今回は商品企画もデザインもダイハツが担当新型ブーン/パッソにおける最大のトピックは「ダイハツとトヨタの共同開発から、ダイハツからトヨタへのOEM供給モデルへ…」だそうだ。 これまでのブーン/パッソは、サイズやコンセプト、性能、価格などの設定(=商品企画)と基本デザインをトヨタが、実際の設計開発と生産をダイハツが担当する共同開発だったが、今回はそのすべてをダイハツが単独でおこなった。ただ、車名も販売体制もこれまでどおりで、供給される側(パッソ)が、供給元(ブーン)より圧倒的に売れる図式も変わりないだろう。月販目標はブーンの1000台に対して、パッソは5000台である。 内外装デザインもボディカラーも共通になったブーン/パッソもこれで3世代目で、すでに約12年もの実績がある。しかも、国内専用モデルにして、新型のコンセプトも完全なる正常進化。販売戦略でも、新規市場を開拓するというよりは、代替需要や既存客のダウンサイズに対応するのが主な任務となるだろう。つい先日ダイハツがトヨタの100%完全子会社になったこともあり、トヨタ側から見ると、今回は“丸投げ”できる条件が整ったということか(実際には、ブーン/パッソの開発は子会社化よりずっと以前にスタートしているが)。 ブーン/パッソは初代から実質ダイハツ製なので、共同開発だろうがOEMだろうが、われわれ一般ユーザーにとって特別な変化はない。ただ、今回からブーンとパッソでちがうのはバッジだけで、内外装デザインはボディカラーも含めて統一されてしまった(ラインナップ構成もグレード名以外は共通)。 クルマそのものに、どちらかを選ぶ意味が完全に消滅したのが、新型ブーン/パッソの新しさ…というか、なんとなくさびしい点ではある。 非ハイブリッド登録車トップの燃費28.0km/L先代の最後は、ブーンが1.0リッター、パッソが1.0リッターと1.3リッターの2本立てだったが、新型では両車1.0リッターのみ。FFで28.0km/Lというカタログ燃費は、非ハイブリッドの白ナンバー車トップだそうだ。 フルチェンジとしては先代(27.6km/L)からの伸びしろが物足りなく思えるのは、ダイハツでいう“イーステクノロジー”の新世代パワートレインが、一昨年の先代マイナーチェンジですでに搭載済みだからでもある。今回もさらなる改良が加えられてはいるものの、さすがにこのレベルに達すると、大幅な燃費向上は簡単でない。対する4WDの燃費向上が目立つ(従来型21.0km/L→新型24.4km/L)のは、これまで4WDにアイドルストップがなかったのが大きい。新型では4WDもアイドルストップつきだ。 後席空間やベンチシートで軽自動車に対抗プラットフォームは先代からの改良型。ホイールベースを50mm伸ばしたことで、後席のレッグルームはクラストップをうたう。このクラス最大の脅威は軽自動車で、最新の軽と比較されて「後席がせまい」との声は実際の市場からもあがっていたという。 フロントシートがベンチ風になったのも軽への対抗心だろうか。硬めのサイドサポートがけっこう盛り上がっており、ホールド性重視の意図も見て取れる。 ただ、私のように身長178cmでメタボ気味の体形だと、サイドサポート間のサイズがせますぎて、逆に姿勢が落ち着かない。シートフレーム自体は最新の軽と共通だそうだが、これまでの軽ではあまり気にならなかった。やはりブーン/パッソ独自のシート形状に原因がありそうだ。日本専用スモールカーゆえに、そもそも、私のような大柄なオッサンは想定外ということか。 小気味良く走るパワートレーン先代ブーン/パッソでは「動力性能がちょっとトロい」、「高速での安定性がイマイチ」といった少なくない声が、ユーザーから実際に届いたという。新型はその正常進化版ゆえに、そのあたりの手当はそれなりに入念だ。 昨今のCVTはとにかくスキを見てエンジン回転を下げたがるタイプが多いが、このクルマは微妙な登り坂やアクセルオンに反応して、適度な回転域を使うようにしつけられている。“超低燃費1.0リッター自然吸気”エンジンからイメージするよりは、実際のブーン/パッソは小気味よく走る。高速での追い越し加速で、あからさまにパワーが不足する感じもない。それでいて静粛性はけっこう高い。 フットワークもそれなりにしっかり感が増して、グラリというロールスピードの速さや、心もとない姿勢変化はかなり減った。安価なグレードでもスタビライザーを省略せず、単純に部品を減らすより“仕様数”を減らすことでコストを抑制。結果的に、柔らかさと安定感を両立する真面目さは、昨今のダイハツ軽にも共通する美点ではある。 乗り心地には基本設計の影響もただ、そのぶん路面からの突き上げが、けっこう素直に増していることも事実。クルマのサスペンションとは元来そういうものだが、安定性と乗り心地の両立点は、今どきのクルマとしては、正直、高いほうではない。 新型ブーン/パッソは“ミライース以降の最新軽で培ったイーステクノロジーの採用”を売りとするが、プラットフォームは前記のように先代の改良型で、その源流は初代までさかのぼる。ダイハツが東南アジアで生産するアイラ/アジアは、ミライース以降に新開発されたグローバルAプラットフォームだが、ブーン/パッソはそれとは別物という。 新型ブーン/パッソでは各部を補強して、一部にイーステクノロジーならではの軽量構造を採り入れているものの、このあたりは古い基本設計の限界なのかもしれない。 ステアリングフィールは要改善!新型ブーン/パッソの走りで、それ以上に気になったのは、雲をつかむように接地感が希薄なステアリングフィールだ。絶対的な直進性や方向安定性は及第点といっていいが、口悪くいうと、フロントタイヤがどっちを向いているかさえ、まるで実感できないというか。 それはなにも法外にぶっ飛ばしたり、コーナリングを攻めたり…という領域の話ではない。いや、そうしたいタイプの人なら、クルマ側に多少の齟齬があっても、自分で積極的になんとかするものだ。 だが、ブーン/パッソが向き合うのは、クルマに興味を失ったシニア層や、真っ白なエントリードライバーだろう。そういう人向けのクルマこそ、運転している実感をきちんと与えるものにしてあげないと、いつまでたっても運転が上達しないし、クルマの運転を好きになってもらえない。 コペンで見せた走りの思想がほしいダイハツの宿敵スズキのスモールカーは、細かな完成度に多少の高低はあっても「クルマの運転感覚はかくあるべし」といった一貫した思想が伝わってくる。グローバル市場をねらうイグニスはもちろん、ブーン/パッソと同じ日本専用車であるソリオにしてもそうだ。さらに、スズキの最新スモールカーのプラットフォームは全車がグローバルの最新型を使っているし、もっというとスズキは軽にいたるまで、味つけが統一されている。 ダイハツは軽を含めて、各車の味つけがバラバラな感が強い。まして、ブーンは事実上ダイハツのフラッグシップだ。そこにコペンで見せたような、自身の走り思想を込めないでどうする。また、件のプラットフォームも、台数がかぎられる日本専用車は従来型を改良して使ったほうが効率的なんだろうが、好き者としてはちょっとさびしい。 ライバル勢を凌ぐ充実した安全装備設定正直いうと、ここをわざわざ読んでいただいているクルマにアツい方々に、新型ブーン/パッソをオススメしようとは思わない。 ただ、あえて擁護するなら、安全装備をなにより重視する向きには、現時点でブーン/パッソが最有力だろう。ダイハツの自動ブレーキシステム“スマートアシストII”はトヨタ製のセーフティセンスCに準じる内容で、対車両なら100km/h以下で反応して、歩行者や車線逸脱も検知・警告する。サイド&カーテンエアバッグも全グレードに装着可能だ。 スズキのイグニスやソリオの自動ブレーキシステム(デュアルカメラブレーキサポート)もダイハツと同等以上の機能(たとえば対歩行者でブレーキが作動するなど)を持つが、側突系エアバッグが選べないグレードが一部に残る。また、マーチは(日産なのに)そもそも自動ブレーキの用意がなく、側突系エアバッグの選択肢も限定的。三菱ミラージュは側突系エアバッグは全車装着可能だが、自動ブレーキは車両限定かつ低速でしか効かない。 ブーン/パッソは視界性能や車両感覚に対しても真面目である。今回はボンネットの見切り性にひと工夫があるし、地味な話だが、リアワイパーの払拭面積も広い。最近のハッチバックのリアワイパーは「ついてりゃいいんでしょ!?」的なテキトーな代物が多いが、ブーン/パッソのそれは、支点をオフセットして、できるだけ広く拭き取る工夫が見られる。それに、リアウインドウそのものも大きい。 ダイハツはこういうところが真面目だからこそ、なおさらシートや操縦性の仕立てが歯がゆいのだ。ブーン/パッソはトヨタのエントリーモデルでもあり、なんだかんだいって、市場での影響力は小さくない。だから、こういうクルマでこそ、白物家電的なあきらめを意地でも否定しないと、日本の自動車市場は本当にジリ貧になると思う。 スペック例【 パッソ X“Gパッケージ”】 【 パッソ モーダ“Gパッケージ”】 |
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