使い方次第で燃費は「無限大」「A3スポーツバックe-tron」は、アウディ初のプラグインハイブリッド(PHEV)車だ。最大のアピールポイントとなるのは、1.4Lターボエンジンに高出力モーターと大容量バッテリー(8.7kWh)を組み合わせることで得た高い環境性能と爽快なドライブフィールの両立。JC08モード燃費は23.3km/hとなるが、プラグインハイブリッドの場合、カタログ燃費はあまり参考ならない。というのも、構造上、使い方によって燃費が激変するからだ。 ハイブリッドと違い、プラグインハイブリッドは「充電」ができ、その電力を使って走行できる。A3スポーツバックe-tronはCHAdeMOの急速充電器には対応していないが、200Vなら約3時間、100Vでも約9時間でフルチャージになり、JC08モードで52.8kmのEV走行ができる。運転の仕方や道路状況、空調の使用状況などにより変化はあるものの、充電さえしておけば実走行でも30~40km程度ならエンジンをかけずに済むということだ。 またEV走行時の最高速度は130km/hに達するから、たとえ高速道路に足を踏み入れたとしてもエンジンの出番はない。当然ながらそういった状況下でのガソリン使用量は「ゼロ」となり、燃費は「無限大」となる。 電欠の心配がないEVとして使えるこのように、買い物や通勤といった日常使いではEVとして振る舞うのがプラグインハイブリッドの面白いところだ。加えて、バッテリーを使い果たしてもエンジンを始動して走行を続けられる安心感が、EVに対するプラグインハイブリッドの優位点となる。 EVの場合、航続距離の残りが少なくなったら充電スタンド探しにかなりハラハラさせられるが、プラグインハイブリッドなら心置きなくバッテリーを最後まで使いきれる。片道20km程度のドライブならガソリンを一滴も使わずに済み、なおかつ週末のロングドライブにも余裕で対応。また、郊外ではエンジンを使い、都市部ではEVにすることで、人口密集地域の大気汚染にも貢献する。これがプラグインハイブリッドの魅力だ。 価格差をどう捉えるか?もちろん、いいことばかりではない。プラグインハイブリッドは、ハイブリッド車には必要のない高出力モーターや大容量バッテリー、EVには必要のないエンジンやトランスミッションを積む必要があるため、どうしてもコスト高になる。 逆に言うと、性能とコストを天秤にかけつつバランスをどう取るかがメーカーの腕の見せ所になるわけだが、A3スポーツバックeーtronの価格は564万円と、高性能モデル・S3スポーツバックの599万円に迫る。補助金が最大61万円支給されるが、それでも決して安くはない。 プラグインハイブリッドという括りで考えるなら、先のマイナーチェンジで大幅に商品力を引き上げてきた三菱アウトランダーPHEV(359.6~459万円)のほうがコストパフォーマンスは明らかに上だし、プラットフォームとパワートレーンを共有するゴルフGTE(499万円)との価格差も補助金込みで42万円ある。アウディが展開する自宅用充電設備工事費15万円サポートを差し引けば差額は縮まるが、ゴルフGTEも強力なライバルになるだろう。 また、方向性は異なるものの、EVに発電用小型エンジンを搭載したBMW i3(546万円)と比較検討する人も少なくないはずだ。 アウディクオリティ+PHEVという付加価値そんななか、A3スポーツバックe-tronの魅力となるのは、やはりクルマとしての「素」の実力の高さだろう。平滑で厚みのある美しい塗装や緻密なボディワーク、クールなインテリアなど、そこにあるのは紛れもないアウディワールド。 まずはじめに「アウディ」があり、そこにプラグインハイブリッドという付加価値が乗っかる。そんなスタンスにシンパシーを感じる人の目に、A3スポーツバックe-tronは大いに魅力的に映るに違いない。 そう考えると、ノーマルA3スポーツバックとの外観上の差別性をあえて小さくしてきたのも頷ける。そして実際にドライブすると、その魅力はさらに輝きを増すことになる。 遮音性の高さがEV走行の魅力をアップ走行モードは合計4種類。バッテリーからの電力を使いエンジンをかけずにモーター走行する「EV」、モーターとエンジンをバランス良くミックスする「ハイブリッドオート」、バッテリー残量を維持しながらハイブリッド走行する「ハイブリッドホールド」、充電しながら走る「ハイブリッドチャージ」。用途に合わせ、ドライバーが任意に選択できる。 「EV」モードでは基本的にエンジンはかからないが、それでも動力性能は十分だ。信号待ちからの発進加速を含め、街中の交通の流れに乗る程度なら朝飯前。その気になれば交通の流れをリードすることもできる。モーター特有の継ぎ目のない加速は本当に気持ちがいい。 エンジン音によるマスキング効果が期待できない分、EV走行では風切り音やタイヤ音が気になりがちだが、その点に関してもA3スポーツバックe-tronは抜かりない。ほぼ無音で街中をクルーズする快感は格別だ。 EVモードではフルスロットルでもエンジンはかからないが、キックダウンスイッチ(アクセルペダルが重くなったところからさらに踏み込む)を作動させれば、瞬時に1.4Lターボエンジンに火が入り、エンジンとモーターがタッグを組んだ鋭い加速が始まる。高速道路への流入や追い越しの際には非常に有効な仕組みである。 スムーズかつスポーティな走りも楽しい「ハイブリッドオート」モードでの走りはかなりスポーティーだ。204ps/350Nmというシステム出力が生みだす絶対的な加速性能もさることながら、アクセルを踏み込んだ直後のビビッドな反応はスペック以上の驚きをもたらす。ターボエンジンのわずかな応答遅れを、応答遅れのないモーターが上手に補った結果だ。 6速デュアルクラッチ式トランスミッションをベースに、エンジンとモーター間にもうひとつクラッチを加えたトランスミッションの制御も見事。全開加速時はもちろんのこと、低速域でアクセルを煽るような意地悪な運転をしてみても、ギクシャクした動きを見せることはない。この滑らかで、かつ力強いパワーフィールも、A3スポーツバックe-tronの大きな魅力である。 緻密な作りこみはフットワークに現れているはじめにアウディクオリティがあり、そこにプラグインハイブリッドの魅力が乗っかったのがA3スポーツバックe-tronである……と先に書いたが、それはフットワークにも当てはまる。 ベースモデルに対して重量は200kg近く重くなっているが、アウディらしい軽快な身のこなしとスムースな乗り心地は一切スポイルされていない。かなり入念に再セットアップをしなければ、こうした味は絶対に出ない。この部分だけをとっても、ありものを単にプラグインハイブリッド化しただけでなく、緻密に作り込まれたモデルであることがわかる。 商品としてのわかりやすさでいけば、内外装に鮮やかなブルーをあしらったゴルフGTEや、全身で新世代感をアピールするBMW i3、また4WDでありながら驚くべき低価格を実現したアウトランダーPHEVに軍配があがるだろう。しかしこの「わかりにくさ」、言い換えればオーナーと、その他ごく一部の人にしか内面の魅力をアピールしない奥ゆかしさが、逆説的ではあるけれど、A3スポーツバックe-tronの独自性と言えるのかもしれない。 PHEVの「ベンチマーク」になり得るディーゼル不正問題を契機に、VWグループはパワートレーンの「電動化」をさらに加速していく方針だ。もちろん、内燃機関の開発をストップするわけではないが、持続可能なモビリティに向けた有力な選択肢のひとつとして、電動化のプライオリティは間違いなく引き上げられる。 とはいえ、航続距離やインフラに不安を抱えたEVがいきなり主流になるとは考えにくい。そういう意味で、VWに限らず、プラグインハイブリッドが近未来パワートレーン戦略の主要な柱のひとつになっていくのは間違いないだろう。 実際、ディーゼル不正問題とは関係のないボルボも、全モデルにプラグインハイブリッドを設定する方針。デビュー直前の新型プリウスにも、現行モデルに対し大幅に進化したプラグインハイブリッド版が加わるだろう。価格の高さというネックはあるが、内燃機関、ハイブリッド、EVのいいとこ取りを実現した新しいジャンルとしてプラグインハイブリッドは要注目だ。 そんななか、アウディA3スポーツバックe-tronは、そのハードウェアの完成度において、間違いなくベンチマークとなり得る存在である。 スペック【 A3 Sportback e-tron 】 |
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