さらにパワーアップした2017年モデルなんと来年で登場から10年となる日産GT-Rだが、その進化の道のりはまだまだ続いている。今回テストしたのは、MY16をスキップして、いよいよ発表された最新のアップデート版であるMY17。ドイツのデュッセルドルフ空港でクルマを受け取ってベルギーのスパへと向かい、更に伝統のスパ・フランコルシャン サーキットを走行するというプログラムで、その真価をじっくりと確かめることができたのだ。 このMY17 GT-R、まず気付くのは、ラジエーターグリルが大型化されていることである。狙いは冷却性能の向上だが、肝心なのは空力の改善によりドラッグを増やさずに、それを達成しているということである。 冷却性能を向上させたのは、エンジン出力が増大しているから。MY17の最高出力は従来比20ps増の570psに達している。但し、これはパワーありきではなく、全体の70%の回転域でのトルク増強の結果としての上乗せだという。ブースト圧を高めただけでなく、気筒ごとに点火タイミングを最適制御する、GT-R NISMOから転用された技術の採用も、それに大きな役割を果たしたという。 単なる化粧直しではない外観に話を戻すと、フロントまわりでは新形状のフロントスポイラー、剛性を高めて高速域での変形を抑えたボンネットの採用、そしてサイドシルやリアフェンダー後端のデザイン変更なども行なわれている。これらも、やはり空力特性改善、主にダウンフォースを稼ぐためだ。 更に、Cピラーに入れられていた特徴的な折れ線が無くなったことに気付く人も居るだろう。これは後端で起きていた乱流を消すのが目的なのだが、肝心なことは、つまりMY17のボディは丸ごと従来の踏襲ではないということである。 そう、実はMY17はルーフセクションを新設計している。特に意図したのはフロントウインドウまわりの剛性向上である。更にトランク周辺のリーンフォースも強化されるなど、もともと強固なボディが、更に鍛え上げられているのである。 これらが示しているのは、MY17が単なる化粧直しなどではないということ。GT-Rは今回も本気でパフォーマンス向上を狙っているのだ。 嬉しい成熟と悩ましい変更一方でMY17 GT-Rは“マチュア(Mature)”をキーワードに成熟、洗練といった要素も追求している。象徴的なのがインテリアの大幅な刷新で、新しいデザインのダッシュボードはこれまでのような煩雑さ、敢えて言えばおもちゃっぽさが無くなり、上質な雰囲気を醸し出すようになった。 嬉しいのが、シートの改良だ。腰を下ろすと表面の当たりが柔らかく、身体がうまく沈み込んで、しっかりと全体でサポートされているという感触が得られる。おかげでヒップポイントまで下げられたかのような安定感まで演出されていて、実に快適なのである。 気になったのは、ステアリングホイールに集められたスイッチ類が、単にずらりと並んでいるだけで使いやすいとは言えないこと。更に、ステアリングシフトパドルが、従来のコラム固定からステアリングホイール連動に改められたのも、議論を呼びそうなポイントだ。これ、敢えて変える必要があっただろうか? タッチ自体も、もう少し剛性感が欲しい。 ボディの改良が走りを変えた走り出すと、おそらくは100mも走らないうちに、コイツは違うと実感した。これまでにないほど快適性が高いのだ。サスペンションの動きが格段にしっとりとして、段差や路面の継ぎ目を乗り越える時も、ゴツッと衝撃が響くのではなく、スッと収まるようになった。 聞けば、スプリングレートもタイヤもMY15から不変だという。では、この変化をもたらしているのはと言えば、それがまさに改良されたボディだろう。全体の剛性が高まり、しかもその前後バランスがイコールに近づいたことで、乗り味を激変させているのだ。 静粛性も格段に向上した。単に静かというのではなく、余計な音が抑えられて気持ちのいい音が響くようになっている。チタンエギゾーストも、より澄んだ音色を聞かせるようになった。 なお、このエギゾーストには新たに可変バルブが組み込まれ、任意で始動時の音量を下げることも可能になっている。住環境などによって、有り難く思う人もきっと少なくないだろう。 余計な緊張感なく踏めるようになったもちろん、様々な改良は動的な質を高めることにも繋がっている。まず顕著なのは直進性が高まっていることで、轍などで進路を乱されるのが、ほぼ解消された。アウトバーンでは220km/hくらいまで試すことができたが、そんな領域でも安心感はとても高い。 ステアリングは操舵力が軽減される一方で、微小な舵角から確かな手応えを返してきて、クルマとの一体感を高めている。クルマが小さくなったかのように感じて、自信がうまれる。そんなハンドリングだ。 トルクアップしたエンジンも、やはり意のままになる走りに繋がっている。ほんの少しだけ踏み込んだ時のピックアップが良くなっているから、速度コントロールが容易で走らせやすい。しかもトップエンドまで引っ張れば、炸裂するようなパワー感が得られるのは、これまで通り。速さにも慣れて、07年のGT-Rのような驚きはないな…と最初は思ったのだが、それはとりもなおさず、手応えが洗練されて、余計な緊張感なく踏めるようになったからに違いない。 ギアボックスも、従来気になったガチャガチャという作業音が低減され、動作も格段にスムーズになった。但し、これだけトルクに余裕があるなら、特に高速道路では6速ではなく、あと1段上のギアが欲しいと思えたのも事実である。 オー・ルージュで感じた確かな進化そして、いよいよサーキットだ。スパ・フランコルシャンは自然の地形を活かした激しいアップダウンを持つレイアウトが特徴である。しかも試乗時には雨まで降ってきてしまったのだが、MY17 GT-Rはそんな状況でも、いやそんな状況だからこそ高いポテンシャルを見せつけた。 難所として知られるオー・ルージュは、全開で下った先でブレーキングしながら進入すると一気に上りに転じて、旋回しながら再び全開で駆け上がっていく。そんな場面でもGT-R MY17は、急激な荷重変化でスタビリティを失ったりすることなく、しっかりと舵が効き、トラクションもかかって、安心して踏める。ちなみにこのオー・ルージュの先のストレートでは230km/hオーバーまで到達する。ドライだったら、ブレーキにはかなりキツそうだ。 他のコーナーでも全般に、姿勢のコントロールがしやすく、深い舵角から更に操舵してもすっぽ抜けたりせず、アクセルを踏めばしっかり安定感が出てくるという具合で、初めてのスパ・フランコルシャンを、ウェット路面でも存分に楽しめた。GT-Rじゃなかったら、そうは行かなかったに違いない。 目指していた境地が見えてきたMY17 GT-Rは格段の進化を果たしていた。単に速くなったというだけではない。走りの質が高まり、ドライバーズカーとしての歓びが確実に深化している。 登場当初のGT-Rは、味など無視して速く走る道具に徹したようなクルマだった。かと言ってMY14、MY15は、単にそれを緩めただけという感もあったのだが、MY17に乗って、なるほど目指していたのは、こんな境地だったかと納得できた。 GT-Rと言えば、今でもMY13までのモデルを信奉している人は多い。それ以降は鈍ら(なまくら)になったと感じている人の気持ちは、かつて07年の最初のGT-Rを所有していたこともある筆者も、決して解らないではない。 けれどMY17は、そんな人も絶対、試してみる価値はあると断言する。雨のスパ・フランコルシャンでこれだけ走れるクルマが、鈍らなわけはない。 10年目を迎えんとするGT-Rは、ここでもう一度、飛躍してみせた。集大成? いや、これは紛れもなく、新たなストーリーの始まりである。 スペック【 GT-R 2017年モデル(北米仕様) 】 |
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