバックレストに触れそうになる。ファミリーカーとして使うことを想定している場合は、リアシートの余裕が大きくないことを承知しておいた方がいいだろう。 独特の浮遊感に満ちた軽快な走りしかし、である。エンジンを叩き起こし、6段EDCのセレクトレバーをDに入れて走り出してみると、リアシートのことなど頭から吹っ飛んでしまう。独特の浮遊感に満ちた軽快な走りがドライバーをワクワクさせるのだ。 発進の瞬間だけちょっとトロい印象をうけるが、そこを過ぎたらもうシメたもので、90psの0.9リッター3気筒ターボが、1000kg強の車重を軽快に加速させる。以前、スマート フォーフォーに乗ったときは、エンジンがノンターボ仕様だったため動力性能は正直物足りなかったが、ターボならEDCとの組み合わせでも、実用車としてまったく充分なパフォーマンスを持っていると思った。パドルがないのは少々寂しいが、フロアのシフトレバーを操作することで、マニュアルモードを選ぶこともできる。 それに加えて、エンジンがキャビンの後方に収まっていることも効果を発揮して、回転を上げても室内があまりうるさくならないのも好ましい。タコメーターがないので回転数は不明だが、高速クルージングも意外と静かだろうと推測できる。 街角を曲がるだけでも愉しいトゥインゴが都内を走るだけでも愉しく感じられたもうひとつの要素は、その乗り心地とハンドリングにある。パリの石畳の道などを意識して生み出されたとされるトゥインゴのサスペンションは、試乗したターボモデルでも、数か月前に乗ったスマート フォーフォーのNAモデルの記憶より明らかに柔らかく思えた。独特の浮遊感とフラット感が混在したソフトでしなやかな乗り心地は、70年代頃までのフランス車を思い起こさせるもので、フレンチカー好きには間違いなくアピールするはずだ。 と同時に、フロントにエンジンがないことも幸いして操舵力が軽めなのに加えて、バリアブルギアレシオのステアリングを操っての身のこなしは軽快で、街角を曲がるだけでも愉しかったりする。さらに、最小回転半径が4.3mと小さく、ちょっとした道で容易にUターンできるのも、リアエンジンがもたらすメリットのひとつだ。 その一方で、リアエンジンというと限界時のハンドリングに不安を覚える向きもあるだろうが、少なくとも首都高の芝浦からレインボーブリッジをわたって台場に至るルートで通過するカーブでは、しっかりと足が地に着いた印象の、ニュートラルなコーナリングを味わわせてくれた。実はトゥインゴ、前後重量配分は45:55というから、リアエンジンという事実から想像するほどテールヘビーではなく、よく出来たミドエンジンスポーツカー並みにバランスのいい重量配分なのだ。 とはいっても、限界に至ったときの挙動がどうなるのかはワインディングロードを攻めてみないと分からないが、日常的な場面で不安を感じることはないはずだ、という感触は得られた。それに加えて、前ベンチレーテッドディスク/後ドラムというブレーキも、適度な踏力で不安のない効きを示してくれた。 異例に個性的。来年にはMTも正式ラインナップというわけで新型トゥインゴ、都内の湾岸ゾーンを中心に試乗した限りでは、軽快なドライビング感覚とソフトな乗り心地が心地好い、魅力に溢れた小型実用車に思えた。あとは高速道路における直進性のレベルとワインディングを攻めた場合のハンドリングについて知りたいところだが、それを明確に判定するには別の機会を待つしかない。 したがって現状では、すべてを断定するわけにいかないのが歯痒いところではあるが、それを承知のうえで敢えていえば、3代目トゥインゴは最近世に出た実用車のなかでは異例に個性的でドライビングの愉しい、とてもチャーミングなクルマだと僕は感じた。 前記のように、現在の発売車種はノーマルルーフと、そのキャンバストップ版の2種類で、両者の価格差はちょうど10万円。ルーフはやっぱりソリッドな方がいいという向きは前者を、頭上から陽光を浴びる半戸外的空間での移動を望むなら後者を選べばいいと思う。 なお、最初に限定発売されて即座にソールドアウトになったというNAエンジンのMT仕様は、2017年には日本仕様に正式ラインナップされるというから、マニュアル派はそれまでじっと我慢ということになる。 スペック例【 トゥインゴ インテンス キャンバストップ 】 |
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