新しい100年を見据えたブランニューアストンマーティンのブランニューモデル、DB11が日本に上陸した。これは2003年にデビューしたDB9の正当な12気筒系後継モデルであると同時に、2013年に創立100年を迎えたアストンにとって、新しい100年を迎えるための最初のニューモデルでもある。実際、その新しい100年を見据えて、DB11の開発は2011年に始まったのだという。 ならば、9と11のあいだのDB10はどこにいってしまったのか? そう、多くの読者諸兄がご存知のように、去年公開された映画『007 スペクター』に登場したボンドカーがDB10だったわけで、市販モデルにはならなかったというわけだ。 それに加えてDB11、ドイツ人のウルリッヒ・ベッツ氏に代わって元日産にいたイギリス人、アンディ・パーマー氏がCEOになって初のブランニューモデルという意味合いもある。つまり、アストンにとっては取り分け気合いの入ったクルマなのである。 自社製V12ツインターボは608ps/700Nm見どころたっぷりのDB11だが、そのひとつはパワーユニットにある。それは新登場の5.2リッターV12ツインターボで、アストンの市販車としては初のターボ装着エンジンである。しかもこれ、以前から公表されていたAMGユニットではなく、アストンの自社開発になるエンジンなのだ。 具体的には、これまでDB9などに積まれていた自社製6リッターV12のストロークを短縮して排気量を5.2リッターに縮小、それをツインターボで過給したエンジンということになる。発生するパワーは608ps/6500rpm、トルクは700Nm/1500-5000rpmで、少量生産の限定モデルなどを別にすれば、いずれもアストンの量販モデルとしては最強の数字になる。 それと組み合わせられるトランスミッションはZF製8段ATで、これまでと同じくデフと一体化されてリアに置かれるトランスアクスル配置を採用。その結果として、DB9などと同じ、51:49という良好な前後重量配分を実現している。 軽さと強度とデザインをバランスDB11のもうひとつの見どころは、シャシー&ボディだ。アルミ接合構造は基本的に従来と同じ方式を踏襲するが、サイズとデザインが異なる他、最新の素材を使うことで、軽量化を達成しながら、ボディ剛性をDB9より15%ほど向上させているという。 ゲイドン時代のアストンで2人目のデザインディレクターであるマレック・ライヒマン氏がまとめ上げたDB11のボディは、アストンらしさを存分に維持しつつこれまでにない要素を加えたもので、特にキャビン部分のルーフとトランクリッド後端のデザインが新しい。 ホイールベースは2805mmとDB9より65mm延長されているが、見た目のイメージと違ってボディ外寸は4739×1940×1279mmと、DB9とほとんど変わっていない。スポーツGTとして大きすぎないサイズがキープされている、といっていいだろう。 乾燥重量はDB9より軽い1770kgに収まっているから、エンジンのパワーアップと相まって、パフォーマンスもDB9より向上している。0-100km/h加速3.9秒、最高速322km/hというのがその代表的な数値で、DB9よりそれぞれ0.7秒と27km/h上回る。 職人芸とデジタル化の融合試乗の舞台は袖ケ浦フォレストレースウェイだったが、そのピットロードでレザーに覆われたコクピットに収まると、依然として着座位置の低いスポーツカーらしいドライビングポジションに決まる。 とはいえそこはDB9とは若干雰囲気の異なる空間で、シート周辺がDB9やヴァンキッシュより広くなっているのを感じるし、リアシートのレッグルームも広くなっているという。 DB9までのスロットにキーを差し込む方式と違って、コンソール中央のボタンをプッシュする一般的な方法でエンジンを目覚めさせると、メーターパネル内にタコメーターを中心とするディスプレイが出現した。ついにアストンもリアルなメーターを止めて、バーチャルなディスプレイを採用したのだ。 落ち着きのある正確なボディコントロール軽くスロットルを踏むと、DB11は滑らかにコースイン。5.2リッターV12ツインターボは最近のターボらしくタイムラグをほとんど感じさせず、低回転から軽快に反応する。ボア×ストローク=89×69.7mmというショートストロークも、吹け上がりの軽さに効いているのではないかと思う。 さらに踏み込むと加速はもちろん迫力を増すが、だからといってDB11は608psと700Nmという数字を持て余す素振りは見せない。トランスアクスルによって与えられた充分な後輪荷重と、新採用のマルチリンク式リアサスペンションの効果で、後輪の挙動が落ち着いているのだ。それでいてアンダーステアも強くないから、1.8トン近い車重を持て余すことなく、狙ったとおりのラインを描いて袖ケ浦を駆け巡ってみせたのだった。 パワートレーンとシャシーのそれぞれに、「GT」「スポーツ」「スポーツプラス」の3段階の切り替えを可能とするスイッチが備わっているのもDB11の自慢のひとつで、それを切り替えることによるドライビング感覚の変化は、たしかに明確に感じ取れた。 実はDB11に乗る前にヴァンキッシュで3ラップしたのだが、そのヴァンキッシュと比べるとはっきりした違いがあった。ステアリングの感触やサスペンションの作動感はDB11の方が一段とスムーズで、より洗練された印象をうけるのだが、表現を変えれば、スポーツカーらしさがより明確に実感できたのは、ヴァンキッシュの方だったともいえる。 素晴らしいグランツーリスモつまりDB11、高貴なブリティッシュサラブレッドに相応しい品格を維持したまま、従来型を明らかに凌ぐ洗練を身に着けたという意味で、アストンマーティンの新世代を代表するに相応しいスポーツGTに仕上がっているといえる。だから公道に連れ出せば、素晴らしいグランツーリスモとして振る舞ってくれるであろうことは、容易に想像できる。 その一方で、スポーツカーらしい骨っぽい手応えといった分野では、同時に乗ったヴァンキッシュに一歩譲る印象を得たのも事実だった。けれどもアストンには、V8ヴァンテージ系をはじめとするそっち系のモデルが他に多数存在することに加えて、DB11をベースにしたよりスパルタンなモデルの登場ももちろん期待できる。だからDB11は、現状のままが最良なのかもしれない。 というわけで、多くのアストンマニアの期待に違わぬクルマとして登場したといえるDB11だが、そのプライスもまた期待を裏切ることのないものだった。ニューモデル登場を機に明確に値上げするライバルも少なくない昨今、DB11はDB9と事実上変化なしといっていい2380万円のプライスタグをつけて、2017年1月発売と公表されたのである。 スペック【 アストンマーティン DB11 】 |
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