ジープ・レネゲードの兄弟先日、東京湾アクアラインの海ほたるPAに集合し、千葉・木更津の竜宮城スパホテル三日月の近くまで、今回のテスト車、フィアット500Xを走らせた。製造者でもユーザーでもない第三者の厳しい目で精査するためだ。 パーキングエリアでクルマをじろじろ眺める。黒い樹脂で縁取りした前後フェンダーモールがタイヤの大きさ(225/45R18)をより強調している。典型的なクロスオーバーモデルだ。ヘッドランプやリアコンビランプなどは、フィアットのアイコン的存在の500に寄せたデザインだが、サイズやシルエットはぜんぜん違う。そもそもプラットフォームが違うのだ。 500Xは構造的には500の兄弟ではなく、同じFCAのジープ・レネゲードの兄弟。全長4270mm、全幅1795mmと、レネゲード同様、500Xも日本市場に受け入れられやすいサイズと言えるだろう。 渋いレザーシートはなかなかドアを開けてびっくり。若々しくポップな外観の500Xなのに、目に飛び込んできたのが少しシワの入ったタバコレザー(茶色)のシートだったからだ。なんてシックなんだ! 外観はシャレた若夫婦が住んでそうなデザイナーズ物件なのに、入ってみたら街いちばんの実力者が和服で腕を組んで座ってそうな応接間のソファみたいだったようなもの。ま、でもその渋いレザーシートはブルーアバター(早い話が紺色)のボディカラーにはなかなか似合っている。 性格に見合う軽快さ500XにはFWDのモデルもあるが、試乗したトップグレードのクロスプラスは4WDだ。通常は前輪のみを駆動し、前輪がスリップするなどの必要に応じて後輪にもトルクが配分されるオンデマンド式。 パワートレーンは1.4リッター直4ターボエンジン(最高出力170ps/5500rpm、最大トルク25.5kgm/2500rpm)と9速ATの組み合わせ。吸気バルブがカムシャフトではなく電子制御の油圧ピストンで動く「マルチエア」という技術が盛り込まれたエンジンで、高効率が自慢。 実際、FWD仕様より80kg重い1460kgの車体を苦にせず、軽快に走らせる。「パワフル」とか「速い」という言葉は思い浮かばないが、このクルマの性格に見合う動力性能が備わっている。速いのが欲しければアバルトをどうぞ。9速ATは発進時に一瞬モタつくこと以外は不満なし。JC08モード燃費は13.1km/Lと平凡だが、カタログ燃費がよくたって……ねぇ。 3つの走行モードを試してみたが……走行モードをダイヤルで選ぶことができる。選択肢は「オートモード」「スポーツモード」「トラクションモード」の3つ。ただし早めにギアアップし、デフが悪路走破に適した特性になるトラクションモードを除いて、積極的に使い分けようとは思えなかった。 オートはオートと言いつつ実際には特性が切り替わっている様子が見られず、どちらかというとノーマルモードと呼びたくなるものだし、スポーツモードはスポーツモードでやたらと高回転を保ちたがるだけのように感じた。オートモードを素直にノーマルモードとし、トラクションモードとの2モードでよかったのでは? 乗り心地は40km/h以下の低速ではゴツゴツとハーシュを拾う傾向にある。225/45R18というサイズが見た目重視に過ぎるのかもしれない。まだ試乗していないが、ベーシックなFWD版に備わる215/55R17のほうが乗り心地には有利なのではないだろうか。ただ、速度を上げるに連れて安定感を増し、乗り心地も向上するのがイタリアン・ベーシックのよい伝統。このクルマも高速道路ではビシっとした安心感、安定感を感じさせた。 4WDの頼もしさを実感ところで、今回は撮影のために砂地を走行した。同行した他メーカーのFWD車と同じルートを走らせたのだが、少しでも速度を落とすとトラクションを失い、そのままスタックしてしまいそうになったFWD車と違って、4WDの500Xはグイグイ頼もしく進んだ。 たとえ簡易的なオンデマンドであっても、4WDは本当にありがたい。あなたは「舗装路しか走らないからFWDで大丈夫」と言うかもしれない。けれど、急な降雪に見舞われることもあるし、舗装路の一部が凍っていることもある。温暖な地域の人だって、期せずして泥濘地や砂地に出くわすかもしれない。そんな時の保険として4WDは実に有効だ。同じような装備の2WDに対して価格が高いし、燃費も若干悪化するが、それでもなお欲しいモデルに4WDがあったら選ぶことを広くオススメしたい。 国産車では味わえない世界観フィアット500Xは5人が不満なく乗車でき、容量はこのクラスとして標準的ながらスクエアで使いやすいラゲッジスペースをもち、(試乗したクロスプラスなら)保険としての4WDを備えたユーテリティの高いまじめなクルマだ。500の世界が好きだが、あれじゃ小さすぎるという人が選んでも失望しないだろうし、ブランド云々ではなく純粋に実用Cセグハッチとして選んでも期待を裏切られることはないはずだ。 せっかくセンターパネルにモニターがあるのにカーナビが組み込まれていないのは残念だが、操作性のよくないカーナビを無理やり組み込んで価格が跳ね上がるくらいなら、PND(ポータブル ナビゲーション デバイス)やスマホで代用するからナシで結構。その代わりフィアットには、デジタルガジェットとして優れる国産車では味わえないユニークな見た目や、車格という概念を打ち破るような走りを、この調子でもっともっと追求してほしい。 (少しは入っているのかもしれないが)公的資金でクルマをつくっているわけではないのだから「違法ではないが一部不適切」と言われるくらいに攻めたクルマづくりをFCAには期待したい。 【こちらもオススメ】 スペック【 500X クロスプラス 】 |
GMT+9, 2025-6-25 17:04 , Processed in 0.055403 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .