4気筒直噴ターボを搭載する新ボクスター&ケイマン2016年のジュネーブショーで新型ボクスターが発表された。形式的にはフェイスリフトだが、従来の6気筒から排気量を下げて4気筒ターボ化した新開発エンジンが搭載されるのだ。続く北京ショーでも同じエンジンを搭載するケイマンがフェイスリスト。これでポルシェのミッドシップスポーツカーはすべて4気筒ターボとなった。新開発の4気筒ボクサー・ターボを試すべく、国際試乗会が開催されるポルトガルのリスボンに飛んだ。 ポルシェの4気筒ボクサーエンジンのルーツはVWビートルに遡るが、ポルシェとしては1950~60年代に活躍したミッドシップレーサー「ポルシェ718」がレジェンドだ。ポルシェはその意味を込めて、半世紀ぶりに先祖がえりしたボクスターに、コードネーム「718」を与えたのだ。 完全バランスよりも性能と燃費のバランスを優先自然吸気フラット6から4気筒直噴ターボへの変更は、パフォーマンスと燃費を同時に進化させる合理的な手段だが、非常に評判が良かった完全バランスと言われるフラット6のよどみないエンジンフィールが味わえないのを寂しく思うのは私だけではないだろう。セレブなエンジンから現実的なエンジンへの変更は、ポルシェが現実主義者に変わった証拠なのかもしれない。 エンジンを開発したエンジニアは「パフォーマンスと燃費を両立するアイディアはいくつか検討しましたが、もっとも効果が高かったのは4気筒ターボだったのです」と話してくれた。 それを聞いて私は初代ボクスターを思い出した。日本で初めてステアリングを握ったとき、2.5Lフラット6自然吸気エンジンは204psを発生していたが、同じ時期の日本のカルトカーの代表だったインプレッサWRXは2.0Lターボで280psを絞り出していたので、ボクスターの204psはパワー不足という原稿を書いた記憶がある。4気筒ターボのほうがトルクは大きくなるのでより速くなるとレポートしたのだが、今になって実現するとは想像もしなかった。2000年以降、ポルシェは自然吸気のフラット6を丹念に磨いてきたからだ。 ターボの採用と不等長エキゾーストの採用新しいボクスターには2.0Lの4気筒ターボ、ボクスターSには2.5Lの4気筒ターボが搭載される。2.0Lは911カレラの3.0Lフラット6を2気筒分チョップしたエンジンで、同じモジュールで設計、生産される。2.5Lは911ターボが採用する3.8Lフラット6(ターボ)を同じようにモジュール設計でダウンサイズしている。 ボクスターとケイマンに4気筒ターボが搭載されたことで、ポルシェは一部のモデルを除いて、オールラインターボ化を果たしたことになる。もともとポルシェはF1も含めたターボ技術に長けていて、そのノウハウを生かして多様なターボを開発してきたのだ。 ボクスターの新しいフラット4はシングルターボだが、ターボの搭載位置には苦労の跡が見える。タービンと触媒の配置はまるでジグソーパズルを組み立てるようだ。4気筒化でエンジンの全長が短くなったので前方にスペースが生まれ、進行方向左側にオフセットしてターボが配置される。その結果、右バンクと左バンクからのエキゾーストパイプの長さが異なる「不等長エキゾースト」になっている。 新しいフラット4はスバル風のドロドロ音になった!?実は2003年頃までのスバルのターボが不等長エキゾーストで、「ドロドロ」という独特のエキゾーストサウンドを聞かせていた。インプレッサのスポーツグレードのオーナーには個性的な音と聞こえていたかもしれないが、レガシィに乗る普通のオーナーには耳障りだったかもしれない。スバルは必死になって等長ターボを開発したのだった。 一方、ポルシェが今回あっさりと不等長を採用したのは、ミッドシップというレイアウトの制約があったからだが、ポルシェが独特な音をむしろ個性だと考えているという理由もある。昔のスバルの個性的な音に慣れた私には違和感がなかったが、洗練されたフラット6の音に慣れているユーザーは少し違和感があるかもしれない。 ボクスターSはニュルを7分42秒でラップ!まずはボクスターに搭載される2.0Lターボのスペックからチェックしてみよう。2.0Lターボはダウンサイジングではなくライトサイジングだという。開発段階では1.6リッターターボもテストしたらしいが、パフォーマンスと燃費で2.0Lを選択したのだ。最高出力300ps、最大トルク380Nmという数字はメルセデス・ベンツAMG A45 4マチックの2.0Lターボ(381ps/475Nm)には及ばないが、0-100km/hでは4.7秒(PDK※スポーツクロノパッケージ装着時)をマークする(A45は4.6秒)。 一方、2.5LのボクスターSはスロットルレスポンスを高めるために、991型911ターボの3.8Lターボと同じ可変タービンジオメトリー・ターボ(VTG)を採用し、最高出力350ps、最大トルク420Nmを絞り出す。0-100km/hは4.2秒(PDK※スポーツクロノパッケージ装着時)と、その速さは自然吸気時代の911カレラを彷彿させる…いや、それ以上かもしれない。というのはニュルブルクリンクのラップタイムは7分42秒! ケイマンGT4より2秒遅いだけなのだ。この速さは997前期のGT3に近い。 燃費も向上している。ボクスターとボクスターSの場合、欧州複合モードではほとんど同じ燃費なのだ(PDKでそれぞれ約14.5km/L/13.7km/L)。2.5Lのほうが高速では効率が良いのだろう。2.5LのボクスターSで約13.7km/Lは立派だ。ボクスターもボクスターSも、ギアボックスは7速PDKと6速MTが用意される。 圧倒的な加速G、鋭い旋回性、高い安定性ポルトガル軍の空軍基地でボクスターSのダイナミクスをチェックした。ボクスターSのPASM装着モデルは20mm車高が低いスポーツシャシーが与えられる。ちなみにボクスターのPASM装着モデルは10mmの車高ダウンだ。また、気になっていた不等長エキゾースト採用のエンジン音は3000回転以上ではあまり気にならず、それよりも背中をグッと押し付けるような加速Gに圧倒される。 ボクスターはミッドシップなので操縦性はリアエンジンの911よりも素直なのだが、ステアリング応答性の鋭さにはびっくりした。試乗車のタイヤは20インチだったが、リアの限界はリアエンジンの911よりも高そうだ。高速コーナーは試していないが、弱点だったリアストラットサスペンションの横剛性と、ストロークしたときの安定性はかなり改善され、20インチタイヤが生み出す大きな横力をしっかりと受け止めている。サスペンションがストロークしても高速安定性は揺るがない。 911の弟分というより個性の違いで選ぶ時代に一方、(ベースモデルの)ボクスターの試乗はワインディングロードで行われた。排気の脈動を意識しつつスロットルを踏み込むと、低い回転域では確かに昔のスバルのようなドロドロ音が聞こえてくるではないか。タービンがVTGではないので多少のターボラグを感じるが、無過給域でも普通の走りなら問題はない。ターボのクセや扱いにくさをほとんど感じないところに、ポルシェのクルマ作りの非凡さを感じる。 ただ、以前のフラット6のよどみない回転上昇の気持ちよさは過去のモノになってしまった。その代償として手に入れたのがターボの力強い加速感であり、自然吸気のときよりもはるかに低速トルクを生かしたドライブが可能になっている。その意味ではベースモデルのボクスターこそ、今回の試乗会のベストピックであった。 いままでは911の弟分としてボクスターとケイマンがポジショニングされていたが、もはやヒエラルキーというより、ポルシェがラインアップするリアエンジンモデル(911)とミッドシップモデル(ボクスター/ケイマン)という個性の違いとして受け入れることができそうだ。911カレラはよりGTカーに、ミッドシップのボクスターとケイマンはよりリアルスポーツに進化している。オールラインターボ化の背景には、そんなポルシェの戦略が見え隠れした。 スペック【 718ボクスター 】 【 718ボクスターS 】 |
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