「らいおんハート」と呼びたくなる出来映えプジョーの308シリーズと508シリーズに、クリーンディーゼルエンジン搭載モデルが加わった。結論から書くと、力強さとレスポンスのよさを兼ね備えたプジョーの新しい心臓は、「らいおんハート」と呼びたくなるほどの出来映えだった。「BlueHDi(ブルー エイチディーアイ)」と呼ばれるディーゼルエンジンのメカニズムを解説する前に、そのフィーリングからお伝えしたい。 今回導入されるディーゼルエンジンは、直列4気筒SOHC1.6Lターボと直列4気筒DOHC2.0Lターボの2種。308にはその両方を積む仕様がラインナップされるが、508は2.0Lターボのみを搭載する。まずは1.6Lターボを搭載した「308 SW アリュール BlueHDi」のエンジンを始動する。 実は試乗会会場に到着した時、会場に出入りする各車の音を聞いて「結構、ディーゼルっぽい音がする」と感じた。駐車スペースのあちこちから、ザワザワというアイドル音が聞こえる。けれども遮音がしっかりしているせいか、運転席に乗り込んで窓を閉めるとザワザワは遠のいた。むしろ、微かな振動のほうが気になる。ただしブレーキペダルを放し、クリープ状態からアクセルペダルを徐々に踏み込み、タイヤがひと転がり、ふた転がりすると、その振動も気にならなくなった。タイヤが10回転する頃には、振動は霧散した。 大げさに言えば、第3のエンジン1.6Lディーゼルターボは、停止状態からの発進加速でもがんばっている感じを伝えない。無理なく、すっと車体を引っ張る。スペックを紹介すれば、最高出力は120ps/3500rpm、最大トルクは300Nm/1750rpm。スペック通り、低回転域から力持ちだ。 豊かなトルクとともに気に入ったのは、レスポンスのよさ。パーシャルスロットルからほんの少しだけ速度を上げるためにつま先に力を入れるような、微妙なスロットルワークにしっかり反応する。だから運転していて気持ちがいい。 ディーゼルエンジンというと、トコトコとロングドライブをするのに最適、というイメージがある。けれどもこのディーゼルエンジンに関しては、ストップ&ゴーが連続する街乗りも、アクセル操作に俊敏に反応してほしいワインディングロードも、どちらも得意。小径のステアリングホイールを操作しながら、カーブの連続を小気味良く駆け抜ける。このエンジン、従来のディーゼルエンジンとは少々性格が異なるし、もちろんガソリンエンジンとも肌合いが違う。大げさに言えば、第3のエンジンだ。 スポーツモードの勇ましさに苦笑エンジンの印象がいいのは、トランスミッションの内助の功があってこそ。EATと呼ばれる6段ATは、アイシン・エィ・ダブリュ製。変速ショックはすこぶる小さく、加速が欲しい時のキックダウンは素早い。 ちなみにEATとは「Efficient Automatic Transmission」の略で、つまり効率を上げるために開発されたトランスミッションということ。気持ちのいいドライブフィールだけでなく、21.0km/Lという優れたJC08モード燃費にも寄与しているはずだ。 スイッチを押してスポーツモードに入れた時の、後席に座っていた編集スタッフの反応がおもしろかった。「わっ!」と驚いたのだ。スポーツモードに入れるとエンジンのレスポンスが鋭くなるのに加えて、そこまでやるのかと苦笑してしまったほど、排気音が勇ましくなるのだ。けれどもスポーツモードに、このディーゼルエンジンに対するプジョーの考え方が表れている。ただ燃費がいいだけでなく、運転を楽しむためのエンジンだと考えているのだ。 次は2.0L版に試乗。あえて選ぶ理由とは?ここで、2.0Lディーゼルターボを積む「308GT BlueHDi」に乗り換える。このエンジンは最高出力180ps/3750rpm、最大トルク400Nm/2000rpmと、1.6Lディーゼルを大幅に上回る。確かに、走り出した瞬間からはっきりとパワフルで、「充分なパワーがある」というレベルを大きく超えて、俊足だ。 ピックアップに優れるという美点は1.6Lディーゼルターボと共通だから、運転が楽しい。ただし、1.6L版だって充分以上にパワフルで、1.6Lしか知らなかったらお腹いっぱい、完璧に満足していたはずだ。では、あえて2.0Lを選ぶ理由はあるのだろうか。 それは、2.0L版のほうが上質かつスポーティであるということだ。同じ加速が必要ならアクセルペダルを踏み込む量が少なくて済み、エンジンの回転数が上昇する度合いも少ない。したがって、車内は静かで平穏だ。一方、ガツンと踏み込めば、1.6L版のふた回りは上を行く、ドラマチックな加速を味わうことができる。 つまり2.0Lエンジンは贅沢品。たとえて言うなら1.6Lがカレーライスで、2.0Lが少々お高いカツカレー。懐に余裕があればカツカレーもいいけれど、ご飯もルーもおいしいからカレーライスで充分に満足できる。 病みつきになるスポーツモードの刺激付け加えると、スポーツモードでの豹変ぶりは2.0L版の方が激しい。スーパーカーのような音で走るのだ。ジャガーF-TYPEの“爆音モード”スイッチを思い出した。 最初はホントにこんなものがいるの、と疑問だったスポーツモードであるけれど、何度も試しているうちにその刺激が病みつきになっていることに気付く。同時に、ディーゼルエンジンはファン・トゥ・ドライブを表現するという、エコの次のステージに入ったのだと思い知った。実務派としてだけでなく、エンターテイナーとしての役割も求められるようになったのだ。 今回の試乗の主役はディーゼルエンジンであるけれど、改めてプジョー308というモデルの足まわりのよさを実感したことも付記しておきたい。しなやかで懐が深い乗り心地は快適で、しかも狙い通りに曲がる正確なハンドリングも備えている。まさにネコ足で、ネコ足とらいおんハートは猫科同士、相性抜群だ。 3つのステップで排出ガスを処理ここで簡単にBlueHDiというディーゼルエンジンの仕組みを紹介したい。HDiとは「High Pressure Direct Injection」の略で、コモンレール式の高圧直接噴射システムが軸となる。そして排出ガスの処理は、以下の3つのステップで行われる。 まず、酸化触媒が炭化水素と一酸化炭素を無害な水と二酸化炭素に変換する。次がSCR(選択還元触媒)。排出ガスに、「AdBlue(アドブルー)」と呼ばれる尿素水溶液を噴射し、光化学スモッグの原因となる窒素酸化物を最大で90%も水と窒素に変換する。最後がDPF(微粒子フィルター)で、PM(粒子状物質)の99.9%をキャッチする。SCRをDPFの上流(エンジン側)に配置するのはプジョー独自だという。 荷室床下のタンクに貯蔵されるアドブルーは、1年または1万km程度で点検・補給が必要で、補給には1回あたり約6000円ほどかかるという。 どっしりとした重厚感がある508最後に、短時間だが試乗した、2.0Lのディーゼルターボを積む「508 SW GT BlueHDi」の印象も簡単に記しておきたい。 308に比べると、508のほうが200kgほど重いが、それでもパワーとトルクは必要にして充分以上。活発に走らせることができる。出来のいい6ATと組み合わされることや、レスポンスがいいことも、308のディーゼルモデルと同じ。 ただ、車格が違うことで車両全体の性格が異なる。軽快な308に対して、508にはどっしりとした重厚感を感じる。508のディーゼルは、荷物を満載して地平の彼方を目指す、そんな使い方をしてみたくなる。 スペック【 308 SW アリュール BlueHDi 】 【 308 GT BlueHDi 】 |
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