ひと手間かけた手直しを実施2007年春に本国発表されたフィアット500は、先ごろマイナーチェンジを受けた。これで現行500が最終的に10年以上のライフを誇る長寿モデルとなることがほぼ確実となったわけだ。 となれば、そのホット版であるアバルトも変わらざるをえないのは当然で、ベースの500に準じた変更が施されることになった。マイチェン後のアバルトも、基本的なラインナップは直近のそれから特別な変更はない。ベーシックな「500」を皮切りに、その上に「595」が3種類、そしてハイエンドモデルとして「695ビポスト」がそろう。 ただし、これらアバルトのなかでも性能と価格のバランスなどで、もっとも“らしい”といえる595コンペティツィオーネには、これを機にさらにひと手間をかけた手直しが加えられた。 パッと見には何が変わったのか分からないまず外観は新デザインのホイールに加えて、フェイスの“ヒゲ”ドアミラーカバー、ドアハンドルなど、これまでクロームメッキでアクセントとなっていた部品がつや消しグレーになったことが目につく変更点。また、今回の取材車となったダークなメタリックグレーも新色だそうである。 今回のフィアット500のマイチェンは“内装も外装もパッと見には何が変わったのか分からない”ことが良くも悪くも最大の特徴である。しかし、個人的に左ハンドルのアバルトは初体験。スポーツボタンを押した際に点灯する“SPORT”表示を含むサブメーターがメーターパネル横にインテグレートされる光景は初めて見た。 もっとも、これは今回のマイチェンによる変更ではなく、もともと左ハンドルはこういうデザインである。その証拠に、同時に試乗した2ペダル仕様(今までどおり右ハンドルのみの設定)は、別体サブメーターがダッシュ上に屹立する見慣れたデザインのままだった。 改良の大きなハイライトは2つアバルトに食指が動かされるマニア筋にとって、新しい595コンペティツィオーネのハイライトは大きく2つある。ひとつはエンジン性能のさらなる向上。最高出力が従来比20psアップの180ps、最大トルクが4.5kgmアップの25.5kgm(スポーツモード時)になったことだ。 現代のアバルトは、搭載されるエンジン性能に応じて“500”、“595”、“695”というネーミングが与えられている。これらの数字は1960年代の500ベースのアバルトにも使われていたもので、オッサンマニアの琴線をくすぐるジョークでもある。当時は文字どおりに排気量を表す数字だったが、現代版アバルトはすべて1.4リッターターボで、過給器本体と過給圧その他の制御プログラムによってチューンが分けられているだけだ。 新しい595コンペティツィオーネの180ps/25.5kgmというスペックは、かつての“トリブート・フェラーリ”や“エディツィオーネ・マセラティ”と同等……ということは、従来の695に相当するチューンとなった。現在の695(ビポスト)はそれに突きあげられて(?)、今や190ps/27.5kgmに達する。 サスペンション関連の改良はとくにアナウンスされていないが、フロント・ブレーキキャリパーがブレンボ製の対向4ピストンになったのが、マニア筋が注目すべき2つめのハイライトである。 回しがいのある古典的な味わい1.4リッターで180psを出すターボは最近ハヤリのダウンサイジング系エンジンの1種といえなくもないが、燃料噴射装置は古典的なポート式である。それでも2000rpmも回っていれば、1100kg強のスモールボディをパチンコ玉でも弾くように加速させるあたりは、いかにも現代風の柔軟性を感じさせる。 しかし、それ以上に嬉しいのは、6000rpm強のレブリミットまでトルクやレスポンスの落ち込みを感じさせずに、一気に吹けるところだ。最近の直噴ターボは5000rpmくらいでアタマ打ちとなり、中速域でグイグイ走らせようとするタイプが多いが、アバルトのそれは回しがいのある(いい意味で)古典的な味わいを残す。 この最新595コンペティツィオーネのエンジンが、従来よりもひとまわりパンチを増しているのは明らか。1年以内くらいに従来型の経験があれば、新型のパワー&トルクアップに気づくだろうな……くらいの体感差はある。 好事家ならこの“音”だけで購入動機になりうる現代のアバルトはすべて基本的に同じエンジンを積むのは前記のとおりだが、このクルマ最大の売りは、20psだの4.5kgmだのという微妙な数字よりも“音”である。 新しい595コンペティツィオーネも従来どおり専用の4本出しマフラーを備えるのだが、回転上昇に応じて“ボボボボ!”から“ギュィイイー!”と音色を変えて、最後のトップエンドでは“クワワワワーン!”とわななく。これは素直にエクスタシー。パワーだのハンドリングうんぬん以前に、好事家ならこの音だけでこのクルマの購入動機になりうる。 アバルト500系のモデルには2008年の国内発売時から何度となく乗っているが、年を追うごとに乗り心地や荷重移動のしなやかさが微妙に、しかし着実に進化しているのは本当だ。 今回も1年ほど前に乗った同モデルより、ステアリングやシートから伝わる接地感がより鮮明になり、コーナーではより自然とロールしつつも、そのロールスピードがじんわりと自然になった気がする。早い話が、より自信を持ってコーナーに飛び込みやすくなった。 どこがどう変わったのかは不明だが、ダンピングチューンが微妙に熟成されているのかもしれないし、また今回履いていたミシュラン・パイロットスポーツ3がうまくマッチングしていたのかもしれない(以前試乗した個体はピレリP-ZEROネロだった)。 3ペダルをお考えなら左ハンドルも要検討また、このクラスでは左ハンドルであることも、少なくとも乗り味だけでいえば、少なくないメリットでもある。右ハンドル(とくに3ペダルMT)ではかなり窮屈だったペダル配置も、左ハンドルではさすがにドンピシャ。ヒール&トーもバッチリだ。 さらにブレーキも、右ハンドル単独で乗るかぎりでは不満はないが、こうして直接乗り較べると、レスポンスやリニアリティの面で確実に左ハンドルが優位に立つ。 2ペダルが必須の向きは右ハンドルを選ぶしかないが、3ペダルをお考えなら、左ハンドルも検討したほうがいい。こうしてわざわざ左右ハンドルを用意してくれるあたり、フィアット・クライスラー・ジャパンはマニアの心を、よくわかっていらっしゃる。 スペック【 595コンペティツィオーネ 】 |
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