911 GT3 RSよりさらに50kg軽量ドイツには「ビール純粋令」というビール製造に関する法律がある。バイエルン州で1516年に制定された法律で、ビールは麦芽(発芽させた大麦)、ホップ、酵母、水以外のものを使ってはならないと規定している。つまり口当たりを良くするために果実や砂糖、コーンスターチなどは使用してはならないと規定したわけで、その法的効力はドイツ国内では現在まで続いている。 どうやら、この考えはポルシェでも脈々と生きているようで、「走行純粋令」すなわち走るために本当に必要なモノ以外を排除したドライビング・マシーンが登場した。 911をベースにした「911 R」がそれで、ナビゲーションはもちろん、オーディオ、エアコン、リアシートも取り払われている。キャビンにはカーボン製フロント・バケットシートが2脚のみ。見えないところではボディ各所の防音材もはぎ取られているのである。 さらにフロント・トラクリッド&フェンダーはカーボン、ルーフはチタン、サイドとリアウインドウはポリカーボネートである。また、パワープラントおよび駆動系ではチタン製エグゾースト・システム、さらになんと7速マニュアルを6速に改造しているほどの徹底ぶりである。その結果、総重量は1370kgと「911 GT3 RS」よりも 50kgほど軽く仕上がっている。 ターボSを凌ぐ2.7kg/psのパワーウエイトレシオ一方、リアに搭載されるエンジンは911 GT3 RSから移植された4.0リッター水平対向6気筒で、もちろんターボではなく自然吸気、最高出力500ps(8250rpm)、最大トルク460Nm(6250rpm)を発生する。パワーウエイトレシオは2.7kg/psで、911ファミリーで最大の出力を誇るターボSの3.0kg/psさえ下回り、0-100km/hが3.8秒、最高速度は323km/hと公表されている。 実は911 Rというモデルは1967年に当時の開発担当であったDr.ピエヒが大学で学んだ航空技術を生かしておよそ800kgにまで減量、30台近くがコンペティション用に生産されたことがある。しかし開発担当のアンドレアス・プロイニンガーによれば今回の911 Rはモータースポーツの事は全く考慮されておらず、その象徴としてロールケージは装備されない。聞こえは悪いが徹底した公道レーサーである。 軽いがすべてがミリ単位で動くような操作系シュトゥットガルト空港で私を待っていた911 Rはホワイトにグリーンのストライプ、そしてボディサイドにはブラックでポルシェのロゴが並び、ややレトロな雰囲気を醸し出している。エクステリアデザインは基本的にスタンダードの911で、リアも大袈裟な固定式スポイラーなどはない。代わりにGT3から引き継がれたリアスカートからチタン製の2本のマフラーカッターと専用ディフューザーが覗いている。 レポーターに与えられたこの911 Rは、まさにそのものズバリでオプション(追加料金なし)のナビさえ付いていない。幸いシュトゥットガルト近郊は学生時代に走り回った庭のようなものなので問題はない。地図で目的地を確認すると、ポルシェの伝統に従って左手でイグニッションを回し、スタートする。 操作系はクラッチ、スロットル・ペダル、シフトレバー、ステアリングとどれをとっても思ったよりも軽いが、すべてがミリ単位で動いているような緻密さが感じられる。慎重にクラッチをミートさせると、軽やかで敏捷な加速が始まる。ポルシェ独特の正確であるが、ややストロークの長いシフトワークを楽しみながら、生憎の小雨まじりの天候下で、まずは国道を南下する。 跳ねた砂利や雨の音がダイレクトに聞こえる驚いた事にワイドタイアが路面から巻き上げた砂利や水滴が軽量フェンダーに当たる音がレポーターの耳にダイレクトに届く。 やがて雨も上がり、スロットル・ペダルを踏み込むと金属的なサウンドがキャビン内に広がると同時に、ナビ取り付け用棚の奥に置いたはずの携帯電話が飛び出すほどの強烈な加速が始まる。スピードメーターの針は日本の法定速度なぞ一瞬、ドイツの一般的な自主規制である250km/hさえあっという間に到達してしまう。 超高速走行で光るのはわずか2kgと軽量なので残された4WSシステムによる類い稀なるスタビリティと、突然、前方の追い越し車線に飛び出してくるクルマを踏みつぶさないためのカーボン・コンポジット・ブレーキである。 “操る楽しさ”を正直に追求した罪なクルマ到着後に待っていたのは、ワークショップとは名前ばかりの公道上のスペシャルステージで、かつてのWRCチャンプ、ヴァルター・ロールの後についてのカルガモ走行である。およそ150kmのカントリーロードを2時間30分で走破する。ポルシェのテストドライバーでブランド・アンバサダーでもあるロール氏はジャーナリストだからと言って手を抜かない。ウォーキートーキー(双方向無線)で遅れを優しく、時には厳しく叱咤する。当然こちらも必死で食らいつく。 高速、中速、低速コーナー、そしてアップダウンの連続するルートでの911 Rの挙動は圧巻で、路面に手で触れるような確かなフィードバックを持つステアリング、あくまでもニュートラルな操縦性が、かなりの領域までグリップ走行を可能にしている。そして、さらに速度を上げるとスポーツ・チューンされたPSMがジリジリとリアのスライドを許す。これを素早く察知してカウンターステアで修正すると、おもわず「やった!」と征服感で満たされるのだ。 ゴールに戻るとまるで軽いジョギングを終えたような爽快感が残った。この世に、自動車の本音である“操る楽しさ”を、ここまで正直に追求した罪なクルマが存在するのは嬉しい限りである。 しかし、残念ながらこの911 R はジュネーブショーでの発表直後に、18万9544ユーロというドイツでのプライスタグにも関わらず完売してしまった。日本では2629万円という価格が発表されているが、果たしてまだ入手可能かどうかは現時点では不明である。 スペック【911 R】 |
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