ボルボの新時代が幕を開けたまずは3分でわかるボルボの近況から。ボルボは新しいプラットフォームを使った新世代商品群のお披露目モデルとして、セダンでもステーションワゴンでもなくSUVの「XC90」を選んだ。同社はセダンの車名に「S」、ワゴンの車名に「V」、そしてSUVやクロスオーバーモデルに「XC」を用いる。90はフルサイズを意味する。この後、同じプラットフォームを用いたS90やV90が登場する予定だ。 新しいプラットフォームはSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)と呼ばれる。スケーラブルとは大きさはいかようにもなるという意味で、いわゆる最近はやりのモジュラープラットフォームというやつだ。ボルボによれば、SPAの自由度は高く、ホイールベース、オーバーハング、車重、全高に制限がない。実際、90シリーズのみならず、しかるべきタイミングでモデルチェンジするその下のS60、V60、XC60もSPAを用いて開発中とのこと。40系以外はひとつのプラットフォームを自在に伸び縮みさせて作りわけるというわけだ。 また、フォードグループから中国のジーリー傘下に移った際、ボルボは選択と集中を進め、エンジンは2リッター以下の3気筒ないし4気筒しか作らず、すべて横置きすることを決めた。ボルボといえば少し前まで5気筒のみならず6気筒まで横置きするなど、ユニークなエンジン戦略で知られたが、今後は3気筒/4気筒エンジンに専念し、足りないパワーは過給器やハイブリッドシステムを組み合わせることでひねり出すことにした。 ちなみに、ガソリンのみならずディーゼルエンジンも使うが、可能な限りガソリンとディーゼルの共用パーツを増やすことで、開発費が2倍にならないよう工夫されているのがボルボの特徴だ。 そうやって節約したコストは、デザインや質感の向上に充てているのだろう。そうしたシンプルでわかりやすい戦略はどの市場でも好意的に受け止められていて、ボルボはグローバルで順調に台数を増やしている。 唯一の7人乗りプラグイン・ハイブリッド車彼らは新しいパワートレーン戦略を「Drive-E」と呼ぶ。新型XC90を例に挙げて説明すると、このモデルにはグレードに応じて3種類のエンジン(いずれもガソリン)が載る。一番ベーシックなのがT5エンジン=2リッター直4ターボで、最高出力254ps/最大トルク35.7kgm。その上のT6エンジンは2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーで、同320ps/同40.8kgm。最上級のT8エンジンは2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーに、電気モーター(同87ps/同24.5kgm)がプラスされる。どのエンジンにも8速ATが組み合わせられる。 このうち、今回は最上級の「XC90 T8 ツインエンジン AWD インスクリプション」に試乗した。車名が長いので以下はT8ツインエンジンと呼ぶことにする。ツインエンジンとは通常のエンジンと電気モーターのふたつの動力源を搭載するという意味であり、『よろしくメカドック』に登場した東條誠のツインエンジン・ピアッツァとは関係ない。 T8ツインエンジンは200Vの普通充電のみに対応したプラグイン・ハイブリッドで、バッテリー総電力量は9.2kWh。システムはシンプル。前後車軸をつなぐプロペラシャフトはなく、2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーエンジンが前輪を駆動し、モーターが後輪を駆動する。シャフトがないことを利用し、バッテリーを左右乗員間の低い位置に搭載している。そのため、ラゲッジ容量がガソリンモデルに比べ52リッター減にとどまるほか、3列目シートを備える唯一のプラグイン・ハイブリッド車なので、SUVをミニバン的に使いたいという大家族には朗報だろう。 7つのドライブモードを設定XC90の最上級モデルであり、プラグイン・ハイブリッドであることを象徴すべく、通常はレザー仕様のシフトレバーが、T8ツインエンジンに限ってクリスタルがあしらわれたものとなる。だが、そのデザインは控えめで、シートやインパネなどは落ち着いた色遣いのレザーとウッドで構成されているため、クリスタルがあるからといってインテリア全体がエステかなんかでボロ儲けした女社長の自宅リビングみたいな雰囲気になっているわけではないから安心してほしい。ちゃんと北欧テイストがある。 そのレバーを操作してドライブに入れて発進した。T8ツインエンジンには以下の7つの走行モードがある。 ・ピュアモード(モーター走行最優先) ブレーキのタッチに改善の余地ありまずはハイブリッドモード。モーターのみで発進。他のEVやPHV同様、静かでスルスルとスタートした。車速が上がるに連れ、いつの間にかエンジンが始動し、モーターの後輪駆動からエンジンの前輪駆動に切り替わる。その変化はスムーズで違和感はない。エンジン始動時の振動も気にならない。巡航時も問題なし。 ただ、緩やかな減速時に少々違和感を覚えた。一定の減速Gを出すために一定の踏力で踏み続けているつもりが、想定と異なるGの立ち上がり方をすることがあったのだ。ペダルフィーリングもスポンジーで、やや残念。 次にピュアモードを試す。テスト車のようにエアサス装着車だと、このモードに入れると車高が10mm下がる。ちなみにハイブリッドモードとパワーモードの場合は20mm下がり、オフロードモードの場合は40mm上がるなど、空力やロードクリアランスなどのためにめまぐるしく車高が変わる。じわっと変化するのではなく、モードを切り替えるとサッと変わるのでだれでも気づく。 ピュアモードでエンジンを使わず走ることができるのは最長で35.4km。7掛けとして約25km。その範囲で通勤など決まったルートを行く人には、プラグイン・ハイブリッドは素晴らしいソリューションとなるだろう。 現時点でのオススメは「T6 AWD」ところで、T8ツインエンジンの場合、他のモデル同様、通常はDレンジで走行し、アクセルオフでの回生ブレーキを強めたい場合にはレバーを後方(手前)に引いてBレンジを選ぶことができる。レバーをさらに手前に引くとギアダウンし、エンジンブレーキも強まる仕組み。レバーを前方に押すとギアアップするのではなく、Dレンジに戻るだけというのがユニーク。ギアアップはマニュアル操作できないわけだが、実用上はそれでなんの問題もない。 時間や試乗コースの都合ですべてのモードを試すことはできなかったが、今回の試乗した範囲で述べる限り、パワートレーンとエアサスの連携において、もう少し熟成が進めば、より自然で快適な乗り心地が得られるのではないか。同時にブレーキペダルのフィーリングについても現状がボルボのベストとは思えない。 現時点では、2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーのみで4輪を駆動するT6エンジン搭載車のほうが完成度が高く、満足度も高いと思う。とはいうものの、XC90は1月末の発売から約2カ月で300台を超える受注があり、今からどのモデルを注文してもデリバリーは夏以降という。次回以降の船便でやってくるT8ツインエンジンは煮詰めが進んでいるかもしれない。あわてて決めずに試乗を重ね、じっくりモデルを選ぶのがよいのではないだろうか。 スペック【 XC90 T8 ツインエンジン AWD インスクリプション 】 |
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