性能アップに伴うデザイン変更日産GT-Rに初めて乗ったのは、2007年の登場直後に仙台のサーキットで開かれた試乗会だった。最高出力480psだというのでずいぶん身構えたのを覚えている。今から9年前、500ps前後のクルマは今よりもずっと少なかったし、「今度のGT-Rは、ポルシェ911ターボより速いらしいよ」などと言われていた。しかも雨上がり。気をつけていたのにコーナー出口でのアクセル操作が乱暴すぎて、一瞬リアをスライドさせてしまった。ところがビビってアクセルを戻す前に縦方向のグリップが回復し、とんでもない勢いで加速していったのを覚えている。 当時は外国の一級のスポーツカーからライバル視されるクルマが日本から出てきたことを誇らしく思ったが、一方であまりにパフォーマンス・オリエンテッドで、特殊な車両という印象もあった。毎年細かく進化しているのを記事では読むものの、なんとなく関心の外に置いてしまった。以来、数回しか乗る機会もなかった。 今回、17年モデルのGT-Rに大きく手が入れられた。まず見た目が変わった。骨格が変わるような大きな変化はないが、フロントグリル内に他の日産車にも見られるVモーションが加わった。加えてパワーアップに対応する冷却性能を得るため、フロントの開口部が拡大した。フロントバンパーの両脇を切り立ったデザインとしたり、カナード状のパーツを加えたりすることで、開口部拡大で増えた空気抵抗を回復した。 GT-Rの象徴であるリング型テールランプは継承された。リアフェンダーは突然スパっと切り落とされたように終わる。全体的にエッジが鋭くなって、よりシャープな印象となった。 コックピット一新で操作性を向上インテリアは一目瞭然で変わった。試乗車はフロントシートとダッシュボード下半分、ドア内張りが新色の「タン」で構成されていた。シートはセミアニリンのレザー。こんなに硬派なクルマなのに、座るとシートがソフトでびっくりしたが、座り心地は悪くない。ダッシュボード上半分には、ブラックのナッパレザーが使われている。この部分は手で触れたりすることは少ないが、視覚的にインテリアの印象に影響を与える。おかげで新型は高級感が増した。 また、従来型はモニターの下に多くのスイッチが並んでいて、その部分に結構な面積が与えられていたが、新型ではモニターの左右にスイッチを配置したほか、センタートンネル上にダイヤルスイッチを設置し、スイッチの数を半減させた。エアコンの吹き出し口の場所や形状も大きく変わっている。ダッシュボード全体の高さが下げられ、視認性が向上した。つまりはダッシュボードはまるっきり違うパネルを使って一新されたということだ。 (15年モデルの内外装はこちらからチェック⇒写真30~33枚目) 相変わらずの“タダモノではない感”拠点のゴルフ場をスタート。セットアップスイッチでダンパーをソフトに設定している限り、乗り心地は終始快適だ。デートも十分に可能。ただし、従来型よりも多少文化的になったとはいえ、依然タダモノではない感じが車内に漂う。例えば、どこからともなくメカニカルな音が聞こえてくるし、ステアリングがとても重い。GT-Rのパワステはもはや大変珍しい油圧式。また、この日は涼しかったのでエアコンをオフにしたのだが、ものの数分で左足に熱を感じた。リアにあるトランスミッションを冷やすための冷却水を通す配管がプロペラシャフトの脇を通っていて、センタートンネル全体が熱をもつのだ。これがティアナなら腹も立つだろうが、GT-Rだと“タダモノではない感”となる。 高速道路へ合流し、慎重にアクセルペダルを深く踏み込む。キタキタキターッという感じで背中がシートに押し付けられる。高剛性で空力性能に優れるボディのおかげでスタビリティーが高く、怖さはない。エンジンは音量も音質もさして印象に残っていない。印象に残るのは緻密な機械が動いているんだなと思わせる独特の回転フィーリング。残念なのは、これから本領発揮というところで我が国の法定速度に達してしまうことだ。この先にアメージングな世界が待ち受けているのは間違いないが、続きはサーキットで。 低速域から満足感を得られるセッティング日本の公道で本領を発揮できないからといって、ここまで高性能、高出力のエンジンは意味がないとも思わない。新型のエンジンは570psで従来型より最高出力が20ps上がったが、それは目的ではなく、実用域でのドライバビリティーを向上させるべくトルクを太らせた結果だそうだ(最大トルクは従来比+5Nmの637Nm)。飛ばさないと楽しくない、満足感を得られないエンジンから、実用域でも“いいモノ”だと感じられるエンジンを目指したということだろう。実際、パーシャルスロットルでもリニアに反応するので乗りやすい。 GT-Rといえどもサーキットへ持ち込むオーナーはわずかで、大多数は高性能な機械を所有する喜びを味わうために買うはず。だとすれば、ぶっ飛ばさないと楽しめないセッティングではなく、日常的に満足感を得られる新型のセッティングは正しい。インテリアの質感を向上させたのも日常的な喜びのためだろう。開発陣は「マチュア(熟成した)な方向を目指した」というが、特殊なGT-Rに手を加えるならその方向しかないはずだ。このままパフォーマンスを上げて700psに達しても喜ぶ人は少ない。 本質を追求しながら日常をバランスところで、どんなペースで走らせても常に感じられたエンジンの回転の緻密さだが、その秘密はエンジンの組み立て方にある。試乗前、日頃GT-R専用のVR38DETTエンジンを組み立てている職人の方によるデモンストレーションがあった。職人さんは手際よくカムシャフトをブロックに固定した後、バルブとカムの間隔(バルブクリアランス)を計測するため、アイスの棒のような形の金属板を抜き差しする。板を差し込んだ際にどれくらい抵抗を感じるかによってミクロン単位のクリアランスを感じ取るのだそうだ。 プロフェッショナルな仕事に接し、脳内にスガシカオが流れてくる。機械ではここまで微細な違いを検知するのは難しいという。勧められて自分でもやってみたけれど何もわからなかった。このほか、いろいろな部品を組み付ける際にも一度組み付けた後にバラしてから再度より大きな力で締め上げて馴染ませるなど、とにかくVR38DETTの生産には相当手間がかかっているということがわかる。 当然、組み立てはだれでも担当できるわけではなく、まず5人の匠がいて、その下にサブ匠(匠に見てもらいながらであれば組んでよい)が5人いる。そのまた下に将来の匠を目指す人が4人いる。匠が組み立ての最初から最後まで責任をもち、その証としてエンジンにネームプレートを貼る、いわゆる”One Man, One Engine”方式を採用する。 GT-Rを公道だけちょこっと走らせて理解したというつもりはないが、乗り心地が改善され、室内の質感が高まり華やかになった点は確認できた。このクルマの本質が超高性能にあることは変わらないが、加えて日常的な満足感がアップした。日産は「GT-Rにライバルはいない」と言うが、少なくとも価格的に被るライバルは欧州に多数存在する。それらを押しのけて選んでもらうために、今回の改良は役立つのではないだろうか。 スペック【 NISSAN GT-R Premium edition 】 【こちらもオススメ】 |
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