欧州で最も売れているハイブリッドトヨタ・オーリスにハイブリッドが追加されたのは、早い話が、国内販売テコ入れの意味が大きい。 オーリスは、VWゴルフなどと真正面から競合するトヨタきっての欧州戦略車である。オーリスの欧州販売は昨年で約14.2万台。ゴルフの欧州販売は年間50万台超という怪物レベルだが、同セグメント2位のプジョー308が21万台強であることを考えると、オーリスは十分に健闘しているといっていい。 オーリスのハイブリッド版は、欧州では初代(現行オーリスは2世代目)から用意されており、欧州における販売台数は昨年で7.9万台。つまり、欧州ではオーリス全体の半分以上がハイブリッドなのだ。 ちなみに、プリウスは欧州でも販売されているが、日本からの輸入車(欧州向けオーリスは英国での現地生産)ということもあり、オーリスより装備内容を充実させた上級モデルとして、意図的に差別化されている。それもあって、オーリス・ハイブリッドの販売台数はプリウスより多いのはもちろん、より安価なヤリス・ハイブリッド(日本でいうヴィッツのハイブリッド版で、ハードウェアはアクアとほぼ共通)よりも多い。 担当者は「他社の数字を精査したわけではないので断言はしませんが…」と前置きしつつ、「おそらく、欧州でもっとも売れているハイブリッドはオーリスですね」と語った。 ハイブリッド版の発売が遅れた理由とは?対して、オーリスの国内販売は、失礼ながら、あまり冴えないのが正直なところだ。2012年の現行型デビュー当時の月販目標は2000台だったが、昨年4月のマイナーチェンジ時には、1.2リッターターボという新開発エンジンを追加したにもかかわらず、約半分の1000台に下方修正。しかし、実際の販売台数はそれをさらに下回り、昨年実績では約8000台にとどまった。月販平均にすると700台にも満たない数字だ。 オーリスのハイブリッドがこれまで国内に導入されなかったのは、日本ではプリウスの人気が圧倒的で、そのプリウスと価格や商品性で差別化しにくいオーリス・ハイブリッドは売りづらい…という判断だったからだ。事実、今回発売された国内向けオーリス・ハイブリッドの価格帯も、最新のプリウスの最低価格と最高価格の間にすっぽりとおさまる。単純にボディサイズや各部の質感、装備内容、燃費などを考えると、やはりプリウスより割高感があるのは否めない。 オーリスが国内で競合車と定めるのはマツダ・アクセラやスバル・インプレッサだが、オーリスの国内販売台数はそれらに及んでいない。いっぽうのアクセラやインプの国内販売戦略は「いかにプリウスに食い込むか?」に躍起だ。日本でのこのクラスはハイブリッドありき…の傾向が異例に強く、両車が主に国内向けにハイブリッドを用意するのもプリウス対策の意味が大きい。 そう考えると、オーリスの国内販売が芳しくない理由も、オーリス・ハイブリッドがこれまで国内販売に踏み切れなかった事情も、われわれ日本人には素直に理解できる。そして「プリウスがこれだけ売れているのだから、それでいいでしょ?」とも思う。 日本市場におけるブランド強化が急務一般的な感覚では、プリウスは海外ではゴルフ、国内ではアクセラやインプと競合するCセグメント・ハッチバックの1種だが、じつをいうと、トヨタ社内ではプレミオ/アリオンなどと同格の「ミドルクラス・サルーン」という位置づけ。そもそもオーリスとはクラスがちがうと定義されているわけだ。 そうなると実際の販売現場では、プリウスがアクセラやインプと比較されて、これらを圧倒する売り上げを誇っていても、だからといって「オーリスがアクセラやインプに負けていい」とは、少なくともトヨタ社内のロジックではならないだろう。 ただ、日本では4代目プリウスより後発のオーリス・ハイブリッドなのに、動力システムは3代目プリウスのそれと基本的に共通…というチグハグ感は、いたしかたないところだ。現行オーリス・ハイブリッドそのものは、欧州では3年以上前に発売されている。しかも、現行オーリスもすでにモデル末期に近づきつつあると思われるのに、この時期にハイブリッドを追加するあたりに、オーリス担当者の危機感が、外野から想像する以上のものがあったのだと察する。 バッテリー配置や独立式サスペンションに工夫オーリス・ハイブリッドは動力システムのみならず、プラットフォームにも3代目プリウスとの共通点が多い。その意味では旧式の部類に入りつつあるハードウェアともいえるが、3代目プリウスよりは3~4年ほど後発の商品であり、プリウスを基準に考えると、“3.5代目”と呼びたくなる程度には新しい。 たとえば、オーリス・ハイブリッドでは動力用のニッケル水素バッテリーが後席下に配置されている。この点はプリウスでは3代目ではなく4代目に近い。 リアサスペンションはダブルウィッシュボーン形式の独立式で、これもまたプリウスでいうと、半独立のトーションビームだった3代目よりは最新の4代目っぽい。もっとも、オーリスのリアサス自体は最新プリウス(TNGA)のそれとは異なる。同クラスのプラットフォームに複数のサスペンションを用意するのは、以前からトヨタの得意としてきたところだ。最近ではVWのMQBも似た手法を採るが、こうしたモジュール的な設計思想は、じつはトヨタのほうがVWより先行していたともいえる。 欧州好みにチューンされたHVシステム動力システムのスペックは、一見すると3代目プリウスと変わるところがない。ただ、当初から欧州市場を見据えたオーリスゆえに、欧州人が忌み嫌う“ラバーバンドフィール”を払拭すべく、パワートレイン特性は3代目プリウスとはちがったセッティングになっている。ラバーバンドフィール(=輪ゴムみたいな特性)とは、欧米でハイブリッドやCVTを揶揄する常套句である。アクセル操作に対して、実際のクルマがワンテンポ遅れて追いかけるように加速していくクセを指す。 この種のラバーバンドフィールは、ハイブリッドやCVTが常識の日本ではあまり問題視されないが、この日本仕様のオーリス・ハイブリッドも欧州仕様と共通のパワートレイン特性になっているという。 なるほど、パワーウエイトレシオでは最新プリウスより不利なはずなのに、オーリス・ハイブリッドの体感動力性能はそれなりに活発でメリハリがある。まあ、当然ながら、トヨタ・ハイブリッドのイメージを覆すというほどではないにしても…である。 新型プリウスやライバルに対する魅力もシャシーのデキは悪くない。スルッと大きめにロールしながら路面に食いつくシャシーの所作に、古典的な感じはあるものの、しっかりと抑制されたロールスピードや、ほどほどに正確なステアリングは、ある意味で熟成の味ともいえる。リアの独立サスとシート下バッテリーの効果はテキメンで、少なくとも先代プリウスよりは明らかにクルマの動きは正確で、さらに乗り心地もいい。 新型プリウスとの比較では、短いホイールベースのおかげか、全体に軽快で、そのわりに高速でのフラット感も大きく引けは取らない。スムーズに荷重移動しやすいシャシーのおかげで、上屋の動きは大きいかわりに、タイヤの接地感はより濃厚である。 プリウスほどエアロスタイルとしていないオーリスは、シートの着座姿勢も健康的で車両感覚もつかみやすい。インテリアの造形や仕立てはもはや古臭く、最新のプリウスやゴルフにハッキリと見劣りする部分も多いが、身体が触れる部分にことごとく柔らかいクッション部材を貼り込むなどの工夫は見られる。手数が多くて煩雑な印象はあるものの、各部の触感は総じて良好だ。 アクセラやインプのハイブリッドと比較すると、シャシーの安定感ではアクセラよりオーリスに軍配を上げたい。後席背後(のリアサス直上)にバッテリーを置くアクセラは、下りコーナーでどうしてもお尻からグラッと姿勢を崩すクセが残る。動力用バッテリーを荷室床下に置くインプは、低重心感や走りのキレ味でオーリスの上をいくが、燃費は(4WDであることを差し引いても)明らかに劣る。 走りやフィーリングで選ぶハイブリッドいずれにしても、このクラスでカタログ燃費30km/L台に達するクルマは数えるほど…というか、実質的にはアクセラも含めたトヨタ式ハイブリッド搭載車だけ。そのなかで、個人の趣味嗜好を横に置けば、商品力は客観的に新型プリウスが圧勝だ。ただ、プリウスがここまで街にあふれかえると「プリウスみたいなクルマはほしいけど、プリウスだけはイヤ」というニーズは確実に存在する。 また、前記のように、運転している実感はプリウスよりオーリスのほうが濃い。こうした微妙な乗り味や車両感覚、室内の居心地などから「プリウスではなく、あえてオーリス」という向きも、少数ながらも出てくるだろう。私個人もそのひとりかもしれない。 オーリスの国内販売テコ入れ対策には、もうひとつ、今回からトヨペット店も扱うようになったことがある(従来はネッツ店のみ)。もともとシニア好みの車種が中心のトヨペット店は、比較的若い層にもアピールできそうなオーリスを売る気が満々とか。オーリスは少なくともこれまでよりは売れるだろう。 スペック例【 オーリス ハイブリッド“G パッケージ” 】 |
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