マカンとカイエンは似て非なる存在だ私はマカンがただのコンパクトでプレミアムでスポーティな“SUV”だとは思っていなかった。「アウディ Q5」をベースにポルシェが味付けしたマカンには、兄貴分のカイエンとは同じ種族とは思えないフシがあったのだ。そして今回、「マカン GTS」に乗って「コイツはドライバーズカーに違いない!」と直感した。新型「911 カレラ」と同じ場所で開催されたマカン GTS海外試乗会から、そのスポーティな走りをレポートする。 まず、マカンの基本コンセプトをおさらいしよう。位置づけはカイエンの弟だが、そのキャラクターは大きく異なる。マカンは「アウディ Q5」、もっと言えば「アウディ A4」のアーキテクチャーで開発されているが、当然、ポルシェ独自の味付けが随所に見える。 全長4680×全幅1925×全高1625mm(GTSは4692×1926×1609mm)というサイズは、全長に対してトレッドが非常に広いワイドなフォルムが特徴だ。この広いトレッドはコーナリング性能を高めるだけでなく、ロール剛性を高くできるので、サスペンションをしなやかに使える。 最大の違いはギアボックスだ。カイエンのティプトロニック=トルコン式ATとは異なり、マカンはPDK=デュアルクラッチ式ATを採用している。これは両モデルの性格を決める上で決定的な違いを生み出す。SUVであることを重視するなら、北米ではマストアイテムのボートなどの牽引や、クロカン走行時に有利なトルコン式ATを選びたいところだ。しかし、ポルシェはダイレクト感を重視したデュアルクラッチをマカンに与えている。 カイエンと比べるとラゲージスペースはあまり広くないが、マカンはそのスペシャリティ的な性格から、あえてスタイリッシュなデザインを優先している。こうしたパワートレーンやパッケージングの違いからも、カイエンとマカンを同じ“SUV”というキーワードで括るのは、ちょっと無理があるというわけだ。 マカン ターボやマカン Sとはどう違う?マカンのエンジンは縦置きされるが、アウディ A4のエンジンレイアウトと同様に、デフの配置を工夫してエンジンをできるだけ前側に移動させている。この方法だと前輪位置が前に移動し、オーバーハングを小さくできる。 前後のオーバーハングも短いから仮にオフロードを走っても、かなりの走破性を持っていることも予想できる。実際にオフロードを試したことがあるが、カイエン並のオフロード性能には脱帽だった。 標準的なマカンには2.0L・4気筒ターボの「マカン」、3.0L・V6ターボの「マカン S」、3.6L・V6ターボの「マカン ターボ」と3つのモデルがラインアップされるが、今回試乗した「マカン GTS」のエンジンはマカン Sをベースに開発されている。 マカン GTSの3.0L V6ターボは、ターボのブースト圧を1.2バールまで高め、マカン Sよりも20ps増しとなる最高出力360psと、40Nm増しとなる最大トルク500Nmを発生し、0-100km/h加速は5.2秒、オプションのスポーツクロノパッケージでは5.0秒をマーク。一方、最強モデルのマカン ターボは400ps/550Nmのパワーとトルクを発揮し、0-100km/h加速は4.8秒。ちなみにマカン Sは340ps/460Nmを発揮し、0-100km/h加速は5.4秒となる。 直線だけならマカン ターボのほうが速いかもしれないが、ハンドリング性能に長けたGTSはサーキットでは最速のマカンとなるだろう。速さの秘密は、標準モデルのマカン比で16mm低められた全高や、引き締められたシャシー性能、よりスポーツドライブに適したタイヤの選択などにある。 走りはまるで全天候型のスポーツカーまずはヒルクライムでタイヤのスキール音が出ない程度にコーナーを攻める。実は今回、ターボ化された新型911カレラにも乗ったのだが、新型カレラは今回から「911 GT3」と同様にPDKのシフト方向が前に押すとダウン、手前に引くとアップに統一された。しかし、マカンだけは逆方向のままなので、911から乗り換えると間違えそうになるのは微妙だ。 とはいえ、ダイレクト感の高いPDKを介したV6ターボのパワーは無駄なくタイヤに伝えられる。このダイレクト感こそがマカンの真髄だし、GTSはさらにダイレクト感が高められている。視線が高いことを除けば、新型911カレラに乗っているような感覚だ。そのくらい速く走れるから、先導するイントラが乗る「GT3 RS」のテールに食らいつき、カーチェイスが出来てしまう。 マカンの走りは完全にスポーツカーの領域に片足を突っ込み、もはやSUVというよりも、ラリーカーに乗っている感じだ。兄貴分のカイエンはトルコンATなので高級SUVとして快適に走れるが、マカン GTSは全天候型のスポーツカーだったのだ。 エアサスを選べば全方位的スーパーカーが完成意識をコーナーに集中して走る。サーキットと違って公道のワインディングはエスケープゾーンがないから、コーナーの読み間違えは命取りになる。ほんの僅かなアンダーステアも許されない。(公道を走る)ラリー屋と(サーキットを走る)レース屋の走りの違いは、アンダーステアに対するシビアさだ。ラリーではアンダーステアは死を意味するから(崖から落ちるリスクが高い)、アンダーステアを極端に嫌い、むしろテールハッピーのオーバーステアを歓迎するのだ。 …ステアリングに忠実に、フロントのタイヤがグリップ限界を超えないように丁寧にターンインする。そんな時、マカン GTSのステアリングのダイレクト感と舵の正確性はありがたかったし、タイヤの限界予知性も素晴らしい。まるでスポーツカーだ。 しかし、その一方でヒルクライムでドライブしたマカン GTSが装備していたオプションのエア・サスペンションは、びっくりするくらい乗り心地がいい。タイヤのロードノイズも緩和され、キャビンに不快な音が侵入しない。ワインディングではスポーツカーのように、町中ではしなやかに快適に走れ、高速道路ではGTカーのようなキャラクターを持っている。私はこのエアサスを装備したマカン GTSの虜になってしまった。 一家に一台、道を選ばないどころか、SUVからスポーツカーまで何役もこなすスーパーカーがあるとすれば、マカン GTSをおいて他にない。人間の世界ではこんなスーパーカーを「余人をもって替えがたいヤツ」と呼ぶ。939万円という価格もアフォーダブルだと思った。 スペック【マカン GTS 】 |
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