いまだに月販2000台プレミオ/アリオンの現行世代は登場から9年が経つ。ちなみに、同時期にマイナーチェンジされたエスティマも10年選手である。両車とも今回のマイチェンが“延命”であることは、開発陣も正直に認めている。 プレミオ/アリオンとエスティマは、実質的に国内専用モデルであるという点も共通する。ここで「実質的に」と書いたのは、ともに国内市場が生命線であっても、エスティマは一部のアジア市場に輸出されているからだ。いっぽう、今回の主題であるプレミオ/アリオンは正真正銘、純粋な日本専用車だ。 新しいプレミオ/アリオンの月間販売目標は合計2000台だそうである。9年前のフルモデルチェンジ時が同6000台、そして6年前の前回マイチェン時点でも同3600台だったことを考えると「減少の一途」ではあるが、この場合は、いまだに月販2000台を見込める支持があることに驚くべきだろう。 トヨタ特有の悩ましい存在最近の国内月販2000台レベルの車種として、あえてクルマ好きの皆さんに人気のありそうな車種を例にあげると、たとえばスバルのレヴォーグやフォレスターだ。レヴォーグ/フォレスターはグローバル商品なので単純比較はできないが、つまり、プレミオ/アリオンは今もそれくらいは売れているのだ。 繰り返しになるが、このクルマは国内専用セダンである。日本市場専用にしてセダン……という、このクルマを取り巻く2条件のいずれも、近い将来に回復・成長するとは考えにくい。しかも、プレミオ/アリオンのユーザー平均年齢も60歳を軽く超えるという。 というわけで、プレミオ/アリオンはエスティマ同様に「フルチェンジの採算を取ることは困難きわまるが、やめてしまうにはあまりに惜しい」という存在であり、こうした商品を少なからず抱えるのは、国内で圧倒的な販売力をもつトヨタ特有の悩みだろう。 “プチクラウン化”で質感向上マイチェンのキモは3つだ。顔つきの「最新のプチクラウン化」と「インテリアの更新」、そして「アドバンスドセーフティ(=セーフティセンスC)投入」である。 これまでプレミオとアリオンで明確にちがっていたフェイスデザインが、今回からグリル内部だけの差別化となったのはコスト圧縮の意味もあるだろう。まさに最新クラウン風にガバッと大きくなったグリル外周が、よく見るとクロームメッキではなくツヤのないアルミ調なのが、視覚的な質感にけっこう効いている。この辺の小技は、さすが巧妙だ。 内装の基本意匠は変わっていないが、センタークラスター加飾やカラー液晶内蔵メーターなどが今風になった。傾斜したパワーウィンドウスイッチ部をうねるようなガーニッシュで包み込むドアトリムのデザインは、カサばらない(=室内幅をギリギリまで拡大できる)のに高級感のあるうまいデザイン……と思ったら、ここはデビュー当時から変わっていなかった。ダッシュボードも分厚く柔らかなソフトパッドで、今の目で見ても、高級感はそれなりに健在である。 簡易型の“C”を搭載するワケセーフティセンスC(※)が全車展開(各8グレード中6グレードに標準装備、ほかはオプション)されるのは素直な改善点というべきだ。ただ、トヨタとしては簡易型の“C”なので、歩行者検知とレーダークルーズコントロールは残念ながら組み込まれない。 トヨタは「ミドルクラス以上は原則として高度なセーフティセンスPをつける」とうたっているが、プレミオ/アリオンは、その「原則として」の例外のほうにあたる。 セーフティセンスPは、搭載車の両側に双方向通信可能な電装システムを要求するといい、基本的には例のTNGAプラットフォームを想定して開発された。よってプレミオ/アリオンのような旧世代プラットフォームに搭載するには電装系のほぼ全面的な敷きなおしが必要。もちろん技術的に不可能ではないが、そもそもが“延命”のためのマイチェンに、そこまで要求するのはさすがに酷だろう。 ※セーフティセンスC・衝突回避支援パッケージ=プリクラッシュセーフティシステム(レーザーレーダー+単眼カメラ方式)、レーンディパーチャーアラート、オートマチックハイビーム 良くも悪くも…開発担当氏によれば、走行メカニズムに特筆すべき変更点はないという。なるほど、乗ってみても、ちょっと古臭いのは否めない。 今回のように木更津近辺の一般道を転がしただけでも、現代のクルマとしてはロール、ピッチングの両方向で上屋の動きが大きい。ダンピングも緩めで、カーブや路面凹凸で発生したフワリとした動きは、なかなか1回で収束しない。そのいっぽうで、低速でのアタリが分厚いソファのように柔らかなのは、良くも悪くも昔ながらの日本車の味わいである。 まあ、古いといってもバリバリの21世紀グルマだから、昭和~20世紀末のような、悪い意味での日本車とは次元がちがう。動きは大きくても、走行ラインが乱れるわけではない。ステアリングは十二分に正確で、高速でちょっと頑張っても余裕しゃくしゃく……といったところも、あえて好意的に捉えれば、いい意味でのフランス車風味といえなくもない。 とくに好印象だったのは16インチタイヤを履く2.0リッターで、伝統的な日本車の柔らかさと小気味いいレスポンス、そしてそれなりに正確なフィードバックが、ほどよく同居していた。その次に乗った1.5リッター(15インチタイヤ)は、それに比べると、ちょっと気の抜けた感覚が強まるのは事実である。 休日などにけっこう頻繁に遠出する「運転好き」なら、エンジンがなんであれ、タイヤだけでも16インチ化する手はあると思う。なので、1.5リッターにも純正16インチを用意してほしいと思ったりもした(現状で純正16インチを選べるのは2.0と1.8のみ)。 5ナンバーセダンの駆け込み寺プレミオ/アリオンの装備内容やパッケージ上の数字だけを見ると、客観的にはカローラと大差はない。よって、このクルマにリアルな興味をもっていない人は「延命なんぞ無意味」としか思えないかもしれない。 だが、プレミオ/アリオンの唯一無二の存在意義は「5ナンバーサイズにして、カローラより高級なセダン」という点にある。“自分が乗るべきはセダン”という確固たる美意識をおもちで、自宅駐車場などの都合から5ナンバー以外に選択肢がない……。そんな需要がいまだに少なからず残っていることは、このクルマの根強い売れ方からも分かる。 そんな人たちのプライドは、カローラでは満たされない。また、このクルマではパトカーや(主に中間管理職が乗る)営業車などの法人需要も無視できないが、その場合も「カローラより格上で、それなりに高性能」であることが条件となる。 実際、プレミオ/アリオンでもリアシートの座り心地などはカローラより明確な上級感がある演出は見事だ。こういうお得意客の琴線をつく商品づくりは、トヨタの十八番である。 この期におよんで(失礼)、2.0リッター、1.8リッター、1.5リッターという3つのエンジン全機種が継続される点も象徴的だ。2.0リッターの販売比率はプレミオ/アリオン全体の10%を下回るそうだが、かといって5%よりはずっと高い。「5ナンバーで、できるだけ高級なクルマがほしい」という、つつましやかな日本的価値観は、いまだに存在するのだ。 走りやパッケージは相変わらずでも、既存ユーザーがあらためてクルマを買い替えるキッカケとなり、同時にセーフティセンスCを提供することで、世のウッカリ事故が1件でも減ることになれば、今回のマイチェンは意味がある……と、このクルマにどうにも好意的な気分になってしまうのは、私もトシをとってきたからかもしれない。 いずれにしても、日産シルフィが中国市場主体の3ナンバーとなった今、このクラスの需要層はほかに行き場を失っている。今回のプレミオ/アリオンの延命は、ある意味で社会的責務でもあったりして? スペック例(プレミオ)【 プレミオ 2.0G "EXパッケージ" 】 スペック例(アリオン)【 アリオン A15 "G-plusパッケージ" 】 |
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