日本屈指のワインディングを「RS」で2015年5月にまず「S」、「S Special Package」、「S Leather Package」が発売され、同10月に走りを強化した「RS」とモータースポーツ用の「NR-A」がラインアップに加わったロードスター。その後はとくに追加モデルがない中での試乗会に参加しようと思ったのは、これまで短時間の試乗だけだった「RS」にも長く乗れること、しかも鹿児島の指宿スカイラインを走れることに魅力を感じたからだ。 以前、自動車雑誌の編集部員だった頃に日本全国のワインディングを巡る企画を担当したことがある。クルマ好きが集うと評判の有名所を20カ所ぐらいピックアップして走りに行くという何とも楽しい取材だったが、そのときに知ったのは、自動車メディア関係者にとってホームグランドといえる箱根を超えるワインディングはなかなか見つからないということだった。 適度に道幅の余裕があり、大小さまざまな曲率のコーナーにアップダウンも加わって走りがいがある。それがクルマ&走り好きからみた、いいワインディングの条件。タイトコーナー中心の芦ノ湖スカイラインと気持ちよく走れるターンパイクのコンビを誇る箱根は、ボクの知る限り日本最強だが、指宿スカイラインは単独で肩を並べるほどに面白い。 タイトなコーナーは少ないものの、リズミカルに走れるコーナーが充実していてアップダウンも多く、そして何しろ距離が長い。芦ノ湖スカイラインは約10km、ターンパイクは約15kmだが、指宿スカイラインは40km近くもあり、片道走るだけでお腹いっぱいになるほどだ。 そんなお気に入りのワインディングをロードスターで走れるのだから、何をおいても向かうしかない。ただ、少しだけ気がかりだったのは、ダイナミックなワインディングである指宿スカイラインでは、ロードスターの1.5Lエンジンが物足りなく感じるのではないかということだった。 出色のMTから離れがたくなるところがそんな心配は、天候不順による不安定な路面コンディションが覆い隠してしまった。走り始める頃には幌を開け放ってオープンエアモータリングが堪能できる天気になってはいたが、路面はウェットとドライが入り交じった状態。上り区間の直線では「もっとパワーがあってもいい」と思ったが、コーナーでは出口に向けて姿勢を整えつつ、路面に問題がないことを確認してから、ようやく右足の我慢を解き放てるぐらいだったから、物足りなさを感じることはなかった。 そして、現行のND型ロードスターでいつもながら感心するのは、MTのシフトとペダルの使いやすさだ。走り出して1つ目のコーナーから、ヒール&トゥがほぼ完璧に決まる。ペダルの横方向の間隔が適切なのはもちろん、ブレーキペダルを踏んであたった所とアクセルペダルの高さのバランス、クラッチペダルの踏力やオンオフの境目のわかりやすさなどが見事に調和していて、何も意識せずとも思い通りに使いこなせる。あまりに自然すぎて印象に残らないほどだ。 シフトはただわかりやすくてエンゲージがスムーズなだけではなく、入り口にあたって一瞬のタメがあった後に吸い込まれていく感覚が気持ちいい。ATもなかなか良くできてはいるが、MTの出色のフィーリングを知ってしまうと離れがたくなる。最近のマツダがドライバー中心の考えを徹底しているだけのことはある。 ドラポジにはちょっとした不満もただし、ドライビング・ポジションには微妙に不満がある。先代に比べるとヒップポイントは20mm下がっているが、実際に座ってみるともう少し下げたいと思わせる。ボンネットが28mm低くなっているから相対的な視覚が高く感じるからだ。 オープンカーらしさを味わわせるために開放感も大切にしているというのも要因かもしれないが、自分の好みとしてはもう少し潜り込んだスタイルにして、安心感を得ながら攻めた走りに挑みたい。 シートバックを寝かしていけばそれに近づくが、今度はステアリングが遠くなってしまって支障をきたす。テレスコピックがあればなと嘆きたくもなるが、軽さを追求するロードスターゆえ、必要十分なボディサイズに抑えているのだから致し方ない。 「S」なら初代NAのようなヒラヒラ感も試乗した「RS」のサスペンションは、「S Special Package」よりもピストン径が大きなビルシュタイン製ショックアブソーバーを採用。スプリングやスタビライザーに変更はないのだが、それでも違いは小さくなく、とくにステアリングを切り込んだ瞬間のビビッドな反応が心地いい。 指宿スカイラインがお気に入りのワインディングだと言ったものの、まだ数えるぐらいしか走ったことがないので各コーナーの曲率が頭に入っているわけではなく、ときには予想よりも奥で曲がりこんでいたなんてこともあるが、いいペースで走っていても舵の効きがいいので、落ち着いて切り増していけばノーズをググッと入れていける。硬派に走りたいドライバーにとっては歓迎するべき特性だろう。 ただし、路面の凸凹が多かったりするとややぎこちないことも。その点では、リアスタビライザーもボディ補強もトルクセンシング式LSDもなく、サスペンションがソフトな素の「S」がスムーズだ。 「S」は攻め込んでいくとアシが柔らかすぎると思わせることがあるものの、車重とパワーに対して十分以上のグリップのタイヤを履いている現状の中で、初代のNA型ロードスターのようなヒラヒラ感を出すことに成功している。 グレードによる個性の違いは明確スタビライザーやLSDに頼らず、豊かなストローク感で楽しませる「S」は、マツダのシャシーが新たな境地を開拓したことを印象付けたが、それに比べると「RS」は俊敏でスポーツカーとして正常な進化かもしれないが、個性はやや薄まる方向になる。 また、エンジンのパワーにしても、今回は路面コンディションが悪くて不足を感じなかったが、シャシーの限界が上がっていくと相対的に物足りなくなっていくことだろう。 軽いということはクルマにとって大部分が良いことではあるが、造り手にとっては難しいことも少なくない。ステアリングから伝わってくる接地感を出すのは軽くてアシが硬いほど困難になり、ちょっとしたことでバランスが変わるのでセッティングのスイートスポットは案外と狭いのだ。それを考えれば「RS」はそれなりに上手くまとめられている。 ただし、誰もが楽しめるロードスターらしさという点では、現状で「S」がもっともいい落としどころにあるのも確かだ。 スペック例【 ロードスター S 】 【 ロードスター RS 】 |
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