軽自動車の世界に見切りをつけた?スズキといえば軽自動車のメーカー。世間一般にそう理解をしている人は少なくないだろう。このところに限っても、アルトにワゴンR、ハスラーにスペーシア……と、なるほどスズキのヒット作は軽自動車に集中。そもそも、ダイハツとの間で長年に渡ってトップシェア争いを繰り広げてきたのがこのブランド。それだけに、”軽自動車のスズキ”というイメージは、多くの人の間に強く浸透しているのだ。 そんなメーカーがこのところ、妙に”登録車”に熱心な印象を受ける。届け出を行えば購入可能な軽自動車に対し、所有には国に対する登録が必要な、軽自動車規格を超えるものが”登録車”だ。新型ソリオにエスクードやイグニスに加え、ここに紹介するバレーノと、昨年の8月以降だけでもこれだけのニューモデルが登録車のカテゴリーに属する。 「スズキは儲けの少ない軽自動車の世界に見切りをつけ、今後はより高価で利幅の大きな登録車に力を入れるのか?」と、個人的にはそんな憶測さえ抱いてしまいたくなるほどだ。 世界を股にかけた”グローバル・コンパクトカー”試乗会の折、そんな話題を統括的な立場にあるスズキのエンジニア氏に問うたところ、「軽自動車開発の手綱を緩めるようなことはありませんから」さすがに一蹴されることに。が、仮にそんな憶測に準じたプランがあったとしても、今の段階でそれをほのめかすことは、もちろんあり得るはずもない。 いずれにしても、昨年8月以降になって続々と「軽自動車以外のニューモデル」が陽の目を見ることになっているのは紛れもない事実。そうした中にあって、インドの生産子会社「マルチ・スズキ・インディア」で生産され、日本へと初めて輸入されることが話題の5ドア・ハッチバック車が、イタリア語で「閃光」という意味の名前が与えられた、ここに紹介のバレーノだ。 「開発は日本で行い、テストやチューニングは主にヨーロッパで。生産は最新設備を備えたインド工場が担当……」という、まさに世界を股にかけたこのモデルは、全体の2/3ほどはインド国内で販売される予定であるという。一方で、それは日本やヨーロッパでもセールスを展開する”グローバル・コンパクトカー”でもあるとスズキはアピールする。 サイズや仕様からみえてくる日本市場の影響力日本では、1.2リッターの自然吸気4気筒エンジン+CVT、もしくは1リッターの3気筒直噴ターボエンジン+6速ATという、2タイプのパワーパック搭載モデルが販売されるバレーノのサイズは、全長3995×全幅1745×全高1470mm。そうした大きさが、周辺ライバル車との兼ね合いを考えた結果でもあることは想像に難くないが、全長を4m未満に抑えたのは「インドでは、税額が4mを境に大きく変わるためでもある」とは開発担当者の弁。 一方で、長さ方向はかくもコンパクトなのに全幅が1.7mを超えるのは、日本市場の影響力はさして強くないことを物語っているとも考えられる。実際、日本での販売目標台数は年間で6000台との発表で、それは月割りにすればわずか500台という計算。 にも拘わらず、7色ものボディカラーが設定されたことは「なかなか頑張っている」と評したくなる一方、装備や価格面からこちらが上位グレードであるのは明らかな1リッター・モデルのターボエンジンがハイオクガソリン仕様である点や、エコカー減税の対象とされていないことは、やはり日本市場の影響力がさして大きくはないことを示唆するものでもあるはずだ。 「上質さを強くアピールしたい」という思いを感じるひと足先に発売されたイグニスが、随所に”スズキ車らしさ”を意識したアイコンを散りばめたデザインを特徴としたのに対し、こちらバレーノのルックスは、どちらかといえばこれまでにない高いオリジナリティと、パネル面の抑揚の強さなどから従来のスズキ各車とは一線を画した、「上質さを強くアピールしたい」という思いが感じられる仕上がりだ。 日本では、140~160万円級という手頃な価格のバレーノも、そもそも「クルマといえばバイクがメイン」のインドでは、高級車であることは間違いナシ。そう受け取られる市場で、全体の2/3の台数をセールスするとなれば、やはりデザインの主眼が「際立つ上質さ」に置かれるのは当然でもあるはず。ドアトリムやコンソール、空調ヴェント周辺に光りモノをあしらったインテリアにも、同様の狙いがあるに違いない。そんなキャビン空間は、大人4人が長時間を過ごすにも不足のないもの。Aピラーが前出しされたパッケージングの影響で、空間そのものの広々感もなかなかだ。 分厚く、頑丈そうなフロアボードが採用されたラゲッジスペースは、このクラスの標準的なボリュームの持ち主という印象。リアシートは、シートバック部分のみが前倒し可能で、上下2段に設置が可能な前出フロアボードを上側にセットすると、”ツライチ”のフロア面を生み出すことが出来る。 まずは1.0Lターボ”ブースタージェット”+6速ATに試乗テストドライブは、まずは”ブースタージェット”なる愛称が与えられた、「1リッターで自然吸気1.6リッター相当の出力とトルクを実現」と謳う、新開発のターボ付きエンジン車から行った。 車両重量が1トンを下回ることもあり、スタートしてすぐに「動力性能はなかなかだな」と納得が出来る。むろん、飛び切り強力というわけではないものの、これで不足を感じる場面というのも考えにくい。 スズキのお家芸である「S-エネチャージ」はおろか、オーソドックスなアイドリング・ストップメカも装備されないバレーノだが、アイドリング状態も含め、騒音/振動面で3気筒エンジンゆえのマイナス面を感じさせないのは特筆に値する部分。同じ3気筒ではあるものの、確かに軽自動車用に対してより高い上質感が得られるのがこの1リッター・ユニットなのだ。 動力性能の好印象には、出来の良い6速ATの貢献も大きい。変速がスムーズでありながらタイトな駆動力の伝達感も気分が良い。興味深いのは、速度を下げつつあるシーンでダウンシフトのタイミングが早めなこと。そこからも、「燃費よりもドライバビリティに重きを置いたセッティング」であることが読み取れるわけだ。 魅力は半減……の1.2Lモデル一方、1.2リッター・NAモデルへと乗り換えると、正直「魅力は半減……」という印象が強かった。加速の良さを表現したいゆえか、蹴り出しだけは強いCVTは、そこから先でアクセルを踏み加えた際の「エンジン回転のみが上がって加速力が付いてこない」感覚がやはり興醒め。もちろん、実用上はこちらも十分とは思えても、比べれば大きく精彩を欠く印象は否めない。 とはいえ、現実には約20万円という価格差や減税措置の有無。そして、前出の”ガソリン問題”などを考慮すると、恐らくは「販売の主力はこちらのモデル」と、そういうことになりそう。バレーノの走りは、1.2リッター・NAモデルよりも1リッター・ターボモデルの方が、上質な仕上がりなのだ。 最新プラットフォームだが物足りなさを感じる場面もバレーノのハードウェア上の特徴のひとつは、軽自動車用とは別に開発された、新しいプラットフォームを初めて採用していること。「主要な構造や部品配置を全面的に見直し、剛性や安全性などを向上させた上で、大幅な軽量化を実現」と謳われるこのアイテムがあってこそ、1トンを大きく下回る、ライバルに大きく差をつけた軽さが実現したことは、確かに大きな見どころだ。ただし、そうした”前講釈”から想像した期待値が大き過ぎたということか、実際に走った印象としては、さほどの感激を抱くには至らなかった。 前述の軽さに加え、フレームの通し方に工夫が図られたことで前輪の切れ角が大きくとれ、ホイールベース長2520mmながら4.9mという最小回転半径を実現させたあたりはメリットが大きく現れていると言えるはず。けれども、ボディに入った振動の減衰は必ずしも素早くなく、それが時として少々軟弱というイメージにも繋がり兼ねなかったあたりが、最新プラットフォームを用いた作品としては、ちょっとばかり物足りなくも思えた。 もっとも、16インチのシューズを履いた1リッター・ターボモデルも、15インチ・シューズの1.2リッター・NAモデルも、ふんわりと優しい乗り味の中に高いフラットライド感が両立されていたのは、なかなかの好感触。いずれにしても、”インド製”であることばかりがクローズアップされるとしたら、それは「見どころを見抜いていない」ということになるスズキ発のニューカマーがバレーノでもあるのだ。 スペック【 バレーノ XG(NA車) 】 【 バレーノ XT(ターボ車) 】 |
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