明らかなキープコンセプトだが…この秋の東京モーターショーで日本初公開された新しいアウディA4、皆さんの第一印象はどんなものだっただろうか。見た目は明らかなキープコンセプト。新鮮味が物足りないと思った人は、多いのでは? スペックを眺めてみても、ジャガーXEのようにアルミボディなわけでもなければ、メルセデス・ベンツCクラスのようにエアサスペンションを備えているわけでもない。きわめてオーソドックスな内容に見えて、筆者自身、「こんなにも変わらなくていいの?」と訝しく思っていたのである。 しかし会場で実車をつぶさに眺めた人は、輪郭だけでなく中身も非常に複雑な形状のヘッドライトや、どうやってプレスしたのか想像もつかないようなショルダーのキャラクターラインの複雑さ、サイドまで回り込んだボンネットとフェンダーの段差の無い滑らかな繋がりといったディテールの精緻さに気付いたはずだ。確かに新鮮さは薄いけれど、どうやらコイツは只者ではないかも……ということは、何となく察することができたのでは? とも思う。 意外と攻めている実際、このボディはセダンでCd値0.23という驚異的な空力性能を誇る。また、車両重量も最大で110kg軽くなっているという。 実際にはエントリーモデル同士の比較で、先代で1.8Lだったエンジンが新型では1.4Lになった分も含んでいたりはするのだが、それにしても高張力鋼板の使用範囲の拡大、内部構造へのアルミ鋳造パーツの多用、その他ひとつひとつのパーツのグラム単位での減量が、大幅な軽量化に繋がっていることは事実である。一見地味だが、結構攻めている。 尚、これまでもプレミアムDセグメント最大級だったボディサイズは全長が25mm、全幅は16mm、またも大きくなっている。そろそろ日本市場では、ユーザーを選びそうな領域に来ていることは事実だ。 室内空間の「○」と「×」インテリアの造形は、これまでのストイックなほどのシンプルさから、情緒や遊びといった面にも目を向けた仕上がりとなっている。好印象なのは、ドライバーズシートに座ると、思ったより大きさを感じないこと。狭苦しいわけではなく、いい意味でクルマが手のうちにあると実感させてくれるという意味である。 但し、造形はやや煩雑になってしまった感が否定できない。見切り線の類いは少なくないし、ダッシュボードからドアトリムにまで至る化粧パネルの形状なども、もっとシンプルでいいはず。何となくむりやり変化を出したような子どもっぽい感じ、無くはない。アウディに期待するのは、そういうことじゃないんだけど…。 試乗車は「Audiバーチャルコックピット」付きで、眼前のメーターパネルの代わりに置かれたLEDモニターに各種計器の状況、そして美しいカーナビゲーションの地図などを表示できた。TTではすでに導入済みだが、A4の場合はダッシュボード中央のMMIの画面は取り去られていない。開発スタッフ曰く「ファミリーカーのインフォテイメントシステムは、ドライバー以外の乗員も見るでしょう?」とのこと。確かに納得である。 正直なところ、こうして内外装を見ただけの時点では、ピンと来なかった新型A4なのだが、走らせたら印象が大きく変わった。当たり前だが、クルマはやはり走ってみなければわからない。 中身のギュッと詰まった走り味今回試乗できたのはすべてセダン。2.0Lディーゼルエンジンを積む「2.0 TDI Ultra」、新しい燃焼方式を採用した2.0Lガソリンエンジンを積む「2.0 TFSI Ultra」、そして高出力版2.0Lターボを積む「2.0 TFSI クワトロ」の3モデルである。 まず、すべてに共通して感心したのは乗り心地の良さ。ガッチガチに剛性感のあるボディに、しなやかに且つ精度感たっぷりに動くサスペンションがもたらすのは、いかにもドイツ車らしい中身のギュッと詰まった快適性である。好きな人は堪らないだろう。試乗車は電子制御ダンパー付きだったので、その分を差し引いて考える必要はあるが、逆にこれならメルセデス・ベンツCクラスのようにエアサスペンションを奢る必要は無いかも、と感じたのも確かだ。 静粛性も際立っている。こちらも、やはり二重フロントガラス付きだったとはいえ、まさかそれだけがこのA8並みの静けさに繋がっているわけではないだろう。やはりボディが、相当にいいのでは? 分かりやすいキャラクターパワートレインはどうか。最高出力190ps、最大トルク320Nmというスペックの一方で、燃費はEUモードで約20.8km/Lと、1.4Lターボ並みを実現した「2.0 TFSI Ultra」は、確かに中高回転域の力感はそこそこながら、低速域では十分に粘り強く、快適に走ることができる。日本仕様も、きっとこれがメインになるのだろう。 しかしながら一番魅力的だったのは、やはり「2.0 TDI Ultra」のディーゼルエンジンである。400Nmもの最大トルクを1750rpmから発生する優れた使い勝手を持ちつつ、高回転域まで回せばディーゼルらしからぬ、きめの細やかなビートで楽しませてくれる。しかも、こちらは6速MT仕様だったとはいえ、同じようなルートでの燃費は「2.0 TFSI Ultra」に対して何と5割増しにもなったのだ。これは間違いなく、強力な武器である。 ガソリン高出力版の「2.0 TFSI クワトロ(252ps/370Nm)」は、トップエンドでグイッと伸びるだけでなく、やはり全域で力が漲っている。吹け上がりも軽快で、スポーティな印象はもっとも強かった。キャラクター分けは、しっかり出来ている。 こんなアウディ、初めてかもしれないそして新型A4、何より頬が緩んだのがフットワークの良さだ。単に曲がる曲がらないという話ではなく、饒舌な手応えを示すステアリングを切り込んでクルマが旋回姿勢に入り、アクセルオンで立ち上がっていくまでの流れがとても素直で、思った通りに動かすことができるのである。今までのデジタル的な感触が拭えなかったA4のことは、もう忘れていい。「2.0 TDI Ultra」のFWDでも、ワインディングロードが楽しくて楽しくて、走るほどに夢中になってしまった。こんなA4、いやこんなアウディ、初めてかもしれない。 新型A4には、65km/h以下の渋滞内での走行時にステアリング操作を含めた自動運転を可能にするACC、そしてレーンキープシステムが標準装備になる。言わば半自動運転だが、そのフットワークは前述の通り、クルマ任せで走らせるのはもったいない仕上がりだ。もちろん、自らステアリングを握る時にも、衝突警告と自動ブレーキを行なう「Audiプレセンスシティ」、運転中の注意力低下を警告する「アテンションアシスト」といった先進安全装置、運転支援技術が陰になり日向になり、安全な運転をサポートするようになっている。 失われた信頼を取り戻すには…この新型A4、発売は来年2月頃になりそうだ。まずはガソリンモデルからの導入となり、将来的にはディーゼルも用意される方向だという。今回の試乗での好印象からすると、楽しみとしか言いようがない。 ……皆さんの言いたいことはわかる。VWグループのディーゼル・スキャンダルが、日本に輸入されたクルマには問題は波及していなかったとはいえ、とても見過ごすことのできないものだったのは事実。もし実際に販売となれば、当初は世間の声も厳しいものになるだろう。 それでも筆者としてはディーゼル、今回乗った「2.0 TDI Ultra」のようなモデルの早期の導入を期待したい。どうせ5年経とうと10年経とうと言われることは言われるのだ。しかし今、手元に本当に良いクルマが、堂々と胸を張って乗れる内容のクルマができているならば、それをユーザーの元へと届け、真摯に説明してほしい。 失われた信頼を取り戻すには、しっかりとした会社としての方針を示し、それをプロダクトに投影していくしか無い。それが間違いないものだったならば、世間の評価はじっくりと変わっていくだろう。時間はかかったとしても。そんな意味も含めて新型アウディA4、早期の発売開始を期待しているのだ。 スペック【 Audi A4 2.0 TFSI Ultra 】 |
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