ニュル北コースの市販FF車最速タイムを更新した“S”先日、VWゴルフGTIが、あのニュルブルクリンク北コースで「市販FF車最速タイム」を更新したと発表した。ニュルでの占有タイムアタックは昨年に一旦禁止されたはずだが、今はコース改修されて解禁されているらしい。それはともかく、その7分49秒21というタイムは、それまでの記録ホルダーだったホンダ・シビック・タイプRのそれを約1.4秒短縮したことになる。 もっとも、ニュル最速となったゴルフGTIはノーマルではなく、ゴルフGTI生誕40周年を記念した限定モデル“クラブスポーツ”の1台である。さらに、このクラブスポーツにはいくつかのバージョンがあり、ニュル最速ゴルフは厳密には“クラブスポーツS”なるモデル。 軽量高剛性の3ドア(6MT車)をベースに、2シーター化やフレームの一部をアルミ化、エアコンのオプション化などでさらに軽量化したうえに、310ps/39.3kgmの専用チューンエンジンやミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2タイヤを履かせて……というのが“S”独自の特徴である。 “S”より少し穏当なモデルを400台限定販売対して、今回日本で400台の限定で販売されるのは、“S”より少し穏当な“クラブスポーツ・トラックエディション(以下、クラブスポーツ)”というタイプになる。ゴルフR用エンジンをベースにノーマルGTI比で45psアップさせた265psをうたう(最大トルクはノーマルGTIと変わらず)。その数値はたしかに“S”よりは見劣りするが、これでもFFとしてはトップレベルといっていい。 さらに日本仕様の“トラックエディション”のボディはおなじみの5ドアで、変速機もツインクラッチの6速DSGのみ。ホイールサイズは“S”と同じ19インチとなるが、試乗車のタイヤはピレリP-ZEROで、絶対的なグリップは“S”のカップ2よりは下がっていると思われる。そのほか、足まわりや空力パーツなどの細部にわたるまで、“S”とトラックエディションには差異がけっこうある。 ……と、ここまで読んでいただいた時点で、「“S”とはちがって、こっちはノーマルGTIに毛が生えた程度か」と残念がる武闘派マニアもいるかもしれない。ただ、このクラブスポーツでも、ダウンフォースを生み出す「大開口フロントバンパー&大型リアスポイラー」という専用エアロパーツ、リアルタイム可変ダンパーの「DCC」、さらには今回初お目見えとなる「電子制御フロントディファレンシャルロック(=電子制御LSD)」は標準装備となる。 効果絶大な「クラブスポーツ三種の神器」今回は“トラックエディション”の名に敬意をあらわす意味もあって、クローズドサーキットの袖ヶ浦フォレストレースウェイを中心に試乗した。そこで痛感したのは、前記の専用エアロ、DCC、そして電子制御LSD……の専用装備が効果絶大だったということだ。これらはおそらく“S”でも重要な役割を果たしているはずで、私はこれを「クラブスポーツ三種の神器」に勝手に認定したい。 さて、せっかく栄光のクラブスポーツのために袖ヶ浦を占有したというのに、当日はあいにくの完全ウエットだった。ただ、結論を先に書いてしまうが、クラブスポーツのすごさを体感するにあたっては、このウエット路面がじつは好都合でもあったのだ。 クラブスポーツ専用エアロパーツのダウンフォース効果は、私ごときアマチュアでも、条件によっては体感できるほど高い。一般の高速道でもカーブが続く山間ルートではノーマルより一段と安定している感がある。また、クラブスポーツはブレーキも専用の大径ディスクとなるが、袖ヶ浦の1コーナーのように、高速からブレーキングしながら操舵するような場面でも、リアの安定感は高まっている気がした。 専用チューニングのDCC(可変ダンパー)の印象は?3種あるモードのうち、もっとも柔らかい“コンフォート”にすると、まるで高級サルーンばりに快適な乗り心地を示すDCCは、サーキットでも効果的である。「サーキットアタックに可変ダンパーなんて……」と思う昔気質のマニアもいるだろうが、それはちょっと時代遅れの認識だ。先代のニュル記録ホルダーだったシビック・タイプRも可変ダンパーが標準である。その開発を担当したホンダエンジニアは「ニュルのような荒れた路面で、安定した空力を確保するためにも可変ダンパーは必需品」と語っていた。 ノーマルのゴルフGTIにもDCCはオプション設定されるが、クラブスポーツのそれは15mmローダウンしたスポーツサス専用のセッティングになっている。ノーマルGTIのコンフォートモードだと、低速ですこぶる快適なかわりに、山坂道ではときおりステアリングレスポンスが不足するケースがあった。しかし、クラブスポーツではそうしたことはまったくなく、市街地から山坂道まで、まさにオールラウンドに使えるモードになった。 今回のようなサーキットでは、DCCは当然のごとく硬い“スポーツ”モードにするのがもっとも走りやすいが、そのスポーツモードでも市街地で絶望的な乗り心地になったり、ワンダリングに手を焼いたりはしない程度にしなやか……という美点は、このクラブスポーツを含めたゴルフGTIに共通するものである。 事実、ウエットのサーキットでも、DCCをスポーツモードに設定したクラブスポーツは、それなりに自然なロール感を残して、けっしてガチガチのレーシングカートにはならない。さらに専用のスポーツシートも、なんとも絶妙なホールド性と拘束しすぎない快適な座り心地を両立している逸品だ。 電子制御LSDの効果をウエットのサーキットで実感ハイパワーFFゆえに、ウエットのサーキットでわずかでもステアリングが切れた状態でスロットルを踏み込むと、アンダーステアをハッキリと感じる。普通のFF車なら、そこでステアリングを切り増すなり、スロットルかブレーキでタックインを誘うなり、最後の手段としては前輪グリップが回復するレベルまで減速する……といった処置が必要である。 だが、クラブスポーツの場合は、それでもかまわずスロットルを踏み込んで解決してしまうケースが多い。アンダーステア感はそのままに、ステアリングを切った方向に強力にけん引されて、最終的にスロットルを戻さずに曲がってしまうのだ。 それはときに「クルマが斜めに走ってる?」と錯覚するほどの強力なけん引力だ。クラブスポーツも前輪より後輪のスタビリティが優勢の安定志向の基本特性っぽいが、少なくとも今回のようなウェットサーキットでは、前輪のけん引力に後輪が引きずられるように曲がっていく独特の感覚がある。 おそらく、これが電子制御LSD効果なのだろう。ノーマルGTIの“XDS+”はあくまで空転しかけた駆動輪にブレーキをかける疑似LSDであり、その効果は限定的でわずかな減速感も伴う。対してクラブスポーツの電子制御LSDは、正真正銘のデフロック機能。しかも、普段乗りになんら神経質さも不具合も感じさせないのが機械式LSDとの決定的なちがいだ。 別次元の走りに到達。ノーマルGTIの70万円高クラブスポーツのエンジンは前記のように265ps、そしてキックダウンさせると瞬間的に290ps/38.8kgmまで増強するオーバーブースト機能まで備わる。そのパワーは素晴らしいレベルだが、そのいっぽうで、慣れてしまうと正直いって「まだまだ足りない」と思ってしまうくらいだった。 ゴルフGTIクラブスポーツは、三種の神器のおかげでノーマルGTIと別物……とまではいわないが、明らかに別次元の走りに到達している。価格はノーマルGTIの70万円高だが、それを三種の神器(とよくデキたスポーツシート)のお代と考えれば、三度のメシより走りが好きなマニアには、ぜんぜん高くないと思う。 スペック【 GTIクラブスポーツ トラックエディション 】 |
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