パワートレーンはもはや別物今回の「アコード」は発売からちょうど3年目の改良となるが、なんとも力の入ったマイナーチェンジだ。なるほど外板のプレス部品も変わっていないようなので、一般的な定義では、これは“マイナーチェンジ”である。 ただ、プラットフォームをキャリーオーバーするフルモデルチェンジは珍しくないし、逆の言い方をすれば、ボディ外板(とダッシュボードなどの内装の基本意匠)が変わらないことを除けば、そこいらのフルモデルチェンジよりよほど濃い変更内容である。 ハイブリッドのパワートレーンは大刷新された。モーターと電池の両方を新しくして、それら電動部の小型化(それに伴ってトランク容量も増えた)とパワーアップも同時に果たしている。2.0リッター4気筒エンジンは従来の小改良にとどまるが、誤解を恐れずにいえば、アコード・ハイブリッドにとって、エンジンは“補機”みたいなものだ。メインとなる電動駆動側が刷新されたということは、パワートレーンはもはや従来と別物といってもいいかもしれない。 モーターが主役を張り続ける今さらの説明になるが、現在のアコード・ハイブリッドでは、タイヤの直接駆動を担うのはモーター単独となるケースが大半である。事実、全開フルパワー状態では、エンジンはタイヤから切り離されて充電に専念する。 エンジン/モーターとタイヤを機械的につなぐ減速機構もそれぞれ1速しかなく、エンジンがタイヤと結合されるケースは高速道路の低負荷時のみ。その理由はそうした場面にかぎってモーターよりエンジンのほうが高効率なためで、エンジンが駆動参加するとモーターは基本的に駆動参加しなくなる。 エンジンが直接駆動するのは、具体的には平坦な高速道路をクルーズコントロールを使って(もしくは、それに準じたじんわりとしたアクセル操作で)、70~100km/hで巡航しているときだ。それでも、追い越しや上り勾配などでスロットルをちょっとでも踏み込むと、即座にエンジンは切り離されて、モーター駆動に移行するのだ。 ハイブリッドというよりピュアEVアコード・ハイブリッドの駆動システムに原理的にもっとも近いのは、大ざっぱには三菱アウトランダーPHEVで、よくいわれるように“ほぼ電気自動車(EV)”である。 そういうこともあって、今回のモーター出力向上は、実際の走りにも直接的に効いている。走行用モーターの最高出力は184ps、最大トルクは32.1kg-m。数値の向上は15ps/0.8kgmなので、もちろん「見ちがえるよう」とまではいわない。ただ、試乗した「EX」グレードの車重は従来より30kgほど軽くなったこともあって、自然吸気エンジンでいうと排気量を数百cc拡大した程度の上乗せ感はある。 それにしても、アコードの“ほぼEV”のダイレクトな加減速レスポンスはあらためて気持ちいい。普通のハイブリッドは裏側でモーターとエンジンが勝手に行き来するので、クルマとの一体感が削がれる傾向にあるが、アコードは積極的に運転しているかぎり、ハイブリッドというよりピュアEVなのだ。 減速セレクターを初採用&静粛性もアップさらに、今回からステアリングパドルも追加されて、スロットルオフ時のエンジンブレーキ(?)の強さも、疑似変速機的に4段階から選べるようになったが、その減速レスポンスにもEVならではの鋭さを披露する。ブレーキ力が最大となる“4”(最小が“1”。普通の変速機とは数字が逆だ)にすると、右足をわずかにゆるめた瞬間からギューッと減速Gが立ち上がる。その反応とリニア感はエンジン車のそれとはやはり別物である。 平坦な高速道路でエンジン走行になる瞬間も、クラッチの断続のようなものはほとんど体感できない。ただ、エンジンが連結されると、EV走行時にはまったくなかった“ジーン”というかすかなステアリング振動が発生することで、それと分かる。その一方、従来は同時にフロアにも少し震動を感じたが、今回はそれらしきものを感じ取れなった。静粛対策にもかなりの手が入っているようだ。 しかし、今回のアコードでもっとも感銘を受けたのは、そんなパワートレーンの性能向上よりシャシーの進化である。 マイルドで上品な手応えに3年前にデビューした現行アコードはパワートレーンだけでなく、プラットフォームも新規開発の全身ブランニューだった。それだけにマイナーチェンジでも進化幅が大きいのは必然だが、それを差し引いても、この乗り心地やステアリングフィールの改善は顕著といっていい。 今回の試乗車でもあった上級の「EX」では、タイヤサイズも従来より幅広く、より扁平で、ホイール径も大きくなった。こういう場合、普通はダイレクト感や俊敏性が向上するかわりに、静粛性や乗り心地は後退するケースが多い。 しかし、新しいアコードは例外である。フットワークのしっかり感はそのままに(もしくはわずかに向上させつつ)、乗り心地はしっとりと落ち着いて、上屋の上下動も明らかに減少した。しかも、従来型でわずかに感じたタイヤの先走り感は、逆にほぼ払拭されている。ステアリングはなんとも滑らかで潤いがあり、この種のビッグセダンとしてはいい意味でマイルドで上品な手応えになった。 グレードアップしたタイヤも効果を発揮それでいて、実際のステアリングは大舵角までピタリとリニアに効くから、すこぶる運転しやすい。このステアリングフィールは特筆すべき美点……といったことを、試乗後にホンダ担当氏に伝えたら、彼は「わが意を得たり」という顔をした。このあたりは開発陣も相当に力を入れたポイントらしい。 実際、新しいアコードはサスペンションの減衰力やパワステやブレーキなどの制御だけでなく、ボディ構造や静粛対策などの基本骨格にまで手を入れている。また、タイヤ銘柄をグレードアップ(マイチェン以前に試乗したアコード・ハイブリッドEXは17インチのダンロップ・エナセーブだったが、今回は18インチのブリヂストン・レグノ)もかなりの効果を発揮していると思われる。 アイサイトに引けを取らない従来のセレクターレバーが「レジェンド」と共通のスイッチ式に変更されたこと、そしてレーダー系のアドバンスセーフティ機構の「ホンダ・センシング」が現時点で最新鋭かつ最多機能にグレードアップしたことも、新しいアコードの特徴だ。 全車速対応となった追尾型クルーズコントロールはほぼ文句なしのデキで、レーンキープ機構でのステアリング介入は、スバルのアイサイト(ver.3)に引けを取らない強力さだ。その自動運転感は、現時点でスバルとならぶ国産車の双璧といえそうだ。速度制限などの道路標識認識機能は、さすがはボルボより日本の実情に最適化されていて、中央数字が電光表示型となる日本特有のタイプもきちんと認識する(ボルボはそこを苦手とする)。 さらに光ビーコンによる「信号情報活用運転支援システム」も標準となった。これについては今回はあまり実感する機会がなかったし、この種の国主導の交通情報インフラはあまり成功した試しがないが、まあ、あっても邪魔にはならない(笑)。 ビッグセダンらしい落ち着いた味わいに好感新しいアコードは駆動方式がFFになること以外、カタログを飾る装備や技術内容は、ある意味で「レジェンド」をしのぐほど豊富だ。そして、ホンダ・センシングはここでついに国産トップレベルに躍り出た感すらある。ただ、なにより嬉しいのは、前記のとおり走り味の進化が長足であること。しかも、いつものホンダのように子供っぽいスポーティさ(失礼)より、ビッグセダンらしい落ち着いた味わいにフォーカスしている点が、個人的に好感である。 まあ、日本でのこのクラスは市場そのものが縮小傾向にあり、このアコードがいくらすごいクルマになっても、日本で社会現象を起こすほどにはならない(またまた失礼)。 そのわりにはやけに気合いとコストがこもったマイナーチェンジだな……というのが、日本人としての率直な印象だが、アコードは北米や中国という世界の巨大市場で、トヨタ・カムリや日産ティアナ(北米名アルティマ)、あるいはVWパサートなどとの熾烈なトップ争いに勝ち抜く任務がある。そんな世界最前線で闘うアコードだけに、モデルライフ途中でも手抜きはいっさいなし。日本で売れるかどうかはともかく、新しいアコードはお世辞ぬきで、ちょっと驚くほど優秀な乗用車になった。 スペック【 アコード HYBRID EX 】 |
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