デザインさえ成功すれば…大成功を収めたモデルのモデルチェンジほど難しいものはない。変えれば「変えすぎ」と批判され、変えなければ「新鮮味がない」と批判される。ましてや世界中でそのデザインが賞賛され、購入動機のトップに「デザイン」が挙がっていたA5クーペの刷新を任せられたデザイナーの苦悩たるや、想像を絶するものだったはずだ。 逆に言えば、デザインさえ成功すれば新型A5クーペの成功は半ば約束されたようなもの。決して走りなんてどうでもいいといっているわけではないが、この種のクルマのキモはやはりカッコである。 議論を極限まで単純化するなら、先代以上にカッコいいモデルを作ればいい、となるのだろうが、話はそう単純ではない。どんな方向性のカッコよさを目指すのか。時代の変化やブランドの方向性、技術の進化、先代オーナーの想いなど、そこには考慮すべき項目がたくさんある。まさに複雑に入り組んだパズルを解いていくようなものである。 ジワジワと伝わるデザイナーの意図新型A5クーペは、一見したところ典型的なキープコンセプトだ。セダンのA4をベースとした2ドアクーペという成り立ちも、ボディサイドをうねりながら貫く独特のウェーブラインも、ロングノーズ&ショートオーバーハング&スモールキャビンで仕上げつつ後席居住性にも配慮したプロポーションも。どこをとっても先代の基本要素を色濃く受け継いでいる。 先代をしっかりとリスペクトしている、つまり魅力をぶち壊すようなことをしていないことにまずは胸をなで下ろした。しかしその一方で、ハートにグサッと刺さるようなサプライズがないというか、予定調和というか、想像の範囲内というか、そんなモヤモヤした気持ちになったのも正直なところだ。 このページを読んでいる多くの方も、写真を見て僕と同じような感想を抱いていると想像する。しかし、よほどデザインリテラシーの高い人でなければ、ごく短時間でデザインの善し悪しを判断することはできない。ましてや写真だけで判断するのは至難の業である。僕は2日間に渡って新型A5クーペと過ごしたが、時が経つにつれデザイナーの意図がジワジワ伝わってきて、最後には納得させられていた。いまは、新型A5クーペは世界でもっとも美しくセクシーなクーペの一台であると、自信をもって断言できる。 キーワードは「スカルプチャー」デザイナーがことあるごとに口にしていたのが「スカルプチャー」という言葉だった。日本語に訳すと「彫刻的」。フロントフードは中央部が盛り上がったパワードーム形状となり、力強さを強調すると同時にグリルの位置を相対的に低く精悍に見せる。 ウェーブラインの彫りはより深く鋭くなり、より強調された前後フェンダーの膨らみはクワトロ=4WDを連想させる。テールランプ周りに至っては、こんなの見たことない! と驚くほどの凸凹ぶりだ。これほど大胆な造形にすると、普通はアクの強さが前面に出てきてしまうものだが、そうさせないのがアウディ流のセンスか。 計算され尽くした大胆さ近づいて眺めると度肝を抜くような大胆さなのに、ちょっと離れるとあら不思議、むしろ控えめだと思わせるぐらい端正なのだ。まさに「計算され尽くした大胆さ」という表現が相応しいデザインである。それを具現化しているのが、アウディが誇る「匠の技」ともいうべき高度な生産技術であるのは言うまでもない。 こうした巧みな方法により、アウディのデザイナーは先代に敬意を払いつつ、新しい美しさを創造することに成功した。ポルトガルでの試乗中、偶然にも先代モデルに遭遇したのだが、あれだけ気に入っていたクルマがちょっと古臭く見えたのには我ながら驚いた。デビュー当初は「代わり映えしない」と感じる人が多いだろうが、時が経つにつれ評価が高まっていく可能性はかなり高いと僕は予想している。 生活に無理のない2ドアクーペモデルチェンジを機にプラットフォームは新型A4と同じMLB Evoに刷新したA5クーペだが、先代と比べてボディがほとんど大きくなっていないのは日本のユーザーにとって朗報だ。 しかしホイールベースの延長によってニールームは少しだけ広くなり、インテリアの細部を詰めることでショルダールームのゆとりも増した。ラゲッジ容量が10L広い465Lになり、4:2:4の分割可倒式リアシートを駆使すればかなり良好な使い勝手を得られるのも嬉しい。 セダン並みとは言わないけれど、小柄な大人ならさほど痛痒を感じることなく乗り込める後席を含め、生活に無理なく2ドアクーペを採り入れる環境はしっかり整えられている。 贅沢な注文をつけるとすれば…ダッシュボードはA4と同じ。つまり、このクラスのクルマとしては最高峰の質感を備えているということだ。スイッチ類のタッチに始まりダッシュボードの素材、表面処理、各部の組み付け精度にいたるまで一切の手抜きがない。 メーターパネルにはオプションで1440×540ピクセルの12.3インチTFT液晶ディスプレイを使ったアウディバーチャルコックピットを用意。先進性や多機能性も魅力だが、フォントやグラフィックへのこだわりは必見レベルだ。 贅沢な注文をつけるとすれば、A4との差別性の少なさだろう。当然ながらドアトリムはA5クーペ専用だが、クーペは特別な存在だと思っている僕のような人間にしてみると、8.3インチモニターを含めセダンと共通のダッシュボードを使っているのはちょっと寂しい。 TTはバーチャルコックピットを採用することで中央部のモニターを廃止しスポーツカーらしいダッシュボードデザインを実現した。あそこまで突き抜けなくとも、TT的なテイストを漂わせるような提案(選択肢)があってもよかったように思う。 世界屈指のスムースさをもつ4気筒ターボ今回中心的に試乗したのは2L直列4気筒ターボを搭載するA5クーペ2.0TFSIクワトロと、3L V6ターボを搭載する高性能版のS5クーペ3.0TFSIの2台。いずれも日本導入予定のモデルだ。 2.0TFSIクワトロは軽快なドライブフィールが持ち味だ。先代と比べて最大60kgの軽量化を実現したボディに加え、252ps/370Nm(先代は211ps/350Nm)というパワーとトルクを発生するエンジンが軽快に吹け上がる。 4気筒エンジンとしては世界屈指のスムースさをもつこのエンジンは音質の分野でも優秀で、常用域では静かに、回していけば乾いた気持ちのいいサウンドを奏でながらトップエンドまで一気に回りきる。切れ味鋭い7速Sートロニック(DCT)を駆使して中高回転域を保ってやれば、スポーツカー的な走りを楽しむことも可能。軽快でありながら、高速コーナーではピタリとラインをトレースするフットワークの出来映えもいい。 一枚上手の刺激と感動次に乗ったのはS5クーペ3.0TFSI。3L V6エンジンはパワーと燃費をより高い次元で両立するべく、従来のスーパーチャージャーからターボに変更された。他の部分にも大幅に手が入っていて、ボルトなど一部の規格部品を除き90%以上のパーツを一新。重量も14kg軽くなっているという。 354ps/500Nm(先代は333ps/440Nm)というスペックは"S"の名に恥じないものだが、それ以上に感心したのがフィーリングだ。3Lという余裕のある排気量に加え、Vバンク間に搭載したツインスクロールターボチャージャーはほぼターボラグをゼロに抑え込んでいる。下から沸き上がるような図太いトルクはクルマ全体をより骨太に感じさせ、全体に漂うしっとりした回転フィールは質感の高さをもたらす。 もちろん、高回転域のパンチ力も文句なしだ。A5に乗っているときはこれで十分速いなと感じていたが、S5に乗れば乗ったで、やはり一枚上手の刺激と感動を味わえることに気付く。 日本導入時期は2017年春S5のもうひとつのアドバンテージがフットワークだ。サスペンションは専用チューニングのものを採用しているが、僕がいいなと思ったのはボディのガッチリ感。A5の18インチに対しS5は19インチを履き、しかも引き締まったサスペンションを組み込んでいるにもかかわらず、荒れた路面での乗り味はS5のほうが上だった。 硬いことは硬いのだが、粗さがまったくない。強靱なボディは振動を一瞬にして減衰し、不快な挙動を一切示さない。まるで固い殻に守られているかのような安心感と上質感が実現されているのだ。よくよく聞いてみると、ボディシェル自体は同じだが、S5はエンジンルーム内に補強用のバーが取り付けられているとのこと。可能ならA5にも取り付けて欲しいところだ。 新型A5/S5クーペは、美しく、モダンで、使いやすく、なおかつ走りも楽しめるとても魅力的なクーペだ。メルセデス・ベンツCクラスクーペ、BMW4シリーズ、レクサスRCといったライバルのなかでも、とりわけ内外装の質感は群を抜いている。注目の日本導入時期は2017年春。少し遅れて2L直4ディーゼルを積んだモデルも登場する予定だ。 スペック例【 アウディ A5 クーペ 2.0TFSI 】 【 アウディ S5 クーペ 】 ※欧州仕様 |
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