当面は官公庁や関連業界へのリースのみホンダの燃料電池自動車、その名も「クラリティ フューエルセル」の販売が、ようやく開始された。但し、当面は官公庁や関連業界へのリースのみで、一般ユーザーへの販売は行なわれない。 ホンダは水素充填インフラの整備が進んでいないことを理由としているが、この手のものを欲しがる人は、不便だろうが買うわけで、現にトヨタMIRAIには納車待ちの長い列ができている。ホンダには、ここから客を奪うぐらいの気概を見せてほしかったのだが……。実際にステアリングを握り、クラリティ フューエルセルにクルマとしての魅力、そして確かな実力があることを確認できた今、尚のことそう思う。 良くも悪くも異物感のあるエクステリアそれにしても外観のインパクトは大きい。コンセプトカーの時代に較べれば、随分スマートさが薄まってしまったなとは思うが、それでも、いやそうだからこそ、とにかく目をひくのは事実だ。 何しろボディサイズは、全長4915×全幅1875×全高1480mmと大きい。最近のホンダ車に共通の鋭角的なディテール、一見ハッチバックのようなルーフラインに、リアタイヤの上側を覆ったデザインなども、かなり特徴的だ。 更に言えば、ホンダの燃料電池パワートレインの一番の特徴として、燃料電池スタックや駆動用モーターなどのシステムの主要部分が、すべてエンジン車で言うエンジンコンパートメント内に収められているおかげで、プロポーションはちょっと頭でっかち。こうした要素が相まって、良くも悪くも異物感のあるエクステリアが出来上がっている。 燃料電池スタック、駆動用モーターに、駆動用バッテリー、そして大事な高圧水素タンクをいかにレイアウトするかが、燃料電池自動車の大きな課題である。クラリティ フューエルセルを見てもMIRAIを見ても、まだまだ苦労は大きそうだ。 上質でクリーンなインテリアそれに較べればインテリアは至極クリーンにまとめられていて、また上質感もある。眼前のメーターパネルはシンプルにまとめられ、走行に必要な情報を表示。速度やナビゲーション情報の一部は、ヘッドアップディスプレイによりフロントウインドウに投影される。システムの動作状況や燃費に関する詳細な情報はダッシュボード中央のモニターに映し出すことができる。 クラリティ フューエルセルにはミリ波レーダーとカメラを使った先進運転支援装置であるホンダ センシングが標準装備される。衝突軽減ブレーキやレーンキーピングアシスト、操舵の際に歩行者の存在を認識すると、事故回避のために操舵アシストが入る歩行者事故低減ステアリングに標識認識、誤発進抑制機能など、内容は充実。更に、左側へのウインカー操作時に助手席側後方の状況をダッシュボード中央のモニターに映し出すレーンウォッチも、とても有用な機能だと感じられた。 室内は広いが、ラゲッジスペースはいまひとつ室内スペースの広さも、クラリティ フューエルセルの美点だ。前席は見た目にすっきりしているだけでなく、左右席の実際の間隔にも余裕がある。そしてMIRAIの2名に対して3名が掛けられる後席は、足元も頭上もゆったりしていて、とても寛げる。これは大きなアドバンテージとなるだろう。 一方で、ラゲッジスペースの使い勝手はあまり良くなさそうだ。9.5型ゴルフバッグ3つが入ると謳われてはいるが、高圧水素タンクが大きく張り出した形状のおかげで床にフラットな部分が少なく、大型スーツケースを収めるのは難しそうである。 広い後席に、ゴルフバッグ優先のラゲッジスペース。一般ユーザーよりも官公庁や企業での使われ方を重視した姿勢は、こんなところにも表れていると言っていいのかもしれない。 走りは好印象それはもったいないよ……と嘆かせるのは、走りの好印象ゆえのこと。おそらくボディ剛性が高く、そしてダンパーの精度も高いおかげだろう。サスペンションは動き始めからしっかりと減衰が効いたストローク感が心地よく、姿勢をフラットに保ちながらも、あらゆる入力をしっとりしなやかにいなしてしまう。敢えてザラついた路面を選んで走ってみたくなる、そんな感じなのだ。 いわゆるハンドリングも素直で、ステアリング操作に対して遅れ感無く正確に反応し、思った通りのラインで曲がっていける。車重は1890kgあるが、前後重量配分はざっと57:43辺りと悪くないのも、この走りに貢献しているのは間違いない。 肝心な動力性能はと言えば、発進の際のアクセルオンと同時にスッと立ち上がるトルク、その直後のクルマが軽く感じるほどの加速に、さすが電気モーターと感心させられる。ただ、その先の伸び感は物足りない。更に踏み込んでみてもレスポンスはそれほど敏感とは言えず、グッと背中を押されるような加速感は得にくいのだ。 すぐにでもリース以外の販売を率直に言って、MIRAIを凌ぐ177psの最高出力は実感しにくい。立ち上がりから低速域が力強い分、相対的にそう感じるだけかもしれないが、加速のリニアリティと伸び感ではMIRAIに分があると感じられた。 もう一点、気になったのがロードノイズである。足元からのゴーゴー、ゴロゴロという音が結構大きく、耳障りなのだ。EVと同様、内燃エンジンが無いだけにまわりが静かで、このロードノイズや風切り音が却って耳に届きやすいのは事実だし、ホンダ側もそれは認識しているという。しかしながら、すぐに改善するという答えをもらうことができなかったのは、一般ユーザー向けのクルマではないからだろうか? やはりクラリティ フューエルセル、すぐにでもリース以外の販売を検討してほしいと思わずには居られない。こうしたネガ潰しによろこんで協力してくれるアーリーアダプターは必ず居るはずだし、そういう声に応えてこそのホンダだろうとも思う。トヨタに先に行かれてはつまらない。 そうじゃなければ本気でクルマが磨かれてはいかないし、本気で普及させていくという意欲も見えにくいというもの。せっかくの逸材がもったいない。今回の試乗、第一弾にして高いクルマの完成度を目の当たりにして、却ってもどかしい気持ちが増すことになってしまったのだった。 【こちらもオススメ】 スペック【 クラリティ フューエルセル 】 |
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