E46型M3のコンパクト版BMWスポーツモデルのファン、なかでも取り分けあまり大きくないモデルに興味をお持ちのフリークにとって、まさに注目の的といえるクルマが「M2クーペ」ではないか。そのM2、日本でもこの5月から納車が始まっているらしい。そこで、河口湖をベースとするBMW試乗会で、早速そのステアリングを握ってみた。 BMWファンならよくご存知のように、現在の2シリーズは少々複雑な様相を呈している。もともとは1シリーズから派生した後輪駆動の2ドアクーペおよびカブリオレと、前輪駆動ピープルムーバー系のアクティブツアラーおよびグランツアラーの、2つの系列がいずれも「2シリーズ」を名乗っているからだ。 言うまでもなくM2は前者の系列に属するクルマで、BMWの高性能車およびスペシャルカー部門たるM GmbH=M社が、2シリーズクーペをベースにして仕立て上げたハイパフォーマンスモデルである。表現を変えて、あのM3のコンパクト版、といった方が理解し易いかもしれない。 サーキット走行してもネを上げない仕立てではM2クーペ、具体的にはいかなるクルマなのか。2ドアクーペボディは、全長4475×全幅1855×全高1410mm、ホイールベース2695mmというサイズで、適度にコンパクトではあるが、前後フェンダーが大きく広げられて、標準の2シリーズクーペと比べて全幅が80mm拡幅されているのが、ルックスの上でも最大の特徴となっている。 そのフロントに搭載されるエンジンは、排気量2979ccのDOHC直6ツインスクロールターボで、その型式名はN55B30A。同排気量のM3およびM4のエンジン型式がS55B30Aだから、基本は同じパワーユニットと考えていい。ただし、パワーとトルクのスペックは431ps/7300rpmと56.1kgm/1850-5500rpmのM3/M4とは異なり、370ps/6500rpm と47.4kgm/1400-5560rpmと公表されている。 要するに、回転数を含めてM3ユニットよりややチューンが低められているわけだが、クランクシャフトのメインベアリングやスパークプラグはM4クーペのものと共通化されている他、エンジンオイルの冷却系統を入念に強化し、7段M DCTドライブロジックと呼ばれるデュアルクラッチ2ペダルトランスミッションにもオイルクーラーを備えるなどして、サーキット走行してもネを上げないパワートレーンに仕立てられている。 細部にまで至るタイトなセッティングもちろんシャシーにもMの手は及び、こちらもサーキット走行まで意識した強化が施されている。すなわち、フロントにもリアにもM4クーペと共通のアルミ製のアクスルを採用することによって、高い剛性とバネ下重量の低減の両立を図っている。 具体的には、フロントがダブルジョイントスプリングストラット、リアが5リンクのサスペンションは、同形式のスチール製と比べてフロントで5kg、リアで3kgの減量を達成している他、サーキット走行まで視野に入れたタイトなセッティングが施されている。で、そこに履くタイヤは、フロントが9Jに245/35R19、リアが10Jに265/35R19のミシュラン・パイロットスーパースポーツである。 ステアリングはMサーボトロニックと呼ばれる電動パワーアシストで、走行モードをComfortもしくはSport/Sport+に切り換えることによって、アシスト量を2段階に変更できる。ブレーキは前輪に対向4ピストン、後輪に対向2ピストンのキャリパーを備える4輪ドリルドベンチレーテッドディスクを採用し、制動力の分野にも最高を求めたという。 さらに駆動系には、電子制御多板クラッチを備えるアクティブMディファレンシャルを採用、エンジンパワーを余すところなく路面に伝えるべく、ドライビング状況や路面状況に応じて左右後輪のロッキングファクターを0-100%の範囲で自在に調整する。 M2クーペ、税込みプライスは770万円と2シリーズのなかでは最も高価だが、1075万円のM4クーペと比べると305万円もの大差がある。そこでなにやらお買い得感を覚えたとしたら、BMWの作戦に見事にハマったということだろうか? すべてが剛性感に満ちているBMWらしくカッチリと仕上げられたコクピットに収まり、身体をしっかりと支えるシートとステアリングの位置を調整すると、ドライビングポジションは適正なものに決まる。ステアリングホイールは比較的小径で、グリップは太目というMのスタイル。その裏側に、ステアリングと一緒に回転するタイプの大きめのシフトパドルが覗く。 スターターをプッシュするとエンジンは即座に目覚めて、安定したアイドリングを開始。コンソールから生えるツルンとした形状の7段M DCTのセレクターをDに送って、スロットルを軽く踏み込むと、M2クーペはスムーズに、しかし秘めたるパワーを押し殺した感じでスタートした。 そのまま河口湖周辺の一般道を走った印象は、とにかくすべてが剛性感に満ちていて、ソリッドであるというもの。ボディしかり、サスペンションしかり、ステアリングしかり、それにエンジンの回転感しかり。サーキットを攻めることまで視野に入れて開発されたモデルだということが、クルマ全体の剛性感から伝わってくる。 Comfortでも充分にソリッドまず乗り心地だが、走行モードをデフォルトのComfortのまま走り出しても、全体に硬めな印象をうける。スプリングレートがそれなりに高くセットされているからだろう。しかしだからといって、乗り心地が粗いわけではない。19インチのパイロットスーパースポーツの存在感は、剛性たっぷりなボディが見事に受け流してくれるからだ。 ステアリングの感触に関しても、まったく同様の印象をうけた。Comfortモードでもやや重めの手応えを持ち、レスポンスは適度にクイックで、しかも反応は極めて正確。これまたモードをSportに切り替えてもやや手応えが増す程度で、大きな変化は感じられない。Comfort状態でも、充分にソリッドなのである。 あの頃とは異なる味ツインスクロールターボを備える3リッター直噴ストレート6エンジンの回転感も、ボディやサスペンションの印象と見事なまでに統一が取れている。1400-5560rpmで最大トルクを発生するスペックから期待するとおり、低~中回転の実用域で軽く踏み込んでも、車重1580kgのボディを常に充分な勢いで加速させる。 その一方、低いギアでスロットルを深く踏み込むと、ストレート6らしいスムーズさを保ったまま、7000rpmから始まるレッドゾーンまで一気に回転を上げて、みるみるスピードを上げていく。0-100km/h=4.3秒の加速は伊達じゃない。ただし、エンジンの回転感やトルクの出方はあくまで直線的で、NA時代のMストレート6のような抑揚が感じられないのは、時代の成せる技というところだろう。 2ペダルの7段M DCTは、D/Sレンジでオートモードに任せても、パドルを叩いて積極的にマニュアルシフトしても、変速はスムーズかつ素早く、エンジンのパワーを無駄なく後輪に伝達する。その作動感も、クルマ全体のダイナミックな雰囲気にマッチしている。 あくまでもオンザレールそこでいよいよ、M2クーペの晴れ舞台というべき、きつい上りのワインディングロードに、Sportモードで攻め込む。2シリーズクーペのボディにM4クーペと同仕様の前後アクスルを組み込んでワイドトレッド化すると同時に、BMW後輪駆動モデルの鉄則である50:50の前後重量配分を実現したシャシーは、果たしてどんな挙動を見せるのか。 M2クーペのハンドリングの印象を端的に表現すれば、オンザレール、という言葉が相応しい。3リッター直6ターボエンジンを収めているにもかかわらず、ノーズはステアリング操作に忠実に反応して素早く向きを変え、狙ったとおりのラインを描いてコーナーに飛び込んでいく。 さらにコーナーからの脱出に際して踏み込んでも、ノーズが外に膨らむ傾向はほとんど感じられず、いわゆるニュートラルステアを保ってそこを立ち上がっていく。脱出もオンザレール感覚なのだ。2速で抜けるタイトベンドで踏み込むと、トラクションコントロール系のインジケーターが点滅するものの、テールがスライドするには至らない。 そう、公道上を良識ある範囲で攻める限り、M2クーペはあくまでオンザレールをキープする。こいつともっと淫らに戯れたいのなら、サーキットに持ち込んでくれ、というのがM社の主張なのではないかと思った。 ドライビングに死角はないのか?ならば、M2クーペのドライビングに死角はないのか、あるいはそのドライビングは猛烈に愉しいのか、BMW流にいえば、駆け抜ける歓びに満ちているのか、というと、僕は必ずしもそうは感じなかった。 ハンドリングがあまりにもオンザレール、表現を変えればニュートラルであるため、例えばコーナリング中にスロットルを閉じてもノーズが内側に引き戻されるとか、場合によってはテールがアウトに流れるとかいった現象、いわゆるタックインがほとんど発生しない。 その結果、右足の動き、すなわちスロットルのオンオフでクルマの向きをコントロールする感覚が明確に得られず、普段そういうドライビングを実践している当方などは少々物足りなく感じた、というのが正直なところではあった。 ディープな歓びはサーキットでもうひとつ、小さな不満をブレーキに感じた。絶対的な制動力はまったく充分で、踏めばすこぶる強力にスピードを殺してくれるのは素晴らしいが、僕の好みからいうと、踏み始めの反応にややオーバーサーボ感がある。軽くペダルに足を載せたつもりでも、期待する以上に強力にブレーキが効いてしまうのだ。 とはいえM2クーペ、クローズドなサーキットで心置きなく限界を超えられる状況になれば、公道で実感するのが難しかったディープな歓びを手に入れることができるのではないかと、直感的に想像できる。 この類稀なシャシーのポテンシャルを持ったクルマを手に入れた御仁は、日常的な用途に使うなどして公道でそのドライビングをエンジョイするだけでなく、ぜひともサーキットに持ち込んでみるべきではないか。そうすればM2クーペは、駆け抜ける歓びを存分に味わわせてくれるのではないかと思うからだ。 スペック【 M2 クーペ 】 |
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