プラザ合意が日本の高級車ブランドを生み出したインフィニティは日産のプレミアム・ブランドとして1989年11月8日、同じ和製プレミアム・ブランドであるトヨタのレクサスとほぼ同時に誕生した。ちなみにジャパニーズ・プレミアムとしてはホンダが既に、その2年前にアキュラを発足していた。 こうした高級車に対する動きは1985年にニューヨークのプラザホテルで開催された世界5カ国による為替レートの安定化、すなわち「プラザ合意」によるものであった。つまり当時巨大な貿易赤字を抱えていたアメリカ合衆国の要望で急激な円高が進められたのである。当時1ドル=235円であった交換レートはたった一日で約20円も下落、そして1年後には1ドル=150円にまで下落してしまった。2万ドルで輸出していたクルマが、最初は470万円の円貨をもたらしていたものが、1年後には300万円になってしまったわけだ。 廉価で勝負してきた日本車は「現地生産化」あるいは付加価値の高い「高級車」に移行せざるを得なくなったわけである。これはここ数年にアベノミクスによって起こった円安とは全く反対の現象だ。当時、ドイツで働いていた私は持っていたドイツ・マルクの価値が急激に下落して、日本へ来るたびに貧乏な思いをしたものであった。 昨年のドイツにおける販売台数は1015台こうした背景で日産、いやインフィニティが最初に市場に送り出したモデルが「Q45」であった。 その後、日本プレミアム「インフィニティ」は、現在は北米だけでなく、中国、ロシア、ヨーロッパで販売を展開している。その販売台数は今年の第三四半期で15万4000台をマークしているが、これは主に北米や中国市場による結果で、欧州、特に私のいるドイツでは2014年でわずか1015台、今年の第三四半期の販売台数でも841台にしか過ぎない。 ドイツの悲惨な売り上げはまだこの国にはわずか6カ所しか販売店がないという事情にもよるが、同時に販売しているモデルが「Q50」「Q70」の両セダン、あるいは「QX50」「QX70」の2台のSUVと、いずれもが中型以上のセグメントに属することに起因する。ドイツではこのクラスはアウディ、BMW、メルセデス・ベンツといったプレミアムの縄張りで、彼らの牙城を崩すのは並大抵のことではないからだ。 スマートに続くメルセデス・ルノー・日産の合作そこで、今回登場したのが「Q30」である。このモデルはインフィニティ初のコンパクト・プレミアム・セグメントを狙ったハッチバックだ。 全長約4.4m×全幅約1.8mのハッチバックセダンだが、実は、メルセデス・ベンツとルノーと日産の間で結ばれた業務提携による共同プロジェクトで完成された、「Aクラス」との兄弟車である。このプロジェクトでは、既にルノー・トゥインゴとスマートが兄弟車として開発され、将来的にもメルセデス・ベンツが日産のミッドサイズ・ピックアップ「ナバラ(NP300)」をベースにしたピックアップを開発中である。 そして今回、Q30の試乗会がポルトガルの首都リスボンで開催された。 実際に試乗してみて気になったところは?Q30の個性的なエクステリア・デザインはややビジーだが、ライバルの多いCセグメント・クラスではむしろ目立って良いかもしれない。インテリアもデザインはもちろん、使用されている材料、そして仕上げを含め十分にプレミアムを表現している。少なくとも競争力は感じられる。 注文を挙げるとすると、まずはドライビングポジションだ。一般的なセダンとSUVの間をとったというが、私はダイナミックなスポーツセダンを目指して、もっと低いポジションを選ぶべきだったと思う。また、新開発のシートは座面が短く、サイドサポートが不十分であった。 一方、Aクラスから移植されたエンジンとオプションで組み合わされているDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)はAクラスのそれよりもスムースであった。ちょっと気になったのはエンジンをはじめとするサウンドで、ハイグレードに搭載されているノイズキャンセラーによって、キャビンは非常に静かである。しかし、とくにプレミアムなスポーツセダンであれば少しはエンジンあるいはエグゾーストサウンドを楽しみたいところで、ここまでやられるとおせっかいな感じもする。 もうひとつ、ハッチバックというボディ形態からして欧州を狙ったモデルと思うが、もっとも台数が期待される北米や中国市場へはノッチバック・セダンも必要なのではないかと私は提案する。 インフィニティに足りないものは何か?最後に、ジャパン・プレミアムについてもう少し感じた事を加えておきたい。 インフィニティ、レクサス、アキュラなどの日本勢は、そもそも誕生の成り行きがジャーマン・プレミアムと決定的に違う。「良いモノを作る」のではなくて「利益率の高いモノを作る」という使命から誕生しているからだ。それゆえに「歴史」「国際性」「モータースポーツ」の3分野が欠けているのである。 まず、ダイムラー・ベンツが1886年、BMWが1916年にそれぞれ創立され、数々の伝統的なモデルが存在する一方で、創立わずか30年にも満たない“ぽっと出”には、オーナーの心に訴える、語るべき「歴史」がない。これではエモーションを喚起するのは難しい。 さらに「国際性」だが、プレミアム・ブランドには世界各国で共通の評価、評判が浸透していることが必要だ。たとえばルイ・ヴィトンのバッグはモスクワでも、ロンドンでも、東京でもブランド・イメージは共通である。プレミアム・ブランドは国際的な評価を得ていなければならないのだ。 最後の「モータースポーツ」には社会還元という目的もあるが、それ以上に技術や品質の証明という点で必要である。厳しいコンペティティブな環境で活躍する姿は、短い時間であっても評判を高めることができるのだ。 デザインの問題も残る。これは主観的な問題と片付けられてしまう傾向にあるが、それとは別に、そのブランドに「デザイン」について語れるデザイナーがいるかどうかが問題となる。プレミアムは自らが名乗るのではなくてユーザー/オーナーをはじめとする「他の人達」が決め、評判となって伝わるのである。 インフィニティ、いやジャパン・プレミアムの成功の鍵は、これまで私が語ったところにあるのだと思う。 スペック【Q30 2.0L 210ps ガソリン直噴ターボ スポーツ】 【Q30 2.2L 170ps ディーゼル】 |
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